絶縁がどういうものかについて、すでによく理解していると思いますが、それぞれの種類については不明な点があるかもしれません。この技術記事では、絶縁の主な4つの種類の定義を述べてから、設計においてTIの新しい完全統合型トランス・テクノロジがどのように役立つかを説明したいと思います。このテクノロジには、他の強化絶縁ソリューションと比較して利点がいくつかあります。

簡単に言うと絶縁とは、システム内の分かれた部分同士の間で、不要な直流電流と交流電流を遮断しながら、必要な信号や電力を伝えることです。電源回路やモーター駆動回路のハイサイド・ゲート・ドライバへの電力供給、高電圧システム内の低電圧回路(例えば電気自動車システムのプロセッサ)の保護、電圧レベルが異なるシステム間での通信の分離、高電圧機器を扱うエンド・ユーザーの感電防止、といった目的のために、設計者は多くのアプリケーションで絶縁を施すことになります。絶縁には、機能絶縁、基本絶縁、二重絶縁、強化絶縁など、いくつかのレベルがあります。

機能絶縁とは、その名が示す通り、単に機能を提供するだけのものです。ある電圧レベルのシステムから電圧が異なる別のシステムに信号や電力を渡しますが、感電に対する保護はありません。

その1つ上のレベルが基本絶縁です。基本絶縁では、機能絶縁に感電保護が追加されます。クラスⅠデバイスは、アース接続を加えた機能絶縁を使用することで、ユーザーを保護します。図1に示すのは、標準的なクラスⅠデバイスです。

図1:標準的なクラスⅠデバイス

二重絶縁は、基本絶縁(感電に対する基本レベルの保護)があるシステムに対して、電気部品とエンド・ユーザーとの間に補助的な絶縁層を追加し、基本絶縁が破壊された場合に起こり得る感電の可能性を減らします。クラスⅡの製品には二重絶縁が求められます。このような製品は、アースのピンがないAC電源プラグを使うように作られますが、ユーザーの安全のために外部的な配線に依存することがないため、製品の安全性が向上します。二重絶縁が使われる最終製品の例としては、グリッド・アセット監視システム、輸液ポンプなどの携帯型医療機器、ブレンダーや携帯電話の充電器といった電気機器があります。

2つ目の層によって(電気が流れる可能性がある)内部の金属部分を外側の筐体から物理的に絶縁するか、外側にプラスチックのような非電導性の筐体を使用します。クラスⅡのデバイスは、外部的な配線に依存せず保護を二重化するため、クラスⅠのデバイスよりもある程度安全性に余裕があります。図2は標準的なクラスⅡデバイスです。

図2:標準的なクラスⅡデバイス

強化絶縁は、二重絶縁と同じ効果を単一層で実現します。強化絶縁が施されたデバイスは、基本的な絶縁に加えて、プリント基板の配線、コア、巻線、ピンなどが確実に物理的に分離されるように設計されていると同時に、安全な沿面距離や空間距離(これらは2つの電圧システム間の物理的な距離を指す)の条件を満たしています。強化デバイスは二重絶縁を使って設計されますが、単体としてのみ試験することができます。

認証を得るために達成すべき値は、安全規格で定められています。例えば、IEC(国際電気標準会議)60950-1では、空間距離/沿面距離が基本絶縁の場合は3.2mm、強化絶縁と二重絶縁の場合は6.4mmであることとしています。基本絶縁の電圧定格要件は2,500VRMS(1分間)と3,000VRMS(1秒間)、強化絶縁と二重絶縁では5,000VRMS(1分間)と6,000VRMS(1秒間)です。見てのとおり、強化絶縁と二重絶縁はまさに基本絶縁の2倍です。二重絶縁デバイスのラベルには、二重絶縁であることを示す、四角が二重になった図3のような記号が付いています。

図3:二重絶縁を示す記号

クラスⅡデバイスを作ることになったら、二重絶縁か強化絶縁が必要になります。どちらを優先的に選ぶべきかは、ソリューションのサイズとコストで決まります。ご想像のとおり、物理的に小型のソリューションには、1つのデバイスで2つの役割を果たせる方が向いています。1つのデバイスに統合されていることによってだけでなく、絶縁安全規格の準拠に必要となる設計作業が軽減されることでも、コストの削減につながります。

小型パッケージで供給される完全統合型の強化絶縁ソリューションは、実装が容易です。他のソリューションと比較して、このようなデバイスにはいくつかの利点があります。例えば、TIの『UCC12050』では、制御、ドライバ、電界効果トランジスタ、磁器回路のすべてが1つのパッケージに統合されているので、このデバイスをいくつかのバイパス・コンデンサと一緒に基板に配置し、適切な基板レイアウトの指示に従うだけで、フットプリントが非常に小さいバイアス電源アプリケーション用の強化絶縁ソリューションを設計できます。これで設計作業はすべて完了し、磁器回路設計も電源コントローラの選択も必要ありません。

VDE(Verband der Elektrotechnik)0884-10やIEC(国際電気標準会議)60747-17のような規格は、強化絶縁デバイス認証の最低限の要件を定めています。『UCC12050』は、絶縁の最小保護が7kVPK(1秒間、製品試験済み)および5kVRMS(1分間)であり、強化絶縁の要件をすべて満たします。

以上のことをまとめると、機能絶縁と基本絶縁は異なる電圧レールを電気的に分離し、二重絶縁と強化絶縁では、どちらを使っても、プラグからアースのピンを除外するという同じ設計目標を達成できます。

強化絶縁は、2つの絶縁デバイスが1つになることから、二重絶縁よりもメリットがあります。目的のシステムにとって強化絶縁は、それ以外の絶縁バイアス電源ソリューションよりも、時間、労力、面積、場合によってはコストも削減できる、最適な方法になります。

参考情報(英語)

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年2月10日)より翻訳転載されました。
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