三相インバータのスイッチングは、最小限の電流で必要トルクを得て最大限の効率を達成すると同時に、モータのトルクや速度の安定化のためにデジタル・ロジックで制御する必要があります。通常、これにはマイコンを使用します。限られたデジタル資源(非常に小型のプログラマブル・マイコンやハード・コードASIC)を使った6ステップ(台形波形)の通信制御手法を使った BLDCモータ の制御では、モータにホール・センサを使うことは、合理的で率直なやり方です。

この6ステップの手法には、トルクの非効率性に関連する、いくつかの制限があります。

  • 6ステップの台形スイッチングでは、ステータ(固定子)の磁界を、6方向のうち1方向にしか発生しないが、一方、一定速度で移動するロータの磁界に同期して、特定の方向でステータの磁界を発生できれば、モータ効率は最大化できる
  • これらの6種類の状態の間でスイッチングすることで、瞬間的に減少し、その後補正されるトルク・リップルがモータに発生する。このことで、速度制御の品質が悪化するとともに、可聴ノイズが増加することもある
  • その次に、動的性能(瞬間的な負荷要件に適合するため発生トルクを調整する能力) が悪化する
  • 主として製造コスト上の理由から、通常、多くのモータは正弦波の逆起電電圧を発生する巻線を持ち、これらのモータに印加される台形(矩形)電圧波によって、効率がさらに低下する。大多数のモータは、矩形波の代わりに正弦波で駆動すると、より高い効率で有効に動作する

これらのモータのほとんどに対して有効な手法は、FOC(フィールド・オリエンテッド・コントロール)と呼ばれます。FOCでは、ロータ磁界の方向に同期したステータ磁界を発生できることから、最大限のトルクを発生できます。ステータ間の遷移はスムースで、トルクのリップルは除去され、システムの動的性能も向上します。モータの各相に印加される電圧は正弦波であり、効率が向上します。FOCは6ステップのBLDCモータよりも複雑ではありません。FOCは、1本のバス電流を計測する代わりに、少なくとも二つの相の電流を計測し、追加の数値演算を行い、比例積分(PI)電流コントローラを1個ではなく2個使います。そして、PWMの発生のために、さらに少しの計算を行います。

しかし、ロータ・センサの問題があります。6ステップのBLDCモータのロータ磁界位置センサ用のホール・センサは、FOCに必要な精度がありません。さらに、ホール・センサには、配線や電源などの数種類の追加コストのほかに、低信頼で高いシステム故障率であることから寿命の負担もあります。さらに、例えばコンプレッサをはじめとした数種類のアプリケーションでは、機械的な制限から、ホール・センサを使うことができません。この解決策は、異なる型式のロータ磁界センサを使うことです。高精度サーボドライブに使われるデジタル・エンコーダや、EV駆動モータに使われるアナログ・レゾルバは、FOCに必要な分解能を提供しますが、これらはホール・センサよりも高価で実用的ではありません。唯一の解決策が、センサレスFOCです。

センサレスFOCではソフトウェアのアルゴリズムを使い、ロータ磁界の位置やロータの速度を、インバータ内の電流や電圧を使って予測します。センサレスのロータ位置予測機能(またはオブザーバ)は理論化され25年以上に渡って開発使用されています。実装はかなり制約を受け、ACドライブ、産業用モータ制御、進歩した家電や自動車などのメーカー各社での専門知識の構築に、膨大な投資が必要でした。TIは、20年に渡って、センサレスFOC向けの複数のソフトウェア・ライブラリやシステム例を提供しています。この過程で、TIは自社を含む半導体メーカー各社が供給する従来のセンサレスFOCソリューションで無視できなかった問題を解決してきました。このようにして、TIは新しいソフトウェア・オブザーバであるFASTと、制御ソリューションであるInstaSPIN-FOCを開発し、これらの困難を解消しました。

InstaSPIN-FOC機能はTIのPiccolo™ 32ビット・リアルタイム・マイコンのコントローラ製品 の3品種に統合されたオンチップ・ライブラリを使用することで利用可能です。Piccoloマイコンは、幅広い産業用や車載アプリケーションで使用され、-40℃~+105℃の産業用温度範囲や、-40℃~+125℃のAEC-Q100車載規格の温度範囲の製品グレードが供給されています。モータ搭載製品の開発の迅速な開始に役立つ、適切な電圧と電流レベルに対応したInstaSPIN-FOC対応の三相モータ制御評価モジュール も供給中です。

その他の資料

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

https://e2e.ti.com/blogs_/b/motordrivecontrol/archive/2016/10/31/the-other-motors-in-electric-vehicle-systems-part-3

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