迅速性が求められる一方で、より高まる性能要件に対応するためには、最初から適切な回路設計を行うことが重要であり、アナログおよびミックスド・シグナル業界の多くのエンジニアが、設計の成功率を上げるためにシミュレーションを活用しています。しかし、回路シミュレーションの精度は使用するモデルによって決まります。重要度の高い設計では、データシートで保証されている仕様にモデルが一致しているかどうかを確認することが大切です。

この一連の記事では、すべての主要オペアンプ仕様やそれらがアプリケーション性能に影響する仕組み、テスト回路設計を支える手法など、オペアンプ用の包括的なシミュレーション・テスト・ベンチを提供します。

開ループ出力インピーダンス – Zo

最も重要(にもかかわらず見落とされがち)なオペアンプ特性の1つが、開ループ小信号AC出力インピーダンスであり、小信号安定性解析を実行する場合や、アナログ/デジタル・コンバータ(ADC)の駆動などで小信号出力負荷トランジェントを処理する場合に特に重要になります。出力インピーダンスの詳細に進む前に、まずはいくつかの用語の定義を見ていきましょう。

このシリーズを通して、用語Zoはオペアンプの開ループ小信号AC出力インピーダンス、Zoutはオペアンプの閉ループ小信号AC出力インピーダンスを表します。これら2つの用語を区別することが重要なのですが、その理由は後ほど説明します。残念ながら、アナログ半導体業界にはこれらの用語に関する業界標準が存在しないようで、各メーカーのデータシートにはZo、Zout、Ro、Routといった用語がやや一貫性なく使用されています。

Zoは、開ループ・ゲイン段(Aol)と出力ピン(Vout)の間に生じるオペアンプの小信号パス上のインピーダンスです。このインピーダンスとAolの周波数ごとの相互作用によりオペアンプ全体のAC応答が形成されます。図1には、オペアンプ小信号モデル内のZoを簡略化して示しています。

 図1:オペアンプ小信号モデル(開ループ)の概略図

このモデルでは、オペアンプの入力抵抗(Rdiff)の両端に差動入力信号(Ve)が発生します。VeはAolによって増幅され、目標とする出力電圧(Vo)が���成されます。この電圧は、Zoを介して出力ピン(Vout)に現れます。

Zoはオペアンプの出力段の特性です。今より単純な設計のバイポーラ・アンプが市場を独占していた頃は、ほとんどのデバイスの開ループ出力インピーダンスが抵抗性で、全周波数にわたって一定でした。現在のZoは、容量性領域、誘導性領域、抵抗性領域を含む非常に複雑な特性となる場合があり、周波数の変化に伴い急激なロールオフが発生します。これは、レール・ツー・レール入出力、高い開ループ・ゲイン、高い同相除去率、低ノイズ、低消費電力などの現在の顧客ニーズに、アナログIC設計者がさまざまな手法を用いて対応した結果です。

図2では、従来型の出力段設計を使用したテキサス・インスツルメンツの最新型バイポーラ・アンプ、『OPA 202』と、非常に高いDC精度やレール・ツー・レール出力を備えた相補型金属酸化物半導体(CMOS)アンプ、『OPA 189』の開ループ出力インピーダンスを比較しています。『OPA 202』のZo曲線が抵抗性の性質を示しているのに対し、『OPA 189』のZo曲線は異なる周波数領域にわたって容量性と誘導性の性質を交互に示している点に注目してください。

 図2:開ループ出力インピーダンス:OPA 202OPA 189

オペアンプのメーカーによるZoのモデル化が正確でない場合、オペアンプ・シミュレーション・モデルの全体的な小信号AC動作は、安定性分析用としては不正確で信頼性の低いものになります。ただし、モデルのZoがデータシートに一致しているかどうかは簡単に確認できます。図3は、推奨されるテスト回路を示しています。

 図3:開ループ出力インピーダンスのテスト回路

このテスト回路では、インダクタL1がDC時の閉ループ帰還を形成しながら開ループAC分析も可能にし、コンデンサC1はAC時の反転入力をグランドに短絡してノードがフローティングになるのを防いでいます。オペアンプは、Voutが小さなオフセット電圧に等しくなる線形動作領域(図3を参照)内で動作していなければなりません。制限を超えることがないよう、電源電圧と同相電圧は常にチェックしてください。

AC電流源Ioutはオペアンプ出力を逆駆動するので、結果としてVoutに生じる電圧を測定することにより、式1に示すように、オームの法則を使用してZoを計算できます。 Ioutには1AのAC電流源を使用しているので、Zoは単純にVoutと等しくなります。Zoをプロットするには、AC伝達関数を必要な周波数範囲にわたって実行し、Voutの電圧をプロットします。シミュレータの多くは結果をデシベル単位で表示するようデフォルトで設定されているので注意してください。対数スケール上に測定結果をプロットした場合、VoutはΩ値に等しくなります。では、この回路を使用して『OPA 189 SPICEモデル』のZoをテストしてみましょう。

 図4:OPA 189のZo結果

この場合、オペアンプのZoはデータシートの曲線に対して非常に厳密にモデル化されており、小信号分析に使用することで、実環境でのデータに一致する結果が得られます。

閉ループ出力インピーダンス – Zout

閉ループ出力インピーダンスZoutは、オペアンプが負帰還を使用した閉ループ構成になっている場合に、そのオペアンプの出力に見られるインピーダンスです。オペアンプに固有の特性で負荷や帰還の変動時にも(大部分は)変化することがないZoとは異なり、ZoutはZo、Aol、および帰還回路によって設定される帰還係数βの関数です。

では、図5に示す閉ループ回路に拡張されたオペアンプ小信号モデルを、もう一度見ていきましょう。

 図5:オペアンプ小信号モデル(閉ループ)の概略図

式2に示すように、オペアンプ・ループが閉じられても、出力インピーダンスはVoutをIoutで除算した値に等しくなります。挙動をより深く理解するために、他の回路素子の関数としてZoutを求めることもできます。 帰還係数βは帰還ノードに生じる電圧Vfbと出力電圧Voutの比率です。次の式3に使用されている標準的な分圧抵抗式で、Vfbの電圧を計算します。 オペアンプの非反転入力はグランドに接続されているので、Ve、つまりオペアンプ入力ピン間の誤差電圧はVfbに等しくなります。式3の各項を変形すると、次の式4に示すように、VfbがVoutとβを乗算した値に等しくなることがわかります。 VeがオペアンプのAolによって増幅され、Voが生成されます。Veはオペアンプの反転入力では正電圧ですが、非反転入力はグランドに接続されているので、次の式5に示すように、負符号を追加することで正しい極性が保持されます。 出力電流Ioutによって引き起こされるZoでの電圧降下にVoを加算することにより、式6で出力電圧を計算できます。この手順では、計算を簡略化するため、すべてのIoutがZoを介して流れるように出力インピーダンスが帰還回路のインピーダンスより大幅に低くなっていると仮定しています。 式5を式6のVoに代入すると、次の7が得られます。 式4を式7のVeに代入すると、次の式8が得られます。 この式を変形してすべてのVout項を左辺にまとめると、次の式9が得られます。 式の左辺をVoutに関して因数分解すると、次の式10が得られます。 式の両辺を(1 + β * Aol)項で除算すると、Voutの新しい定義である次の式11が得られます。 式11を式2に代入すると、Zoutの定義である次の式12が得られます。 このZoutの定義は、閉ループ構成でのZoがオペアンプのループ・ゲイン(Aol * β)に応じて低下することを示しています。Aolは一般に(特に低周波数では)非常に大きいため、結果的にZoutは非常に小さくなります。ただし、周波数がアンプの帯域幅を超え、ループ・ゲインが残っていない状態になると、ZoutはZoの値に近付きます。

ほとんどのオペアンプ・メーカーはデータシートにZoutではなくZoを記載していますが、その理由は、Zoが他の回路素子の影響を受けずに、オペアンプ固有の出力インピーダンスを適切に表す特性だからです。ただし、古いデバイスには、データシートにZoutのプロットが記載されているものも数多くあります。また、ZoやZoutは業界内で標準化されている用語ではありません。そのため、データシートを読む際には、どの特性が使用されているのかを必ず把握するように注意してください。

図6は、2000年にリリースされたオペアンプ、『OPA 350』の周波数に対する閉ループ出力インピーダンスの曲線を示しています。

 図6:『OPA 350』の閉ループ出力インピーダンス

この図から、オペアンプのループ・ゲインによって閉ループ出力インピーダンスがどの程度低下したのかがわかります。この場合、低周波数でのZoutは約1mΩ~100mΩの範囲内にあります。また、従来型の開ループ・ゲインのプロットを反転させたような曲線の形状にも注目してください。Zoutについて学んだことを考慮すれば、意外な形状ではないはずです。最後に、図に示されている曲線は、1、10、100V/Vに相当する閉ループ・ゲインの曲線です。閉ループ・ゲインはβによって決まることから、このプロットはβの一般的な3つの値に対してZoutを定義していることになります。

データシートにZoutが記載されているオペアンプを回路設計で使用する場合は、モデルのZoではなくZoutを確認することが必要です。図7は、推奨されるテスト回路を示しています。

 図7:閉ループ出力インピーダンスのテスト回路

このテスト回路では、帰還抵抗RfおよびRiがオペアンプの周りのループを閉じ、Zoutの導出に使用したモデルに適合するテスト条件を作成します。前述したように、AC電流源Ioutはオペアンプ出力を逆駆動します。結果としてVoutに生じる電圧を測定することにより、式13に示すように、オームの法則を使用してZoutを特定できます。 Zoutをプロットするには、AC伝達関数を必要な周波数範囲で実行し、Voutの電圧をプロットします。シミュレーション・ソフトウェアでサポートされている場合は、RfとRiの値を段階的に変化させて、データシートの曲線に一致する閉ループ・ゲイン設定を作成することもできます。では、この回路を使用して『OPA 350 SPICEモデル』のG = 1、10、100V/VでのZoutをテストしてみましょう。

G = 1V/Vの場合は、Rfを1mΩに等しい値(すなわち短絡)、Riを1Tに等しい値(すなわち開路)に設定します。この設定により、オペアンプは標準的なユニティ・ゲイン構成になります。G = 10V/Vの場合は、Rf = 10 * Riになるように設定します。G = 100V/Vの場合は、Rf = 100 * Riになるように設定します。

 図8:OPA 350 Zout結果

この場合も、モデルの出力インピーダンスは、低周波数での一部の小さな誤差を除けばデータシートの曲線に極めて厳密に一致しています。これらの低周波数での誤差は、Zoutの高周波数特性が支配的になることの多い小信号安定性分析では無視できます。この確認結果に基づき、安定性補償をこのシミュレーション・モデルに適用すれば、実際の半導体製品の動作を示す優れた指標が確実に得られます。一般的な安定性の問題と安定性補償手法の概要については、TIプレシジョン・ラボの安定性に関するオペアンプ・ビデオ・シリーズをご覧ください。

 まとめ

  • Zoはオペアンプの開ループ小信号AC出力インピーダンスです。オペアンプ出力段の設計に固有の特性であり、帰還や負荷に応じて変化することはありません。
  • Zoutはオペアンプの閉ループ小信号AC出力インピーダンスであり、オペアンプの開ループ・ゲインおよび帰還係数βによってZoが低下した結果です。
  • 出力インピーダンスはオペアンプの小信号動作の主要因です。重要な回路に対してシミュレーションによる分析を行う場合は、常にオペアンプ・モデルの出力インピーダンスの精度を確認してください。

参考情報(英語)

著者情報
Ian Williams
テキサス・インスツルメンツ
アプリケーション・エンジニア 高精度オペアンプ事業

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