近年、多数の高分解能の高精度D/Aコンバータ製品が、産業用テスト・計測機器に採用されるようになりました。設計者は総システム・コストを削減するため、しばしば、低分解能を余儀なくされることがあります。本稿では、まず1個の16ビットD/Aコンバータと2個のオペアンプを使って18ビットD/Aコンバータを構成する手法について解説します。その後、18ビット精度の出力が得られる2種類の回路トポロジを解析します。その一つは1チャネルの16ビットD/Aコンバータを、もう一つは4チャネルの16ビットD/Aコンバータを使います。最後に、両方のトポロジの一般的な動作理論について検証します。最後に、A/Dコンバータを統合したマイコンを活用することで、市場に供給されている最も高精度の18ビットD/Aコンバータの半分の価格で、低いDNL(微分非直線性)を可能にするとともに、伝達関数全体で単一増加性を保証するアルゴリズムについて説明します。

コンセプト

このデザインに関するハイレベルなアイディアは、4個の16ビットD/Aコンバータの出力を加算することで18ビット出力を発生できるという事実に由来しています。図1のブロック図で、理想的な伝達関数について検証してみましょう。

図 1: (a) D/Aコンバータの出力を加算するブロック図 (b) 理想的な18ビットD/Aコンバータの伝達関数

それぞれの16ビットD/Aコンバータの出力範囲が0~2.5 Vの場合、D/AコンバータAは0~2.5 Vの範囲で出力電圧を制御できます。D/AコンバータAがフルスケール電圧の2.5Vを出力しているとき、D/AコンバータBが0~2.5Vの出力電圧をサミング・アンプの入力に加えることができれば、サミング・アンプの出力は2.5V~5Vになります。この動作をD/AコンバータCとD/AコンバータDで行えば、出力範囲はそれぞれ5V~7.5Vと7.5V~10Vになります。実際には、各D/Aコンバータはゼロ・コード誤差やフルスケール誤差を持ち、2に示すように、これらの誤差が伝達関数の全体に影響を与えます。この状態で、比較的簡単な較正によって、各D/Aコンバータの出力電圧範囲のつなぎ目での、ゼロ・コード誤差とフルスケール誤差非直線性を排除できます。

 

図 2: この18ビットD/Aコンバータの伝達関数のゼロ・コード誤差とフルスケール誤差

推奨回路トポロジ

この伝達関数を実現するソリューションには、3に示すように4チャネルD/Aコンバータを使い、各D/Aコンバータの出力を、サミング・アンプの入力につなぐ方法があります。

 

図3: 4チャネル16ビットD/Aコンバータを使うトポロジ例

サミング・アンプの伝達関数は、次のようになります。

このトポロジは、2個のICだけで構成されるため、部品点数が少なくて済むほか、比較的簡単な制御ロジックと、1本のSPI(シリアル・ペリフェラル・インターフェイス)バスで4チャネルのD/Aコンバータを制御できます。D/Aコンバータのチャネルは、それぞれ 異なるゲイン誤差、オフセット誤差やフルスケール誤差を持っていることから、4aに示すように、システム全体のINL(積分非直線性)は増しますが、各D/Aコンバータを直線領域のみで動作させるように較正することで、4bに示すように、伝達関数全体のINLを低減できます。各D/Aコンバータは異なるゼロ・コード誤差やフルスケール誤差を持っていることから、最大限の性能を得るためには、それぞれのつなぎ目で較正を実施する必要があります。

図 4: (a) 4チャネルD/Aコンバータを使うトポロジの伝達関数 (b) 同トポロジで較正を行った場合の伝達関数

次に、下に示す第二のトポロジでは、一度に一回のD/Aコンバータの入力コード変化のみで、0~10V出力、18ビットの伝達関数を得る設計を行いました。この回路では、必要な出力を得るためにD/Aコンバータからの0V、2.5V、5Vまたは7.5Vの出力電圧を足し合わせることが必要です。第一のトポロジで行ったような4チャネルのD/Aコンバータ出力を使って設定電圧を作る代わりに、第二のトポロジでは、5に示すように1個のD/Aコンバータの2.5Vリファレンス出力を可変ゲイン・アンプ回路に加える、可変リファレンスのトポロジでサミング・アンプを使い、D/Aコンバータ出力に加算します。 

図5: 可変リファレンス・トポロジの例

この可変リファレンスのトポロジは4チャネルD/Aコンバータを使う手法に対して、いくつかの重要な利点を備えています。まず、D/Aコンバータが1個で済むため、ゲイン誤差やオフセット誤差は18ビットの伝達関数全体に渡って一定であり、4チャネルのトポロジと比較して良好なINL特性を得ることができます。

この可変リファレンスのトポロジは、出力範囲のつなぎ目で、4チャネルD/Aコンバータのトポロジとは、やや異なる問題を発生します。4チャネルのトポロジでは、各D/Aコンバータのゼロ・コード誤差が足し合わされることから、つなぎ目ではDNLは低くなりますが、この可変リファレンスのトポロジでは6aに示すようにゼロ・コード誤差とオフセット誤差が追加のDNLを発生します。次に、このシステムを較正するためのアルゴリズムの詳細について説明します。6b は較正後の特性です。このD/Aコンバータを直線領域のみで動作するように較正した場合、システムのフルスケール出力は10Vにはなりません。シミュレーションではフルスケール出力はおよそ9.88Vになることがわかります。

図6: (a) 可変リファレンス・トポロジの伝達関数 (b) 同トポロジで較正を行った場合の伝達関数

この可変リファレンスのトポロジは、4チャネルD/Aコンバータのトポロジよりも基板1枚あたりの部品点数が多くなりますが、1チャネルのD/Aコンバータで済むことから、部品コストを削減できます。

可変リファレンスのトポロジ

本稿で示した過渡シミュレーションから、各D/Aコンバータをそれぞれの直線領域のみで動作するよう較正した場合の利点がわかります。大多数のD/Aコンバータのデータ・シートでは、一般にD/Aコンバータが最も直線的に動作する領域である485d~64714d(10進数)、または0x01E5 ~0xFCCA(16進数)の入力コード範囲での相対精度(これはINLとも呼ばれます)が記載されています。システム全体のコード数を増やそうとするならば、0xFCFFは、まだかなり高精度の動作領域であることから、本稿で示す例では、これを最大コートとして使います。理想的なD/Aコンバータでは、入力コード0xFCFFに対応する出力電圧は、およそ2.4707Vです。この理由から、この可変リファレンスのトポロジに使うリファレンスは、抵抗で2.46Vに分圧しました。スイッチをオンにすると、D/Aコンバータ出力に、この2.46Vのリファレンス電圧が加算されます。また、D/Aコンバータの入力コードが0x0119の場合、出力はおよそ0.0107Vとなり、このステップのDNLは、1LSB(最下位ビット)と同じか、それ以下となります。この論理は、およそ5Vや7.5Vのつなぎ目でも同様に成立します。

もちろん現実世界のD/Aコンバータ製品は、これらのつなぎ目で正または負の方向の誤差を持っています。このため、DNL特性に満足できない場合、下の3を使って新しい較正コードを見つけてく��さい。Gain は次の電圧範囲を発生しるための可変リファレンス回路のゲイン、MAX はこのD/Aコンバータの最大電圧出力に使う最大��ードで、この場合は0xFCFFです。

3の較正コードの計算にはゲイン誤差が入っていないことに注意が必要です。この理由から、DNLは1LSBを超えることがあります。この場合、4を使ってDNLを見積り、それを元の見積較正コードから差し引いて新しい較正コードを作成してください。設計に必要なDNL特性が得られるまで、この手順の繰り返しが必要になることがあります。

 

A/Dコンバータを統合したマイコンでSPIバスやスイッチを制御するシステムの場合には、内蔵A/Dコンバータを活用して、システムを自動較正することも可能です。

まとめ

上で解説した2種類のトポロジでは、よりコスト効率に優れた1チャネルまたは4チャネルの16ビット D/Aコンバータを使い、それぞれのつなぎ目で低いDNL特性と、コード範囲全体での単調増加性を保持しながら、0~10Vの出力範囲で18ビットの伝達関数を発生できます。本稿では、各トポロジの利点と欠点について評価し、異なる設計目標での使い分けについても解説しました。最後に、可変リファレンスのトポロジの出力範囲のつなぎ目でのDNLを低減するための較正アルゴリズムについても解説しました。

<参考情報>

<著者紹介>
ジョナサン T. キー(Jonathan T. Key)
TI 高精度 D / Aコンバータ アプリケーション・エンジニア
テキサス工科大学卒業(コンピュータ・エンジニアリング専攻)
現在、電気工学修士課程に在籍。

ラフール・プラカシュ(Rahul Prakash
TI 高精度アナログ・データ・コンバータ ・グループ  プロダクト・ディファイナ
数々の先端テクノロジー専門誌にアナログ回路設計技術に関する記事を執筆および、カンファレンスにおいて講演を担当。アナログ回路設計と技術に関して3つのアメリカ特許を保有。テキサス大学ダラス校にて理学修士号取得(電気工学、マイクロ・エレクトロニクス専攻)

クナル・ガンディー(Kunal Gandhi
TI 高精度アナログ・データ・コンバータ・グループ プロダクト・マーケティング・エンジニア 
7年間、ミックスド・シグナル設計エンジニアとして従事し、現職に至る。
南カルフォニア大学に理学修士(電気工学)およびテキサス大学オースティン校にて経営学修士(MBA)取得

※2017年1月30日マイナビニュース掲載のテキサス・インスツルメンツ寄稿記事を転載

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