月面着��から50年:大きな飛躍を遂げたTIのIC事業



1969年7月20日、TIの航空宇宙技術者だったベリエ・リマと彼の家族は、ダラスにある自宅近くのプールで泳いでいました。突然、ひとりの女性が「いよいよ始まるわ」と叫びました。

「人間が月に着陸する寸前だったのです。もちろん、みんなプールから一斉に飛び出して、車に乗り込みましたよ」とベリエは当時を振り返ります。

数分後、ベリエと妻と3人の子供たちは自宅のリビング・ルームにいました。そして月面着陸という歴史的瞬間をテレビで見ていました。

すでにTIから退職しているベリエは、「そのとき最も強く思ったことは、この快挙を実現した技術のことです」と語ります。

夢のような出来事でした。ベリエはTIで無人宇宙計画に携わっていた回路設計技術者でしたが、彼ら技術者の長年の苦労が報われた瞬間でした。月着陸船の操舵装置、ロケット噴射の起動/停止装置、レーダーおよびナビゲーション機器の制御装置など、アポロ11号で使用された、月面着陸の成功に欠かせないシステムには、TIの技術陣が開発した製品が使用されていたのです。

ベリエは、ニール・アームストロングが月面に最初の一歩を記す様子に見とれていました。しかし、同時に、仕事のことも忘れてはいませんでした。

「アポロ11号の成功は、私にとって実に重要なことでした。もし失敗していたら、宇宙計画の他の分野にも影響したはずだからです。月面着陸が成功しからこそ、私は仕事を続けられたのです」と彼は言います。

TIの人々と製品は、人間を月に着陸させるという快挙に大きな役割を果たしました。あれから50年、TIは今なお宇宙開発のために技術革新を続けています。

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宇宙開発競争の先頭に立つ

1960年代から70年代にかけて、ベリエは宇宙船マリナー号とボイジャー号に搭載されるICの開発に取り組んでいました。彼を含めTIの何千人もの従業員が、宇宙開発競争の先頭に立っていました。

例えば、TIの現役化学者だったシド・パーカーは、物体から放射される赤外線を検出する前方監視型赤外線(FLIR)カメラに不可欠な材料である水銀カドミウム・テルルの製造プロセスを開発しました。

「前方監視型赤外線カメラは、きわめて詳細な画像を撮影できます。宇宙の深奥の探査など、さまざまな用途に使えます」とシドは語っています。

 

ジョン・F・ケネディ大統領が掲げていた「1960年代中に人間を月に到達させる」という目標の達成には、この宇宙探検を実現するための技術課題の解決が不可欠でした。

「ケネディは生前、月面着陸は10年以内に達成されると予想していました。私たちは、それを実現する技術の開発においてリーダーになりうると信じていました」とベリエは言います。

ロシアは1950年代後半に月の裏側の撮影に成功していました。アポロ11号以前は、ロシアが宇宙開発競争をリードしていました。

「私たちはロシアに追いつこうと必死でしたが、できませんでした。常にロシアの後塵を拝していました。月をめぐっての活動は、正にロシアの独壇場だったのです」とベリエは述べています。

何十年も前にベリエが設計したICの多くは、今も宇宙で稼働しています。例えば、今なお現役のボイジャー2号は、1970年代の技術を使って惑星探査を続けています。すでに地球から130億マイル以上という遥か彼方へ到達しています。ボイジャー2号が撮影した写真は、火星に生命が存在するか否かといった宇宙の謎をいくつも解明してきました。「電球3個分ほどの電力しか消費しないのです」とベリエは言います。

「ボイジャー計画は、月面着陸に匹敵するものでした。というのは、当時誰もできなかったし、その後も、私たち以外は誰も成功していないからです。ボイジャーは40年以上宇宙探査を続けるという偉業を達成したのです」

宇宙飛行の技術課題を解決

ボイジャー、アポロ、マリナー。これらの宇宙ミッションは、ICの発明がなければできなかったはずです。人類が月面に歴史的な一歩を記した時から11年前に、TIの技術者、ジャック・キルビーは社内の研究所で世界初のICを手作りで完成させました。すぐには理解されませんでしたが、ICは宇宙飛行の技術課題を解決する可能性を秘めていました。平坦な半導体小片に多数の電子回路を集積したICは、軽量化と低消費電力化にきわめて有効だったからです。

「軽量化、低消費電力化、小サイズ化が進めば進むほど、より多くの実験を宇宙船で行うことができるのです」とベリエは語ります。

ジャックが最初にICを発明した1958年9月12日からニール・アームストロングが小さな最初の一歩を記す1969年7月20日までの間に、ICはすさまじい進化を遂げました。

「問題だったのは、回路やコンポーネントよりも、むしろ無重力環境で正しく動作させるための技術でした」とベリエは言います。

TIの最高技術責任者のアフマド・バハーイは「ICという革新的なアイデアが生まれてから、宇宙開発史上最も重要なミッションにICが採用されるまで、11年しかかかりませんでした。しかも、その開発はTIで行われたのです」と述べています。

コスト・ダウンの推進

1959年、アメリカ空軍は、TIのIC製造プロセス研究プロジェクトに資金を拠出しました。その結果実行されたパイロット・プロジェクトにより、ICのコストはチップあたり1,000ドルから450ドル*に下がりました。さらに数年にわたる製造方法の改良の結果、コストはチップあたり25ドルにまで下がったのです。

1962年、TIの技術陣は、ロケットに搭載されて宇宙を飛行する史上初のIC装置を設計しました**。この装置は、地球磁場に捕捉される放射線を研究するためのカウンターに搭載されました***
 
1964年、TIの技術陣はレインジャー7号で使用されるコマンド検出器/コマンド・デコーダを開発しました。この宇宙探査機は、月面の近接画像の送信に世界で初めて成功しました。科学者やエンジニアはこの画像を使用して、アポロの宇宙飛行士が安全に着陸できる場所を決定しました***。

ICは、今なお最新の電子技術の基盤であり、性能、電力効率、微細化、動作速度は指数関数的に向上しています。実際、今やほとんどの人が持っている携帯電話やスマートフォン、毎日のように使用されている数多くの機器は、ICがなければ実現できなかったものばかりです。最新のICには、10セント硬貨よりも狭い表面に数十億個ものトランジスタが集積されています。

「ボイジャーに搭載されていたコンポーネントに比べ、スマートフォンの内蔵メモリは24万倍、動作速度は10万倍です。このようなことを誰が想像できたでしょうか」とベリエは言います。

未来の技術は想像を超える、と考えているベリエは、

「ジャック・キルビーは1958年にTIの研究所で最初のICを発明しました。当時の状況を考えれば、私たちは遥か彼方まで来たと言えます。今後については、まったく予断を許しません」と締めくくりました。

* Engineering the World by Caleb Pirtle III, pg. 85-86
** Engineering the World by Caleb Pirtle III, pg.39
*** Engineering the World by Caleb Pirtle III, pg.39
**** Engineering the World by Caleb Pirtle III, pg.39

※上記の記事はこちらの技術記事(2019年7月15日)より翻訳転載されました。

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