このシリーズの Part 1 のブログでは、アナログ/デジタル・コンバータ(ADC)の分解能と精度の違いについて説明しました。今回は、ADC の総合精度に影響を与える総合未調整誤差(TUE)について掘り下げて解説します。

ADC の TUE 仕様の中で「総合」が何を意味するかについて疑問が起こると思います。ADC のデータシート(例えば、オフセット電圧、ゲイン誤差、INL)のすべての DC 誤差仕様を単に足し上げたものなのでしょうか。あるいはそれ以上のものなのでしょうか。答えは、TUE は ADC の動作入力範囲に対する総システム誤差の比率を表したものです。

より具体的に言うと、TUE は最下位ビット(LSB)の単位で表現される DC 誤差仕様で、ADC の実際の伝達関数と理想的な伝達関数間の最大偏差値を示します。この仕様値はいかなるシステム・レベルのキャリブレーションも行われていないことを想定しています。概念的には、TUE は ADC 挙動における以下のさまざまなタイプの非理想挙動による影響の合計値です。

・オフセット誤差(VOS):図 1 に示すように、ADC の実際の伝達曲線と理想的な伝達曲線の間の一定的な差です。ADC 入力の GND への短絡によって得られるデジタル出力測定値です。

1ADC オフセット誤差 vs. 入力電圧

・ゲイン誤差:ADC 出力の実際の傾斜と理想的な傾斜の間の差で、通常、ADC 範囲の比率あるいはフル・スケール・コード時の最大誤差として表されます。図 2 に示すように、ゲイン誤差の絶対値はアナログ入力がフル・スケール値に近づくにつれて増加します。

2ADC ゲイン誤差 vs. 入力電圧

・積分非直線性(INL):理想的な直線挙動に対する実際の ADC 伝達曲線の最大非線形偏差です。ADC の INL 応答には確定した形がなく、内部回路アーキテクチャや、フロントエンド・シグナル・コンディショニング回路によって引き起こされる歪みによって決定されます。

3ADC INL誤差 vs. 入力電圧

多くの ADC データシートには、上記のすべての DC 誤差に対する代表値と最大値が明記されていますが、TUE は示されていません。TUE の最大値は個々の DC 誤差の最大値を合計するだけで得られるわけではなく、計算はそれほど単純ではありません。その理由は、こうした誤差のすべてが相関関係にないからです。最悪のケースでは、オフセット、ゲイン、直線性誤差は ADC 伝達関数上の同じ入力電圧で必ずしも発生するわけではありません。このことから、誤差を単純に合計すれば、システム精度が実際より悪く見えます。特にそれがあてはまるのが、アプリケーションのダイナミック範囲が伝達関数の中間値近くに限定されている場合です。

代表的なデータ・アクイジション・システムでは、ADC と並んで、総オフセット誤差やゲイン誤差に影響を与える入力ドライバや電圧リファレンスが備えられています。このことから、キャリブレーションを行わない多くのシステムでは、TUE の最大値の計算の際に、オフセット誤差やゲイン誤差が INL の重要な部分を占めます。特定のアナログ入力電圧での最大 TUE を計算する際に推薦できる方法は、各点での個々の誤差の最大値の根二乗和(RSS)をとることです(式 1)。すべての誤差を同じ単位、通常は LSB 単位に変換することが重要になります。

式 1 によって、TUE の典型的な「蝶ネクタイ」型の誤差プロットが表れます。オフセット誤差が高いシステムでは「蝶ネクタイ」型プロットの結び目が厚くなります(図 4A)。それに対し、ゲイン誤差が高いシステムでは結び目が薄くなり、「蝶ネクタイ」は厚くなります(図 4B)。

図 4:「蝶ネクタイ」型の ADC TUE vs. 入力電圧 

まとめると、エラーを決定するのは ADC が動作している入力範囲であることから、ADC の最大 TUE 値を計算するための確定的な公式は存在しません。システムが ADC の全入力範囲を使用する必要がない場合には、伝達関数の終点から ADC を離して動作させることにより、TUE を最小化できます。

関連資料:

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/precisionhub/archive/2014/10/14/adc-accuracy-part-2-total-unadjusted-error-explained

 

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