オペアンプの高精度と高速性能は、消費電力に直接関係します。電流消費を削減することでゲイン(利得)帯域幅が減少する一方、オフセット電圧の減少により電流消費は増加します。

オペアンプの電気特性間に生じるこのような作用の多くは、互いに影響します。ワイヤレス・センシング・ノードやIoTビル・オートメーションなどのアプリケーションで低消費電力化のニーズが高まる中、消費電力を極力抑えたエンド機器で最適な性能を確実に引き出すために、これらのトレードオフを理解することは不可欠です。今回は、高精度なナノパワー・オペアンプのDCゲインにおける電力対性能のトレードオフについて解説します。

DCゲイン
まずはオペアンプの典型的な反転ゲイン構成(図1)と非反転ゲイン構成(図2)についてから見ていきましょう。

 

 

 

 

 

 

図1:反転オペアンプ

図2:非反転オペアンプ

これらの構成はそれぞれ、反転と非反転のオペアンプ・クローズドループ・ゲインの方程式(1、2)になります。

フィードバック・レジスタ値をクローズドループ・ゲインとする場合は方程式1、入力負端子から信号(反転)または接地(非反転)に向かうレジスタ値をクローズドループ・ゲインとする場合は方程式2となります。

これらの方程式は、DCゲインがレジスタ値ではなくレジスタ比に基づいていることを思い出させます。また、消費電力の法則およびオームの法則から、レジスタ値とワット損の関係も示しています。(方程式3)

Pはレジスタの消費電力で、Vはレジスタ全体の電圧降下、Iはレジスタを通る電流を示します。

ナノパワー・ゲインと電圧分配器の構成に関しては、方程式3から、ワット損を最小限に抑えるには、レジスタにより電流消費を最小化する必要があることがわかります。方程式4から、この仕組みがお分かりになると思います。

Rはレジスタ値を示します。

これらの方程式を用いれば、ワット損を最小化(消費電力を最小限に抑える)しながら、必要なゲインを得るには、大きなレジスタ値が必要なことがわかります。フィードバック・パスを通る電流を最小化しなければ、ナノパワー・オペアンプを使用する利点が失われるのです。

必要なゲインと消費電力を満たすレジスタ値を特定できたなら、次は信号状態の精度に影響を及ぼすその他のオペアンプ電気特性についても考える必要があります。理想的でないオペアンプに内在するいくつかの小さなシステム・エラーを合計することで、全体のオフセット電圧を計算できます。この電気特性は、オペアンプ入力間の有限のオフセット電圧として定義され、特定のバイアス・ポイントでこれらのエラーを示します。注意すべき点は、これらのエラーは全ての動作条件で示されるわけではないということです。エラーを明らかにするには、ゲイン・エラー、バイアス電流、電圧ノイズ、同相除去比(CMRR)、電源除去比(PSRR)、およびドリフトを考慮する必要があります。これらのパラメーターのすべてを変換することが目的ではありませんが、ナノパワー・アプリケーションにおける影響について少しだけ詳しく見ていきましょう。

実際のオペアンプは入力端子全般に露出しており、これは低周波(DCに近い)の高精度な信号調整アプリケーションで問題を引き起こすことがあります。電圧ゲイン構成では、信号が調整されるに従いオフセット電圧が上昇し、計測エラーの原因になります。また、その大きさは、時間と温度(ドリフト)により変化する可能性があります。このため、かなり高解像度の計測を必要とする低周波アプリケーションでは、可能な限り低いドリフトの高精度なオペアンプ(1mV以下)を選択することが重要です。

方程式5は、温度変化による最悪のケースを計算します。

これまで、大きなレジスタ値を選ぶことで、低周波アプリケーションのゲイン比とオペアンプ精度を高めるといった話をしましたが、これから2リード電気化学セルを使用した実例を用いて解説します。低周波数のとても小さな信号を放出し、ガス検出や血糖値モニタリングといった様々な携帯型センシング・アプリケーションで使用される2リード電気化学セルには、低周波(<10kHz)のナノパワー・オペアンプを選択する必要があります。

酸素センシング(図3参照)をアプリケーション例とし、センサー出力の最大濃度を(メーカー専用の負荷抵抗器によって電流から電圧に変換された)10mVとし、オペアンプの最大出力を1Vと想定します。方程式2を用いることで、100倍大きなレジスタ値が必要なことがわかります。それぞれ100MΩと1MΩの値を選択することで、101のゲインを得られ��電流を制限し、消費電力を最小限に抑えるのに十分なレジスタ値を得ることができます。

オフセット・エラーの最小化には、ゼロドリフトのナノパワー・オペアンプである『LPV 821』が最適な選択肢です。方程式5を用い、動作温度の幅を0°Cから100°Cと想定した場合、このデバイスによる最悪のケースのオフセット・エラーは以下となります。

もう一つの最適な選択肢は高精度なナノパワー・オペアンプである『LPV 811』です。そのデータシートから必要な値を方程式5に当てはめることで、以下の結果を得られます。

注:『LPV 811』のデータシートは最大オフセット電圧のドリフト限界を明記していないため、ここでは典型的な値を使用しています。

その代わりに『TLV 8541』のような汎用ナノパワー・オペアンプを使用すると、結果は以下となります。

注:『TLV 8541』のデータシートは最大オフセット電圧のドリフト限界を明記していないため、ここでは典型的な値を使用しています。

ご覧のとおり、『LPV 821』オペアンプはこのアプリケーションに最適な選択肢となっています。650nAの電流消費の『LPV 821』は、酸素センサーの出力の変化を18µV以下まで検知でき、わずか2.3mVの最大オフセット・ゲイン・エラーを提供します。極めて高い精度とナノパワー消費の両方が必要な場合は、ゼロドリフトのナノパワー・オペアンプが、実現し得る最高の性能を提供するでしょう。

参考情報

※上記の記事はこちらのBlog記事(2017年12月6日)より翻訳転載されました。

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