位置センサ、データ取得システム、抵抗温度検出器(RTD)のような応用例では、高精度な設計が極めて重要です。高精度ICを用いて設計することで、多くの場合、シグナル・チェーンの複雑さを軽減し、外部部品の数を減らし、基板面積とBOM(部品構成表)コストを最小限に抑えることができます。一つのデバイスで誤りが生じれば、それが他のデバイスに伝搬し、予期せぬ好ましくない結果を引き起こす可能性があります。特にDAコンバータ(デジタル-アナログ変換回路、DAC)の出力で用いられるバッファー向けオペアンプの場合、正確な出力を得るために高精度なDACとオペアンプを使用することが不可欠です。

従来のレール・トゥ・レールCMOSアンプ・アーキテクチャには、図1に示されるようにPMOS(青)とNMOS(赤)という2つの異なる一対のトランジスタが含まれます。これらの2つのトランジスタ・ペアにより、コモンモード入力電圧範囲全般に対応しています。しかし、一方のトランジスタから他方のトランジスタに引き継がれる時、2つの異なる入力ペアに固有の入力オフセット電圧が原因で、「クロスオーバー歪み」と呼ばれる非直線性の歪みが生じていました。

1:従来のレール・トゥ・レールCMOSアンプ・アーキテクチャ

 

2:入力オフセット電圧 vs. コモンモード電圧

高精度DACの出力で従来のレール・トゥ・レールCMOSオペアンプに接続するとき、クロスオーバー歪みによりエラーが生じ、積分非直線性誤差(INL)が著しく増加することになり、結果として、信号はその理想値から多くの最下位ビット(LSB)が除去される可能性があります。

ここで、1LSBとはどのような意味を持つのでしょうか?下記の方程式(1)は、LSBを計算するための簡単な方程式です。

NはDACのビット数を指します。

『DAC 8830』は16ビットDACですので、電圧基準がVref = 5Vの場合は、以下の方程式となります。

このように、1LSB以上の誤差により、76.3µV以上の出力エラーが生じることがわかります。これは、わずかな誤差でも顧客のエンド製品に悪影響を及ぼす可能性のあるクリティカルシステムなど、多くの高精度アプリケーションに支障をもたらす危険があります。

ではどうすれば、この問題を解決できるでしょうか?その鍵はゼロ・クロスオーバーにあります。

『OPA 388』のようなゼロ・クロスオーバー・オペアンプを使用することでコモンモード入力電圧範囲全般に対応することができます。このクロスオーバー・トポロジは、図3で示されるように内部安定化電荷ポンプを使用して正電源電圧を上昇させ、コモンモード入力電圧から単一の入力トランジスタ・ペアのレールに至るまで直線性動作を実現します。その結果、クロスオーバー領域のない真のレール・トゥ・レール入力動作が可能となり、クロスオーバー歪みを解消します。このオペアンプをDACの出力に接続しても、従来のレール・トゥ・レールCMOSデバイスのようにコモンモード領域(正側レール下で1Vから2V)内でエラーが発生することはありません。

3:ゼロ・クロスオーバー・アンプ・アーキテクチャ

図4の黒の折れ線は、DAC(『DAC 8830』)で従来のレール・トゥ・レールCMOSオペアンプ(『OPA 340』)を使用した時の出力を、赤の折れ線は同じ『DAC 8830』ゼロ・クロスオーバー・オペアンプ『OPA 388』)を使用した時の出力を指します。『DAC 8830』『OPA 388』 を使用した際の出力では 『DAC 8830』『OPA 340』を使用した際に頻繁に見られる歪みが発生していません。この出力についての詳細は「 High-Precision Reference Design for Buffering a DAC Signal」を参照ください。

 

4:レール・トゥ・レールCMOSO 『OPA 340』とゼロ・クロスオーバー『OPA 388』INL比較

このリファレンス・デザインをより広い視野で捉え、MRI装置のような応用例で使用した場合について見ていきましょう。MRIは、患者の診断や健康状態を調べるために人体の詳細な2Dまたは3D画像を生成する装置です。アンプの出力信号において、エラー範囲を超える、許容できないほどの歪みが生じ場合、この画像品質を損なう可能性があります。

『OPA 388』はゼロ・クロスオーバーおよびゼロ・ドリフト技術を用いた業界初のオペアンプです。ゼロ・ドリフト・オペアンプは、内部自動修正回路を備え、極めて低い入力オフセット電圧(VOS)とほぼゼロに近い入力オフセット電圧ドリフト(dv/dt)を実現しています。また、この技術は、1/fノイズ(フリッカー・ノイズ)の解消、ブロードバンド・ノイズ(ホワイトノイズ)と出力歪みの低減といった利点もあり、過酷な環境下でのシステムの信頼性を高めるのに貢献します。例えばスイミングプールを例に見ていきましょう。プールのpHテスターや監視システムは、環境温度の変化に耐え、塩素の不足や過多を正確に測定する必要があります。多くのプールは屋外に設置されているため、寒い冬の日と暑い夏の日では環境温度が大きく変化します。オフセット電圧は温度偏差により変動し、その影響でエラーを引き起こします。そのため、これらの温度変化全般にわたりシステムの信頼性を確保するために、低オフセット電圧ドリフトのオペアンプを選択することが不可欠となっています。

このように、高性能と高精度を確保するために、システムを設計する前に慎重に部品を選択するべきでしょう。まずは、しっかりとご自身のシステムを理解し、どれくらいのエラーを許容できるのかを知ることが大事です。そうすることで初めて、TIの多様な製品群を使用して、ご自身のニーズにあった究極的なソリューションを開発することができるのです。

参考情報
•技術資料: ゼロ・ドリフトゼロ・クロスオーバー
•データシート: 『OPA 388』『DAC 8830』

※すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらのBlog記事(2017年4月21日)より翻訳転載されました。

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