逐次比較(SAR)型A/Dコンバータの入力タイプ別の比較を続けます。これまでに、SAR A/DコンバータのSAR型A/Dコンバータの入力タイプの比較SAR型A/Dコンバータの入力タイプの性能比較 パート1 のブログ記事で説明をしました。このブログでは、SAR型A/Dコンバータ内のTHD(全高調波歪み)の原因と、入力タイプによる違いについて説明します。

THDの影響

まず、高調波歪みがどのように発生するかを考えます。コンバータは、基本的には非直線システムです。システムが完全に直線であれば、入力xに対して、mx+cの出力が得られるはずです。しかしサンプリング・コンデンサと変換コンデンサ、量子化の非直線動作のため、信号xが非直線システムで処理されることで、A/Dコンバータの出力にはDCと高次の誤差項(x2、 x3、 その他)が発生します。

出力を周波数ドメインで観測したとき、各高次項 (x2、x3 その他) は不要信号(スプリアス)として表れます。これらは、基本波信号の整数倍の周波数に表れ、これを高調波と呼びます。

この動作は、基本的な三角法を使うことで直覚的に理解できるでしょう。入力信号のフーリエ展開は、サイン項(sin (2πƒt)と、コサイン項cos (2πƒt)で構成されています。 このような信号が非直線のA/Dコンバータを通ることによって、出力には基本波成分のほかに、DC成分(a0)とその他の高次の誤差項(x2、x3 → sin2 (2πƒt)、cos2 (2πƒt)、sin3 (2πƒt)、cos3 (2πƒt) その他) が表れます。

表1に示すように、それぞれの高次項は、基本波の整数倍の周波数 のスプリアスとして出力に表れます。高次項x4、x5 その他も同様です。これらの成分 のべき数が高調波歪みを発生します。通常、A/DコンバータのTHDは、出力に含まれる、第二から第十までの9個の高調波成分の電力の合計と、基本波信号の電力との比であり、次の式で表されます。

通常、SAR型コンバータでは差動入力の方がシングルエンド入力よりも良好なTHD特性を提供します。この理由を理解するため、非直線A/Dコンバータに表れる信号を表す式を検討してみます。

シングルエンド入力のSAR型コンバータは、非直線動作のため、DCオフセット (a0) と変換誤差係数 (a2、a3など)から、高次項(V2DIFF、V3DIFFその他) などが出力に表れます。しかし、図3に示すように、偶数次の項 (a2、a4その他)を含むすべての誤差係数は、サミング・ノードの後段まで伝わります。

差動入力のSAR型コンバータは、偶数乗の項が変化し正符号となります。同相モード除去比が良好な場合、偶数次の項のペア ([a2b2][a4b4]その他) は極性が変化することで、サミング・ノードで打ち消し合います。図3に示すように、偶数次の項([c2 = a2 – b2]その他) は出力に全く表れないか、あるいは大幅に小さくなることで、より良好なTHD特性が得られます。

上に説明したようなノイズやAC性能の違いを知っておくことは、適切な入力タイプのSAR型コンバータを選択し、最高の性能を発揮させる上で役立ちます。このことは、特に、ADS 886xファミリの異なる入力構成の製品を選択する場合や、ADS 8363ADS 7263ADS 7223をはじめとした複数の入力タイプをサポートするA/Dコンバータを選択する場合に役立ちます。

 

SAR型 A/Dコンバータの詳細は、次のブログ記事でも解説しています。

 

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

https://e2e.ti.com/blogs_/b/precisionhub/archive/2014/09/30/performance-comparison-between-sar-adc-input-types-part-2

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