リチウム電池は、今も低価格化と電力密度の増加が続いており、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)をより遠くまで、長時間走らせることができます。この進歩をうけて、設計者の関心は、バッテリ管理システム(BMS)のサイズを縮小して軽量化することで、さらに効率化を図ることです。

バッテリ管理システムの背景については、「HEV/EVのバッテリ管理システムの簡単な説明」(英語)をご覧ください。

従来からある有線BMSアーキテクチャは、ワイヤ・ハーネスを使ってデイジーチェーン構成でバッテリ・パックを接続します。そのため、製造が複雑で大掛かりになり、メンテナンスも頻繁に必要で、保守が困難です。

この課題を解決するために、ワイヤレスBMSへの進化が注目されています。このアーキテクチャでは、ワイアレス・チップセットがバッテリ・モニタと連携して、各バッテリ・セルから電圧や温度といったデータをシステムのメイン・マイコンに送信します。当然、必要なケーブルやワイヤ・ハーネスが減るので、車体が軽量化され、コストも削減されます。

図1は、ワイヤレスBMSアーキテクチャの例です。

1TIのワイヤレスBMSアーキテクチャ

ワイヤレスBMSアーキテクチャに乗り換えようと考えている場合、次のような3つのポイントについて考える必要があるでしょう。

1.      信頼性はあるか?

すでにさまざまなアプリケーションで有線に代わってワイヤレス通信が利用されていますが、考慮すべき重要な点の1つが、ワイヤレス・リンクとネットワークの信頼性です。信頼性は、送受信間でのパケット・エラー率とメッセージ到達率を使って定量化することができます。この到達率は99.999%、パケット・エラー率は10-6である必要があります。

2.      乗員、整備士、所有物にとってワイヤレスBMSは安全か?

ワイヤレスBMSは、的確に状況をモニタリングして、危険な事象を感知したら危害や損壊を軽減するために、素早く、確実、安全に反応する必要があります。理想的には、システムがASIL(安全性要求レベル)Dまでの要件を満たしている必要があります。これは、ISO(国際標準化機構)26262の乗用車規格で規定される機能安全目標の最高レベルです。

3.      セキュリティは大丈夫か?

誰かが車のバッテリ・システムの改ざんを企てた場合でも、ワイヤレスBMSは動くでしょうか。キーの受け渡しや更新の仕組み、メッセージ整合性のチェック、デバッギング・セキュリティを備えた、暗号アクセラレータなどのセキュリティ手段を使って、暗号化メッセージを提供するシステムを探しましょう。

ボーナス問題です!BMSでは有線と無線のどちらがベスト?

これはひっかけ問題です。というのも、車載アーキテクチャや設計目標によって、システムに適しているのは有線の場合も無線の場合もあるからです。表1に、有線システムと無線システムの主な違いを比較して示します。

考慮事項

有線BMS

ワイヤレスBMS

重量

ワイヤ配線のため車両の総重量が増加

無線システムのため車両重量が減少

設計の柔軟性と保守の容易性

全体的にフットプリントが大きいため
柔軟性が少なく、保守が困難

全体的なフットプリントが大きく、
複雑に配線されているためシステム設計の
柔軟性が少なく、保守が困難

フットプリントが小さいので、車両内での
配置が簡単になり設計がシンプルに
なるので、柔軟性が向上、保守が容易

測定

電圧と電流を時間同期させて測定するのは、
設計上難しいことがある

無線システムはもともと時間同期させた測定が可能であり、同期化センシング機能を
さらに追加する能力もある

信頼性

時間とともにワイヤ・ハーネスが
破損しやすくなるが、修理が難しく、
バッテリ・パッ��の再配線が必要になる

メンテナンスを要するワイヤがない。
ただし、厳しい車載無線環境や、
見通し範囲外への対応といった課題を
解決する必要がある

セキュリティ

閉じているので完全にセキュアなシステム通信

セキュリティ手順に欠けた設計品質の
低いシステムだと侵入される可能性がある

1:有線と無線のBMSの特徴を比較

有線バッテリ管理システムは実績があり、すぐに廃れてしまうわけではありませんが、次に来るのはワイヤレスBMSです。現に、電気自動車の台数は2026年までに3,600万台になるとStrategy Analyticsが予測しています。ワイヤレスBMSのおかげで、車の効率と信頼性は向上することが期待でき、OEMメーカーと消費者のどちらにも利点が得られるでしょう。

参考情報
+ワイヤレスBMSに関するデモ動画

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2020年1月9日 Dan Torresとの共著)より翻訳転載されました。
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