ADC 精度に関するブログ・シリーズの Part 1と Part 2 では、アナログ/デジタル・コンバータ(ADC)の分解能と精度の相違点と、ADC の総合未調整誤差(TUE)に影響を与える要因について説明しました。こうした誤差の大半は、周囲の条件下でキャリブレーションが可能な静的誤差です。しかし、多くのファクトリ・オートメーション/制御アプリケーションなどで一般的に見られる温度変化により、キャリブレーション後でもシステム性能ドリフトが続くことがあります。電子部品の経年劣化、湿度、圧力などの要因も、長期的な性能ドリフトに影響を与える可能性があります。

以下の 3 つの主要な要素が、データ・アクイジション・システムの精度ドリフトに影響を及ぼします。

  • Ÿ   ADC オフセット・ドリフト
  • Ÿ   ADC ゲイン・ドリフト
  • Ÿ   電圧リファレンス・ドリフト

内蔵の抵抗、コンデンサ、スイッチなどのアクティブなデバイス間のミスマッチが、ADC のオフセット/ゲイン・ドリフトに影響を与えます。ADC オフセット・ドリフト(TDOS)は、特にバイポーラ入力範囲に対応可能なコンバータの場合、バイポーラ・ゼロ誤差ドリフトと呼ばれます。図 1 に示すように、オフセット・ドリフトの結果として、ADC の全伝達関数はいずれかの方向に偏位します。TDOS は電圧リファレンスのドリフトの影響をまったく受けません。

1:オフセット・ドリフトの影響

一方、ADC ゲイン・ドリフト(TDG)はリファレンス・ドリフトに大きく影響されます。そのため、TDG は外付けリファレンスによって特定される場合が多く、測定手順によってリファレンス・ドリフトの影響を相殺します。図 2 に示すように、ゲイン・ドリフトの結果として、ADC の全伝達関数はバイポーラ・ゼロの周囲でいずれかの方向に回転します。

 

2ゲイン・ドリフトの影響

電圧リファレンス・ドリフト(内蔵または外付け)はデータ・アクイジション・シグナルチェーンの全体的な精度に大きく影響します。一般的に、外付けリファレンス・ソースは内蔵リファレンスに比べ、はるかに優れた温度ドリフト性能を示します。リファレンス電圧は ADC 伝達関数に直接影響を与えることから、この電圧のいかなる変化も ADC 伝達関数の傾斜を比例変化させます。これはゲイン誤差に過ぎません。

ADC の総ゲインは乗算係数 K と並ぶリファレンス電圧の関数です。この乗算係数はデバイスからデバイスで変動します。例えば、ADS 8688 の最大入力範囲は -2.5*VREF から +2.5*VREF に変動することから、フルスケール範囲(FSR)は 5*VREF に等しくなります。リファレンスが TDREF ppm/⁰C に相当する温度ドリフトを示す場合、ADC 伝達関数の傾斜の総変化は 5*TDREF ppm/⁰C に等しくなります。

データ・アクイジション・システムのキャリブレーションが周囲温度 TA 下で行われ、システム温度が TLO から THI に変動する場合、式 1 は全温度範囲にわたるドリフトにより、総エラー(TDERR)を示します。ドリフトが常にバイポーラ仕様であることに注意してください。

TDERR= K*TDREF*(THI, TLO – TA)MAX+ TDG*(THI, TLO – TA)MAX+ TDOS*(THI, TLO – TA)MAX(式 1)

例えば、温度が 0⁰C から 80⁰C に変動するシステムで ADS 8688 などのデバイスを使用し、25⁰C でキャリブレーションを実行する場合、±10.24V 入力範囲に対する最悪ケースの誤差は 3135ppm と計算���きます(式 2)。これは 0.3 パーセントの精度に相当し、内蔵リファレンスの温度ドリフトによって主に支配されます。

TDERR= 5*10*55 + 4*55 + 3*55 = 3135ppm(式 2)

あるシステムでは、こうした大きな温度変動が理由で、不正確さに対して敏感になります。その場合、温度ドリフトのキャリブレーションのために一般的に使用される手法は、異なる温度でシグナルチェーン全体のゲイン/オフセット誤差を測定し、ルックアップ・テーブルにキャリブレーション係数を記録するというものです。これは明らかに時間のかかるプロセスであると同時に、正確な温度測定のために追加のハードウェアを必要とします。こうした課題に対応するためには、追加のシステムコストが必要となります。

温度キャリブレーションを行わないシステムの場合、式 1 に基づき、計算し、最悪ケースの誤差を見積もるために、ドリフト仕様に注意を払うことが重要です。こうしたシステムについては、変動するプロセス条件下でのデバイスの最悪ケースの統計的なドリフトを把握することが重要です。多くのメーカーは通常、コスト節減のために代表的な仕様としてドリフトを明記しますが、これはシステム設計者にとって非常に役立つものではありません。そのため、最悪ケースのゲイン、オフセット、リファレンス温度ドリフトの仕様を明記している ADS 8688 などのデバイスの場合、システム設計者にとって、全動作温度範囲にわたる最悪ケースのシステム精度の見積りがより容易になります。

3 部構成のこのブログ・シリーズを終えることになりますが、ADC シグナルチェーンの DC 精度に影響を及ぼすとともに、温度ドリフト性能に関してシステム設計の最適化を可能にするさまざまな係数を理解したと思います。

制御システムの高精度 ADC 性能を最適化する方法の詳細については、TI の Kaustubh Gadgil が執筆した SAR ADC 応答時間に関するブログ・シリーズ(英語)をご覧ください。

 

関連資料:

  • Ÿ   ADS 8688:16 ビット、8 チャネル、500ksps、+5V 電源からのバイポーラ入力逐次比較型レジスタ(SAR)ADC の詳細をご覧ください。
  • Ÿ   アプリケーション・ノート:「ADC Performance Parameters - Convert the Units Correctly!」(英語)
  • Ÿ   TIDA- 00170:PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)向け 16 ビット、アナログ・ミックスド入力/出力モジュール・リファレンス・デザインを使い、実際の SAR ADC の精度関連の原理についてご確認ください。

アナログ回路設計式一覧ポケット・ガイドは一般的なA/D変換とその他の基板/システム・レベルの設計式を紹介しています。ぜひご活用ください。

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/precisionhub/archive/2015/02/27/adc-accuracy-effect-of-temperature-drift-on-adc-signal-chain-part-3

 

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