電源は製品の外部から見ることができませんが、昔のレンガのような大きさの携帯電話から重いテレビセットまで、エレクトロニクス製品の内部で大きな空間を占めていた歴史があり、現在でも、製品の内部では高い電力密度への要求が増加しています。

これらの古い製品は、シリコンベースの電源の革新によって、より扱いやすいサイズになりましたが、その向上も限界に突き当たります。シリコンベースのデバイスは、サイズを大きくしない限り、より高電力の供給に必要な高い周波数動作が不可能です。この制約は、5Gワイヤレス・ネットワークの展開、ロボティクスの発展や、再生可能エネルギーからデータ・センターまでの幅広いテクノロジにとって、無視できない問題となっています。

TIのプロダクト・マネージャであるMasoud Beheshtiは次のように述べています。「技術者は限界に達しました。彼らは製品内部の空間に、より高い電力を積め込むことも、その空間を拡げることもできなくなりました。製品のフォームファクタを変更できないのであれば、唯一の解答は内部の電力密度を上げるしかありません」

GaN半導体の時代が到来

シリコンベースのテクノロジは、60年以上にわたり、携帯電話から産業用ロボットまで、あらゆる製品の要件に対応するためにAC(交流)からDC(直流)への変換機能を提供する基礎を提供してきました。そして、シリコン半導体に必要な構成部品を改良や最適化している間に、物理的な実装スペースの限界に突き当たりました。

しかし、GaN半導体による新種の電源と電力変換システムがこれらの問題を解決し、無駄な電力損失と発熱を削減しました。発熱と高温は、運用コストの増大、ネットワーク信号への干渉や、早期の機器の故障を招くため重要な問題です。

 GaN半導体は、より高い周波数、より高効率で電力を処理でき、シリコンベースの半導体と比較して、電力損失を半減すると同時に、実装スペースも半分まで縮小します。これによって、製品の実装スペースを増加させずに電力密度を向上するというお客様の要件も満足します。

GaN半導体は、より高い周波数でのスイッチング動作が可能であることから、より広範囲の電力をワンステップで変換でき、デバイス構成を複雑化させる追加の電力変換回路が不要になります。電力変換回路が増えると余計な電力損失も増加するため、ワンステップで変換できる利点は、急増中の高電圧アプリケーションにとって重要です。

60年間にわたるシリコンベースのテクノロジが一夜で消えるわけではありませんが、GaN半導体は、数年にわたる研究の後、実世界での試験的な動作と信頼性試験によって、電力密度の向上のみならず、高性能を提供するようになりました。TIでは、GaN半導体に対して、シリコン半導体よりも高い動作温度と高電圧で、2千万時間に渡る加速信頼性試験を実施しました。この試験時間は、長距離飛行の世界記録を持つ国際線のジェット旅客機であれば、地球を259,740周する飛行に匹敵します。

そしてTIは、GaN半導体の製造プロセス、テクノロジやデバイスの認定を完了するとともに、量産準備を整えました。

TIでは、これらのGaN認定プロトコルをJEDEC半導体技術協会(Joint Electron Device Engineering Council)の標準規格の制定団体と共有しているほか、GaN認定委員会を運営しています。

GaN半導体の将来

すでに、高電力密度が必要な業界の多くで、GaN半導体はシリコンベースのテクノロジに取って代わっています。TIではGaNデバイスのパッケージ手法とテスト手法を完成済であり、高電力密度の要件をお持ちのお客様各社に、新規、かつ高い信頼性の電力変換回路の選択肢を提供できます。

次の業界には、主力の量産GaN電源製品が最適です。

製造分野:現在の代表的なロボット・アームは、アームの動作に必要なすべての電子回路を内蔵しているわけではありません。電力変換とモータ・ドライブの構成部品は非常に大きく効率が低いため別の筐体に内蔵され、アーム本体まで長いケーブルで接続されます。このことで、産業用ロボットの体積あたりの生産性が低下します。GaN半導体によって、電力変換機能とドライブをロボット本体に���蔵���ることが容易になります。このことで、設計の合理化、低効率のケーブル接続の削減や、運用コストの削減が可能になります。

データ・センター分野:データ・センター業界は、より多くのデジタル・サービスへの留まる所のない需要に拍車を掛けられており、48V DC電源から直接動作する設備への改装が進行中です。従来のシリコンベースの電力変換回路は、大多数の計算ハードウェアに必要な低電圧を48V電源からワンステップで作ることはできません。中間電圧への変換回路を設けると、データ・センターの電力効率が低下します。GaN半導体は48V電源から、各サーバーやチップのポイント・オブ・ロード(PoL)電源へワンステップで変換でき、このことで電力供給損失を大幅に削減するとともに、変換ロスを30パーセント削減できます。

ワイヤレス・サービス分野:大多数の人口が5G携帯ネットワークに移行しつつあり、ネットワーク事業者は、より高い周波数で、より高電力で動作する機器の展開が必要になりました。事業者は、基地局の機器のサイズを増加させたくないため、GaN半導体の高い電力密度が大きな利点となります。

再生可能エネルギー分野:再生可能エネルギー発電と蓄積にも、電力変換のステップが必要であることから、GaN半導体の高効率の利点が重要になります。再生可能エネルギーの設置計画では、例えば風力発電で無風になった場合や、太陽光発電で夜になった場合のために、発生したエネルギーをスマート・グリッドに貯めておく手法を採用することも多く、GaN半導体によって大規模なバッテリーとの間で電力を高効率に入出力できることが、大きな利点となります。TIとパートナ各社は協働して、再生可能エネルギーによって発生した10kWもの電力を99パーセントの効率で変換できるGaN半導体の能力を実証しました。この高効率も、電力事業にとって重要な利点です。

時間の経過とともに、GaN半導体は、民生用電子機器をはじめとした数多くのアプリケーションに、ますます採用され、より薄いディスプレイや、充電可能な機器内での無駄な電力の削減に役立っています。ほんの3パーセントか4パーセントの効率向上だけでは他の方法も検討できますが、電力密度を倍増させるのなら、GaN半導体が唯一の選択肢となるでしょう。

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2018年10月22日)より翻訳転載されました。
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