ドローンを使用することで天気予報や宅配、3Dマッピングなどの民生アプリケーションにおいて大きな恩恵を得られる一方、ドローン業界は「安全な飛行」と「低価格化」という2つの課題に直面しています。現在市場に流通しているドローンの多くは、感知/回避(SAA)技術を搭載しておらず、近くの人や自動車を危険にさらす可能性を秘めています。そのため、米国連邦航空局(FAA)は、業務でドローンを飛行させる場合、目視可能な範囲で飛行させ、人や走行する車の上を飛行させないことを定めたUAS(無人航空機システム)規則を遵守することを求めています。

現在市場に流通しているほとんどの衝突回避システムは、1)ビジョン式、2)超音波式、3)赤外線またはレーザ式の3つに区分されます。ビジョン式衝突回避システムは、近距離の対象物を正確に特定できますが、その性能は天候や光条件に左右されます。超音波式衝突回避システムは最も低コストですが、感知領域に限りがあります。赤外線またはレーザ衝突回避システムは最も長距離の感知領域を誇りますが、天候や光に影響されやすく、とても高コストです。このため現在市場に流通している多くのドローンは、2つのカメラで障害物を感知するビジョン式衝突回避システムを採用しています。

最近、ドローン業界ではレーダ・アプリケーションに大きな注目が集まっています。レーダは電波を用いて対象の距離や角度、速度を測定します。レーダ技術は、ほぼ80年にわたり軍用アプリケーションとして幅広く使用されてきましたが、とても高額で、サイズが大きく、電力を多く消費することから、現在、民生用としては、自動車安全装置と天気予報向けアプリケーションでのみ採用されています。しかし、近年の急速なIC技術の進歩から、従来のレーダ・システムを小型チップに組み込めるようになり、ドローン向けのレーダ式SAAソリューションを実現する道が開かれてきました。

TIの76-81 GHzミリ波レーダは、既存の24GHzレーダに比べて、広帯域幅を持ち、高周波数で動作することから、より優れたレンジおよび速度分解能を提供します。また、MCUとDSPを統合したことで、レーダ・システムのサイズを大幅に小型化することができます。従来、市場に流通する多くのミリ波チップはレーダ・トランスミッタとレシーバのみを統合していたため、開発者はA/DコンバータやDSPなどのコンポーネントを追加する必要があり、レーダ・システムのコスト増と大型化に頭を悩ませていました。

TIのシングルチップ・ミリ波センサ『IWR 1642』は、2つのトランスミッタと4つのレシーバ・アンテナ、4チャネルの高速A/Dコンバータを搭載しています。また、コントローラ・エリア・ネットワーク(CAN)、CAN FD(フレキシブル・データ・レート)、UART (Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)データ出力インタフェースも搭載しています。データ処理には、『ARM® Cortex®-R4F』と『TI C674x DSP』を使用しています。

この高度に統合されたRFとプロセッサのパッケージは、ドローン向け衝突回避センシング・ソリューションに小型で強力なコアを提供します。『C674x DSP』プロセッサは、複数対象物の距離、方位角、速度情報を計算する信号処理アルゴリズムを実行するのに十分な処理能力を備える一方、ARMコアはチップのコンフィギュレーションと出力データのフォーマットの処理を担います。

 1TIミリ波による衝突回避ソリューションの構造

ドローンのシステム・レベルでは、『IWR 1642』によってドローンの周辺環境を感知する特別なミリ波センシング機能を提供します。ここで処理された情報は、フライト・コントローラ(柔軟なインタフェースとプログララマブルI/O、SoC FPGA搭載ARMハイブリッド・プロセシング・アーキテクチャを搭載するOcPoCフライト・コントローラなど)に送信され、回避コマンドを計算し、実行します。『IWR 1642』に搭載されたこの統合演算能力により、センサとフライト・コントローラ間のデータ・レートを低減し、通信を簡素化することができます。それにより、設計者は感知/回避タスクを切り離し、ドローン・システムに2つの機能ユニットとして分散させることができるのです。

小型フライト・コントローラは、感知機能を扱う『IWR 1642』と調和して機能することで、衝突回避処理を実行することができます。『IWR 1642』ミリ波センサを最大限活用するには、多くの統合及び開発プロセスが必要ですが、この感知/回避ソリューションを使用することでそのプロセスを大幅に削減することができます。FAAでは目視可能な範囲でUAVを飛行させるという厳しい規制を課していますが、安全に飛行できる衝突回避機能を搭載した特定のUAVについては、状況によっては見通し線外の状況における飛行を許可する場合があります。TIのミリ波技術により実現する衝突回避ソリューションは、このニーズにも対応することができます。規制団体や業界と緊密に協力していくことで、将来、現在の規制は不要になるかもしれません。

<参考情報>
+関連ビデオ:「IWR 1642搭載ドローン
+センサ製品概要:ミリ波センサ技術の活用
+アプリケーション・デザイン:ドローン・ビジョン
+ホワイトペーパ:「ミリ波センサを活用した ドローンの安全性と 生産性の実現
+ブログ:「ミリ波センサによって産業用アプリケーションに新たなインテリジェンスを導入

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2017年8月22日)より翻訳転載されました。

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