Other Parts Discussed in Post: TPS568215

多層セラミック・コンデンサ(MLCC)は、電子回路、特に電源のデカップリングによく使われる部品ですが、2018年頃から大きなケース・サイズのMLCCが供給不足で調達が困難になっています。市場の様子からは、少なくとも2020年まではこの状況は変わらないと見られます。そのため設計担当者は昨今、DC/DCスイッチング・レギュレータに使用するMLCCの数を削減する方法を模索しています。

DC/DCスイッチング・レギュレータのMLCC部品数を減らす方法の1つは、外付けコンデンサを削減しても機能できるデバイスを選択することです。また、TIのD-CAP+TM制御モードを備えたDC/DCスイッチング・レギュレータを選ぶ方法もあります。スイッチング周波数を上げることも、コンデンサの部品数を削減するのに有効です。例えば、『TPS563201』のスイッチング周波数を580kHzから1.4MHzに上げることは『TPS563249』の設計につながり、この部品ではコンデンサが1つ減ります。

この記事では、DC/DCレギュレータのMLCC部品数を削減する選択肢として、部品を置き換える方法を検討します。最も一般的なタイプの置き換え技術には、フィルムやアルミ(液体やポリマー)、タンタル(固体やポリマー)があります。これらの各技術には、容量、電圧範囲、等価直列抵抗(ESR)、サイズ、電流定格など、それぞれに長所と短所があり、この中で、DC/DCスイッチング・レギュレータ用のコンデンサを選択するときに通常最も大きな差別化要因となるのがESRです。ESRが高いほど出力電圧リップルや発熱が大きくなり、入力ノイズが発生します。DC/DCスイッチング・レギュレータにMLCCが一般によく使われるのも、ESRが最小であることが多いためです。アルミ・ポリマー・コンデンサは、いくつかの特長がMLCCと共通しており、設計者の間ではMLCCの代替品としてESRが十分に低いとされています。図1からわかるように、各種コンデンサの中でESRがMLCCと最も近いのはアルミ・ポリマー・コンデンサです。

 

図1:各種コンデンサ・テクノロジのESR

(出典:「Why low ESR matters in capacitor design(コンデンサ設計にESRの低さが重要な理由)」)

アルミ・ポリマー・コンデンサの難点の1つは、MLCCに比べてサイズが大きいことです。WEBENCH® Power Designerツールを使用すると、プリント基板(PCB)のレイアウト情報を表示できますが、図2からは同期整流降圧コンバータ『TPS568215』の5個の出力側MLCCをアルミ・ポリマー・コンデンサ1個と置き換えた場合に、それぞれが占める表面領域があまり変わらないことが見て取れます。

図2:WEBENCH Power Designerツール上で『TPS568215』のMLCCをアルミ・ポリマー・コンデンサと置換

ここで、性能が問題になりますが、アルミ・ポリマー・コンデンサとMLCCをどう比較すればいいでしょうか。また、MLCCと置き換えることが本当に可能なのでしょうか。設計上多くの妥協を余儀なくされるのではないかという心配もあります。

大まかな理解を得るために、WEBENCH Power Designerツールを使用して負荷過渡応答のシミュレーションを行いました。図3に示すように、出力側でMLCCの代わりにアルミ・ポリマー・コンデンサ1個を使用すると、出力電圧リップルが10倍に増加します。したがって、一定水準の性能が必要な場合は、複数のMLCCをアルミ・ポリマー・コンデンサ1個のみで置き換える方法は妥当ではありません。

 

 

(a)

  (b)

図3:WEBENCH Power Designerツールで実行した負荷過渡応答のシミュレーション。

『TPS568215』の出力側にMLCCを使用した場合(a)とアルミ・ポリマー・コンデンサを使用した場合(b)

DC/DCスイッチング・レギュレータでセラミック・コンデンサの個数を最小限にしながら、電圧リップルを抑えるために、MLCCとアルミ・ポリマー・コンデンサを組み合わせる方法を、TPS568215評価モジュール(EVM)を使って実際のPCBテストを行いました。やり方として、最初にEVMの初期設定でいくつかテストを行い、入力電圧リップル、出力電圧リップル、負荷過渡応答、スタートアップ応答、シャットダウン応答をデータシートの値と比べることで、テスト構成を検証しました。次に、EVMの入力と出力の両方で、コンデンサをいろいろ組み合わせます。

初期設定に最も近い結果を示したのが、アルミ・ポリマー・コンデンサとMLCCを組み合わせて使用した、図4に示す2つの構成です。図4aの構成では出力電圧リップルを、図4bでは入力電圧リップルをテストしました。

 

 (a)

 (b)

図4:出力側にアルミ・ポリマー・コンデンサ1個をMLCC 1個と並列接続(a)、

入力側にアルミ・ポリマー・コンデンサ1個をMLCC 3個と並列接続(b)した『TPS518215EVM』構成

テストには、12Vの入力と8Aの負荷を用いました。入力と出力の両方に電圧リップルの増加が見られるのは当然ですが、アルミ・ポリマー・コンデンサのみを使用したときよりは小さくなっています。出力電圧リップルは図5のように8mVから14mVに、入力電圧リップルは図6のように13mVから24mVになりました。

元々のコンデンサ構成のESR値と、混在構成の値を比べると、なぜこうなったのかがわかります。入力側構成では、MLCC 4個を並列で使用した場合の総ESRは0.57mΩですが、アルミ・ポリマー・コンデンサ1個をMLCC 2個と並列で使用した場合は1.08mΩです。

出力側構成では、MLCC 4個を並列で使用した場合の総ESRは1.05mΩですが、アルミ・ポリマー・コンデンサ1個をMLCC 1個と並列で使用した場合は1.57mΩです。

 

 (a)

 (b)

図5:『TPS518215EVM』の出力電圧リップル。MLCC 4個を並列で使用(a)、

アルミ・ポリマー・コンデンサ1個をMLCC 1個と並列で使用(b)

 

 (a)

 (b)

図6:『TPS518215EVM』の入力電圧リップル。MLCC 6個を並列で使用(a)、

アルミ・ポリマー・コンデンサ1個をMLCC 3個と並列で使用(b)

この記事で述べてきたように、DC/DCスイッチング・レギュレータのMLCCの部品数を削減する1つの方法が、MLCCの一部をアルミ・ポリマー・コンデンサで置き換えることです。言うまでもなく、このようにコンデンサとMLCCを組み合わせた構成でさらにテストを行って、その性能が設計要件内に収まっているかを確かめる必要があります。コンデンサはすべて独自の特性を持っており、設計要件もそれぞれ異なりますが、MLCCが供給不足の間は、このような代替案を念頭に置いておくといいでしょう。

 

参考情報

+技術記事

 +「MLCCの供給不足による電源アプリケーションへの影響を軽減

 +「D-CAP+制御モードを使用してMLCC不足の影響を最小化する

 

著者紹介
Xavier de Bellabre, Analog Field Application Engineer, Texas Instruments

※2019年6月26日マイナビニュース掲載のテキサス・インスツルメンツ寄稿記事を転載
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