デルタ・シグマ変調器とデジタル・フィルタ使用時のシステム・トレードオフ

デルタ・シグマ変調器の性能について分析する際、メーカーは一般に変調器をローパス・デジタル・フィルタと組み合わせることを前提にしています。その際、選択されるフィルタのタイプは多くの場合、3次sincフィルタです。

図1に代表的なsinc 3フィルタの周波数応答を示します。

 図1:20MHz、OSR=256のsinc 3フィルタの周波数応答

sincフィルタは、CIC(カスケード積分コム)フィルタと呼ばれるデジタル・フィルタ・ファミリに属します。CICフィルタはハードウェア構造の効率が非常に高く、他のフィルタ・アーキテクチャと比較しデジタル・ゲート数が相対的に低い形で構築できることから、多くの場合、デルタ・シグマ変調器との組み合わせにより使用されます。図1はsincフィルタ使用時の主なトレードオフ関係を示しています。フィルタ構造はシンプルで実装コストが低くなりますが、こうしたフィルタの遷移帯域はむしろ広くなります。

モーター・コントローラとパワー・インバータは多くのケースで、図2に示すようなデータ・アクイジション・システムを使用しています。多くの「ノブ」が用意されており、回すことでシステム設定を行うことができます。ここで重要な疑問となるのが、「個々のノブがシステム性能にどのような影響を及ぼすか?」です。

 図2:デルタ・シグマ変調器とデジタル・フィルタを使用したデータ・アクイジション・システムの簡略図

こうした疑問に答えるため、さまざまなシステム変数とその相互作用を検討してみます。

まず考慮しなければならないのは、クロック周波数(変調器とデジタル・フィルタのいずれも動作させるために使用される周波数)と出力データレートの関係です。2つの変数の関係は式(1)で表されます。

 式1のオーバーサンプリング比(OSR)変数はデジタル・フィルタの特性の1つで、本質的には実行されるデシメーション・レベルを規定します。要するに、OSRは(出力データレートに応じたサンプル比での)フィルタによって出力されるサンプルごとの(クロック周波数に応じたサンプル比での)フィルタによって処理されるサンプル数を示します。

図3は出力データレート(毎秒サンプル数=SPS)とOSRの相互関係について示しています。

 図3:さまざまな変調器周波数に対するサンプリング・レート

例えば、20MHzのクロックで動作し、OSRが256のシステムの場合には、フィルタ・データレートは78,125SPSとなります。また、10MHzのクロックで動作し、OSRが10のシステムの場合には、フィルタ・データレートは1MSPSとなります。

では、20MHzのクロックを使用し、システムから得られる性能レベルを調べてみます。それに役立つのが図4に示すグラフです。

 図4:20KHzで動作するシステムの、フィルタ・タイプ、OSR、データレートを関数とする有効ビット数と信号対ノイズ比

図4はシステム性能に関する2つの重要なメトリクスを示します。下記の式2は有効ビット数(ENOB)と信号対ノイズ比(SNR)の関係を示します。ENOBとSNRはアクイジション・システムの効率を示します。図4が示すように、OSRとフィルタ・タイプはシステム性能において重要な役割を果たしており、OSRが高くなればシステム精度が向上します。また、図4は精度向上の見返りにデータレートが低下することも示しています。

 性能に関連して残っているもう1つの疑問が、シグナルチェーン中にレイテンシが存在するかどうかです。レイテンシは確かに存在します。(より高次のフィルタを選択するか、OCRを上げることにより)フィルタリング選択でよりアグレッシブになればなるほど、システムのレイテンシが増大します。

 図5:ステップ入力応答: 20MHzで動作するシステムのフィルタ・タイプごとのセトリング・タイム

図5に示すように、(より高次のフィルタを選択するか、OCRを上げることにより)システムの精度を向上すると、ステップ入力に対するセトリング・タイムが長くなります。セトリング・タイムが長くなることは、システムのレイテンシが長くなることを示しています。

システム設計者は常に、性能のトレードオフに直面します。図2に示すようなシステムも例外ではありません。こうしたシステムで存在するトレードオフは以下の通りです。

  • žもしSNRとENOBの高い、高精度システムを選択する場合には、フィルタ次数ノブとOSRノブの設定値を高く設定します。そのトレードオフとして、出力データレートが低下し、レイテンシが長くなります。
  • žそれに対し、セトリング・タイムが短い高スループット・システムを選択する場合に、フィルタ次数ノブとOSRノブの設定値を低く設定します。そのトレードオフとしてSNRとENOBが低下します。

幸いなことに、これらの2つの極端なケースの間には多数の可能性が存在しており、個々のアプリケーション・ニーズに対応した最適なシステムの選択が可能です。

 その他のリソース:

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/precisionhub/archive/2015/02/03/system-trade-offs-when-using-delta-sigma-modulators-and-digital-filters

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