産業環境では、さまざまな形状、大きさ、材質、光学特性(反射、吸収など)を持った部品を毎日扱わなければなりません。これらの部品は、処理のためにピッキングして特定の向きに置く必要があります。このような、部品がランダムに置かれる環境(コンテナなど)からのピック・アンド・プレース動作を自動化することを、一般的にビン・ピッキングと呼びます。このタスクでは、ロボットのエンド・エフェクタ(ロボット・アームの末端に取り付ける装置)が、つかみたい物体の正確な3D位置、大きさ、向きを知ることが課題となります。箱の壁や箱内部の他の物体を避けて移動するには、ロボットのマシン・ビジョン・システムで、2Dのカメラ情報に加えて、深度データを取得する必要があります。

ビン・ピッキングでの物体3Dイメージ・キャプチャの問題は、構造化ライト手法で対応可能です。構造化ライト・テクノロジをベースにした3Dスキャナ/カメラは、スキャンする物体上に一連のパターンを投影し、カメラまたはセンサを使ってパターンの歪みをキャプチャします。そして、三角測量アルゴリズムによりデータを計算し、3Dポイント・クラウドを出力します。MVTech社のHalconなどの画像処理ソフトウェアにより、物体の位置とロボット・アームの最適なアプローチ・パスを計算します(図1)。

 

1Halconを使ってパイプ継手をそれぞれの3Dモデルとマッチングさせた例(出典:MVTechHalcon

DLP®テクノロジは、図2に示すように、デジタル・マイクロミラー(DMD)と呼ばれる半導体チップ上に組み込まれたマイクロミラー・マトリックスを使って、高速にパターンを投影できます。DMDの各ピクセルが投影イメージの1ピクセルに対応し、正確なイメージ投影をピクセル単位で行えます。マイクロミラーは約3usで遷移可能で、入射光を投影レンズを通して物体上、またはライト・ダンプ上に反射します。前者は投影シーン上の明るいピクセルに、後者は暗いピクセルになります。また、DLPテクノロジには、ランプ、LED、レーザーなど各種光源を使用して、広い波長範囲(420nm2500nm)にわたってパターンを投影できる固有の利点があります。

ビン・ピッキング用のDLPテクノロジを搭載した構造化ライトには、次のような利点があります。

 

  •  環境光に対する堅牢性低露光量や照明条件の異なる領域間の高コントラストによってセンサが露光不足となったり、ちらつく光がマシン・ビジョン・システムに干渉したりするなど、工場内の照明条件は、ビン・ピッキングのようなマシン・ビジョンを必要とするアプリケーションでは問題となる場合があります。DLPテクノロジを搭載した構造化ライトは、本質的にアクティブ照明であるため、このような条件に対して堅牢です。
  • 可動部品なし。構造化ライト・システムはシーン全体を一度にキャプチャし、(スキャニング・ソリューションのように)物体上でライト・ビームを走査したり、物体をビームに沿って動かしたりする必要がありません。構造化ライト・システムには、肉眼で見える大きさの可動部品を使用しておらず、機械的劣化による摩損への耐性があります。
  • リアルタイム3Dイメージ・アクイジション。DLPチップ内のマイクロミラーは高速で制御され、最高32kHzでカスタム・パターンを投影します。さらに、DLPコントローラはトリガ入出力を備え、カメラや他の機器を投影されたパターン・シーケンスと同期させるために使用できます。このような機能は、スキャニングとピッキングが同時にできるリアルタイム3Dイメージ・アクイジションの実現に役立ちます。
  • 高コントラスト、高解像度の投影パターン。各マイクロミラーは光をターゲット上または吸収表面上に反射するので、高いコントラスト比を達成可能です。この結果、物体の表面特性に依存しない、正確なポイント検出が可能です。最大2560x1600個のミラーを持つ高解像度DLPチップが利用可能で、ミクロン・レベルの物体まで検出できます。
  • 物体パラメータに合わせて調節可能。プログラム可能なパターン、およびフェーズ・シフティングやグレー・コーディングなどの各種ポイント・コーディング方式により、構造化ライト・システムは、屈折型光学素子を使用したシステムよりも柔軟に、物体パラメータに合わせた調節が可能です。
  • 開発時間の短縮。ロボットには高い再現性がありますが、ビン・ピッキングでは収納箱から1つ取り出すたびにピッキングする物体の位置と向きが変化し続けるという、非構造的な環境の中での正確さが求められます。この課題にうまく対処するには、マシン・ビジョンからコンピュータ・ソフトウェア、ロボットの器用さ、グリッパに至るまで、信頼性の高いプロセス・フローが必要です。すべてを連動させることは、多大な開発時間を費やす難題ともなり得ます。

 

2DLPチップは数100万個のマイクロミラーを内蔵し、それぞれが高速で制御され、投影パターンを生成するため光を巧みに反射する

TIDLPテクノロジ評価モジュール を使えば、構造化ライトをマシン・ビジョンのワークフロー内に素早く組み込むことができます。この機能をデモするために、ファクトリ・オートメーション/制御のシステム・エンジニアがDLP LightCrafter 4500評価ボードをモノクロ・カメラに、固定距離、固定アングルで取り付けました。DLP評価ボードは、両者を相互に接続しているトリガ・ケーブルを通じて、カメラからトリガされます。図3をご覧ください。

 

3:構造化ライトのセットアップ:DLP製品LightCrafter 4500(左)、Point Grey赤外線Flea3前方カメラ(右)、キャリブレーション・ボード(後ろ)

ボードとカメラはともにUSB経由でPCに接続され、セットアップ全体がキャリブレーション・ボードに向けられています。リファレンス・デザイン「DLPテクノロジを用いた3Dマシン・ビジョン・アプリケーションのための正確なポイント・クラウド生成」のソフトウェアを使用し、焦点距離、焦点、レンズ歪み、キャリブレーション・ボードに相対的なカメラの移動/回転などのパラメータについてカメラとプロジェクタを較正します。リファレンス・デザインのユーザー・ガイドでは、その手順をステップ・バイ・ステップで説明しています。

リキャリブレーションは、カメラがDLP製品ボードに対して相対的に動いたときにだけ必要です。

セットアップ完了後は、実際のターゲットのポイント・クラウドを生成できます。これらのクラウドは、ソフトウェアにより任意のファイル形式で出力され、HalconHDevelpプラットフォームで開発された簡単なコードにより読み込んで表示されます。図4に、深度情報に対してカラー・コーディングを行った、コーヒー・マグカップで満たされた箱のポイント・クラウドを示します。

 

図4:キャプチャされたマグカップ(左)、Halcon HDevelpで表示した、箱の中にある数個のマグカップのポイント・クラウド(右)、DLPを搭載した構造化ライトを使って取得

Halconのサーフィス・マッチングは、ポイント・クラウドをマグカップの3D CADモデルと比較してマグカップの3Dポーズを決定できます。これにより、ロボット・アームは物体を「見て」、ロボット・アームの最適なアプローチ・パスを計算でき、非構造的な変化する環境の中で、障害物を避けて箱から物体をピッキングできます。

その他のリソース

 

 

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※上記の記事はこちらの技術記事(2019年8月7日)より翻訳転載されました。
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