完全統合型の信号・電源アイソレータを用いた低放射の実現

Anand Reghunathan , Koteshwar Rao & Anant Kamath -2017年3月22日

絶縁は、システムの2つの部分の間で信号・電力の伝達を許しながら、直流(DC)と不要な交流(AC)を阻止します。絶縁は、作業者や低電圧回路を高電圧から保護するほか、ノイズ耐性の向上、通信サブシステム間のグランド電位差の処理のため、ファクトリー・オートメーション、グリッド・インフラストラクチャなど広範なアプリケーションで使用されています。

ほとんどの場合には、信号の絶縁とともに、絶縁型の電源が必要になります。このような電源は、フライバック、Fly-Buck、プッシュプルDC/DCコンバータを使用して絶縁トランスを駆動した後、2次側での整流によって作ることができます。しかし、現在では信号と電源両方の絶縁をワンチップ内に集約したコンパクトで効率の良い完全統合型ソリューションが提供されています。そのようなデバイスの概念ブロック図とピン配置例を1と図2に示します。

 

信号・電源アイソレータを備えた完全統合型ソリューション

 

シングルチップ信号・電源アイソレータ

従来の方法では、サイド1からサイド2へ電力を伝達するため、ドライバとともにトランスが使用されます。これらのトランスをシングルICソリューション用に小型化したチップスケール・トランスにより、SOパッケージの中に絶縁型電力コンバータを内蔵できるようになりました。このようなトランスはサイズが非常に小さく、(直列抵抗を小さくするため)巻線は数回しか巻かず、多くの場合は磁気コアを使用しません。従って、そのようなトランスを駆動するDC/DCコンバータは、数10Mz以上の周波数で動作する必要があります。同時に、トランスの1次側/2次側巻線は、パッケージ内で極めて接近しているため、トランスの2つのコイル間には大きな寄生容量が生じます。

DC/DCコンバータに高速過渡事象が生じると、この寄生容量を通じて、サイド1とサイド2の間にコモン・モード電流が発生します(3)。両サイドは完全に絶縁されているため、電流は基板レベルの寄生容量を通して大きなリターン・ループを形成します。この大きな電流ループが絶縁システムで放射の原因となるのです。別の見方をすれば、基板の2つの絶縁部は、ダイポール・アンテナの送信機を形成します。

オンボード・トランスを使ったディスクリート実装では、磁気コア・トランスのインダクタンスが大きく、スイッチング周波数ははるかに低いため、放射は小さくなります。

 

絶縁バリアをまたぐコモン・モード電流は大きなリターン・ループを形成

この記事では、完全統合型の信号・電源ソリュ-ションを使用してシステムの放射を小さくする方法について説明します。

手順1:適切な統合型デバイスの選定

既存の統合型の信号・電源絶縁ソリューションは、電磁気放射の点からすべてが同じというわけではありません。慎重に回路設計とクロック管理を行えば、デバイス・レベルで電磁気放射を小さくすることが可能です。4に、CISPR(国際無線障害特別委員会)22Bの放射要件をシンプルな評価ボードによって満たすデバイスの例と、満たさないデバイスの例を示しています。この比較をチップレベルで行い、放射が少ないデバイスを選定することが重要です。

ISOW7841』と競合デバイスの放射(5V入力、80mA負荷時)

 

手順2:低い入力電圧での動作

絶縁型電力デバイスは、標準電源である3.3Vと5V両方との互換性のため、広い入力電圧範囲(通常3~5.5V)に対応します。5Vと比較して、3.3V動作時は、パワー・トランジスタの低電圧駆動により、内部DC/DCコンバータのスルー・レートは低くなります。この結果、絶縁バリアをまたぐコモン・モード電流は減少し、放射も小さくなります。5からわかるように、3.3V電源での放射は5V電源の場合より大幅に小さくなります。

 

ISOW7841』の放射(5Vおよび3.3V入力時)

手順3:入出力デカップリング・コンデンサ、入力バラスト抵抗、フェライト・ビーズ

先ほど述べたように、完全統合型の絶縁型電源を持つデバイスは、トランスの低いインダクタンスを補うため高速のスイッチング周波数を使用します。このようなデバイスでは、レギュレーションを維持しながら、要求された出力DC負荷を供給するために、何らかの形で電力変換のデューティ・サイクル制御を行います。コンバータがオンになると、入力電源電圧VCCから大きな電流が流れます(6)。この電流には、低周波成分(レギュレーションの閉ループ帯域幅にほぼ比例)と高周波成分(DC/DCコンバータのスイッチング周波数とその高調波)が含まれます。

電源のデカップリング・コンデンサと入力バラスティング抵抗

集積回路(IC)入力部のさまざまな容量の入力コンデンサ・バンク(C1 = 100nF、C2 = 1µF、C3 = 100nF)は、高周波成分の多くを取り除き、バックプレーンの電源経路への伝播を阻止します。ループ1の面積を抑えるため、これらのコンデンサはICのできるだけ近くに配置することが重要です。容量が最小のコンデンサをICの一番近くに取り付けます。出力側に配置される同様のコンデンサ・バンクは、DC/DCコンバータ2次側のスイッチング電流を除去します。ループ2の面積を最小にすることが重要です。

デカップリング・コンデンサがあっても、バックプレーン電源経路には電源ネットワークの出力インピーダンスによっては高周波と低周波の電流が流れる(ピーク電流100~500ミリアンペアで数マイクロ秒継続)ことがあります。入力電源経路が長い場合は、バラスティング抵抗(RS)および追加の大容量コンデンサ(CF)によって、入力電源経路への電流の流入を阻止し、放射を小さくすることができます。これは、ループ3内の電流減少に有効です。

RSの推奨値は、VISOで全負荷時(130mA)の1Ω~軽負荷時(<10mA)の5Ωです。CFの推奨値は100µFです。放射結果に基づいて、これらの値を調整したり、重要でない部品を除去したりすることができます。フェライト・ビーズ(L1)を設計に含めれば、高周波ノイズのバックプレーン到達を防止できます。

7は、レイアウト例のイメージで、デカップリング・コンデンサの配置を示しています。このレイアウトでは、全グランド・プレーンを接続する基板エッジ沿いのスティッチング・ビアによってファラデー・シールドが形成されます。これにより、ノイズが多い内部トレースやプレーンからの放射を阻止します。

7 ISOW7841』評価モジュール

手順4:サイド1とサイド2の層間コンデンサの利用

先ほど述べたように、サイド1からサイド2に流れるコモン・モード電流と大きなリターン・ループが絶縁システムでの放射の主な原因です。電流ループを最小にする方法の1つが、サイド1とサイド2の間に高電圧コンデンサを追加し、ICのできるだけ近くに配置することです(図8)。

図8 サイド1・サイド2間の高電圧コンデンサによってコモン・モード電流のループ面積を縮小

このような用途に適したコンデンサは、電源でよく使用される高電圧Y2コンデンサ(表面実装デバイス[SMD]もしくは適切なクリーページ/クリアランス・レベルのリード付きデバイス)などです。プリント基板(PCB)上でY2コンデンサを使用する場合、コンデンサの寄生インダクタンスとともにコンデンサ両端でリード・インダクタンスが発生し、200MHzを超える周波数ではコンデンサとして機能しなくなります。低インダクタンスの容量を作成する方法の1つが、PCB内部の層をオーバーラップする方法です。

4層PCBで、上層が信号、2層がグランド、3層がVCC、下層が信号となっているものを考えてみましょう。システム絶縁のため、PCBの層は、サイド1の層(Signal1、GND、VCC1各層を形成)とサイド2の層(Signal2、GND2、VCC2各層を形成)の2グループに分けられます。内部の基準層(GND、VCC)を絶縁バリアの両側に拡張(図9)し、内部の層にオーバーラップを作成します。

このオーバーラップ領域は、GND1とVCC2層の拡張によって形成され、2層間のFR4材質が誘電体となって、GND1とVCC2間にスティッチング容量を生成します。高速過渡コモン・モード電流に対しては、GNDとVCC基準点は、(AC解析と同様に)同一基準と見なされます。従って、層間スティッチング容量は、サイド1とサイド2の基準点間に形成されます。図10は、4層PCB内部に生成された層間スティッチング容量を立体的に表したものです。

 

図9 層間スティッチング容量を持つPCB層の断面図

 

図10 層間スティッチング容量を持つPCB層の立体図

サイド間に形成される等価容量は、式1を用いて求めることができます。

ただし、ε = ε0 εrとします。Ciは層間スティッチング容量、ε0は空気の誘電率(8.854pF/m)、εrは誘電体の比誘電率(FR4では4.2)、Aはオーバーラップする面積、dはGND層とVCC層の間隔です。

式1から図9のPCBの層間スティッチング容量Ciを求めると、約30pFとなります。

システム全体の絶縁性能を満たすには、絶縁バリア上に適切な間隔でスティッチング容量を形成しなければなりません。この間隔は、最終装置の電気的安全規格と動作電圧条件によって決定されます。機能絶縁または基本絶縁が定義されたシステム規格の多くには、同じまたは異なるプレーン上のサイド1とサイド2の層間の最小間隔の規定がありません。そのようなシステムでは、容量を最大にするために、オーバーラップする領域間の間隔を最小にすることが最善です。また、バリアに加わる予測動作電圧と、絶縁材料の絶縁耐力も考慮しなければなりません。

安全システム用および強化絶縁を持つシステム用の規格では、同じプレーン上および異なるプレーン上の両方についてサイド1とサイド2の層間の最小間隔要件が規定される場合があります。300VRMS未満のシステムでは0.4mm間隔、300VRMS~600VRMSのシステムでは0.6mm間隔にすれば、大半の標準規格を満たします。標準化団体では、この間隔に加えて、一時過電圧とサージ電圧について規定しています。例えば、国際電気標準会議(IEC)66010-1では、3510VRMSで5秒間の耐圧試験に加え、300VRMS~600VRMSの商用電源電圧の強化絶縁に対しては6400VPKのサージまたはインパルス試験を義務付けています。絶縁耐力に留意して、これらの電圧に耐える層間の間隔を設計する必要があります。例えば、FR4の絶縁耐力は20kV/mmです。

図11は、層間スティッチング容量の使用で放射が減少することを示しています。2つのサイド間に30pFのコンデンサがあるだけで、全周波数にわたって10~20dBの改善が可能です。スティッチング値が大きくなれば、放射の減衰量も次第に大きくすることができます。

 

図11 スティッチング容量30pFがある場合とない場合の『ISOW7841』(5V入力、80mA電流負荷)

バリアの間隔を維持する以外に、PCBのエッジは特に注意する必要があります。エッジでは、プレーンが空気にさらされる可能性があります。反対の電圧が基板のエッジに接近するため、エッジに沿って電界ひずみ、さらには空気の絶縁破壊が生じる可能性があります。鋭いエッジやコーナーは、周辺の電界強度を増加させて空気の絶縁破壊の一因となるため、高電圧インパルス試験で絶縁破壊経路が生じる可能性があります。このような事態を避けるため、PCBのエッジでは内部層を切り詰め、鋭いエッジを三角形にカットして修正し、電荷密度を分散させます。そのような実装例を図12、13、14に示します。コーナーとプレーンを丸めることで、ソリューションをさらに改善することができます。

図12 PCBのエッジ近傍にある尖った鋭いエッジ

図13 エッジから引っ込めたスティッチング・プレーン

図14 高電圧性能改善のため実装された三角形のコーナー

誘電体で完全に囲まれたPCBの内部層では(先ほど述べたように)比較的狭い間隔が許されますが、信号の上層と下層ではもっと広い間隔を保つ必要があります。この間隔は、予測される一時過電圧、インパルス電圧、高度や汚染度などの環境条件に基づいて決定されます。 

手順5:保護接地への直接接続または容量結合

大半の絶縁システムのコントローラ側(「コールド」側)は、システム筐体に接続され、さらには保護接地(PE)に接続されます。しっかり接地接続することにより、コントローラ側のグランドは安定点に接続され、システム内でコモン・モード・ノイズから生じる電磁放射が減少します。従って、可能な場合、絶縁システムのコントローラ側は保護接地としっかり接続する必要があります。

アナログおよびデジタルI/Oモジュール、絶縁型RS-485およびCANなどのインターフェイスの絶縁グランドは、高電圧安全コンデンサを使って保護接地と交流的に接続することができます。この容量結合は、バスやI/Oケーブル上の放電(ESD)、サージ、電気的高速過渡(EFT)用の保護接地に対してリターン・パスを提供します。また、絶縁グランド上のコモン・モード・ノイズを削減し、その結果、インターフェイスおよびI/Oケーブルを通しての放射を削減します。

図15に、統合された信号・電源アイソレータを用いた絶縁型RS-485システム例を示します。マイコンのグランドは直接接続され、絶縁グランドは保護接地に容量結合されており、入力電源ケーブルおよびRS-485バスからの電磁放射を最小限に抑えます。

 

図15 絶縁型RS-485アプリケーションにおける保護接地への直接接続および容量結合 

手順6:コモン・モード・チョークの使用

DC/DCコンバータを含むシステムに接続された長いケーブルやワイヤは、コンバータから高い周波数のスイッチング成分を拾って、送信アンテナの役割をする可能性があります。このため、ケーブルが長くなると放射レベルが増加します。これに対する解決策は、できるだけコモン・モード電流ループを小さくし、ケーブルを短くすることです。システムで長いケーブルを避けられない場合、グランドと保護接地/筐体間の接続が良好であれば、コモン・モード・ノイズを減衰させるためにコモン・モード・チョーク(図16)を使用できます。統合型絶縁電源ソリューションに対して、チョークは共通電流およびリターン・パスのループ面積を減少させるために有効であり、間接的に放射を削減します。コモン・モード・チョークは、入出力電源上に、またはシステムに接続された長いケーブル上に挿入可能です。 

図16 入出力電源およびI/Oライン上のコモン・モード・チョークによって放射を削減

手順7:慎重な測定、およびピーク値検出と準尖頭値検出の比較

放射測定を行う際には、被試験装置(EUT)/被試験デバイス(DUT)からの放射だけを測定し、装置の他の部分からの放射を測定しないようにする必要があります。以下を実施しても放射は減少しませんが、被試験システムの真の性能を測定するためには不可欠です。

放射の主な理由は、基板上にアンテナが形成されることです。システムに給電する長いケーブルやパラメータ測定用のプローブはアンテナのように振る舞い、放射測定値が大きくなる原因になりえます。解決策は簡単であり、システムが最終的に動作する状態を忠実に再現して放射測定を行うことです。被試験システム以外の付属装置すべてをファラデー・シールド(銅やアルミのような導体金属を裏張りした容器)を使って適切にシールドします。システムに接続されるケーブルはできるだけ短くし、ケーブルの接続先となるモジュールはファラデー・シールド内に収納します。

図17に示すように、ICを含む基板は放射測定のため露出されます。装置の他の部分は、この場合は12Vバッテリと低ドロップアウト(LDO)レギュレータですが、黒い箱に収納され、内部にある部品を測定からシールドするため、アルミホイルで裏張りされています。LDOを基板に接続するケーブルはできるだけ短くし、よく撚ったツイストペアで構成されています。このケーブルは、箱上部の小さな穴から引き出されています。この穴はファラデー・シールドの効果を損なわないよう、できるだけ小さくします。 

図17 放射の設定(CISPR 22)

電源が長いワイヤを経由する場合には、放射が不必要に大きくならないよう、DUT近くにコモン・モード・チョークを入れることを推奨します。DUT近くにコモン・モード・チョークを取り付ければ、実際の装置からの放射が測定され、長いケーブルによる影響は無くなります。

試験途中で追加部品を加えるなど、基板を修正する必要がある場合、部品は長いワイヤで接続するのではなく、必ず基板上に直接はんだ付けします。

CISPR 22規格によれば、放射仕様は準尖頭値の限度値として規定されていますが、早く結果を得るため、通常はピーク検出測定を使用することができます。

デバイス/システムが、全電力を単一ピークに集中させる代わりにスイッチング周波数を狭い帯域内で変化させることができるクロック・ディザリングのような手法を使用している場合には、準尖頭値スキャンを行うと、測定される放射が明らかに減少します。このような手法はピーク値のスキャン・レベルを低下させ、準尖頭値スキャンに適用するとはるかに優れた結果を示します。軽負荷時の動作では、DC/DCコンバータのオン時間が最大負荷状況に比べてずっと短くなるため、放射電力が減少します。予想される通り、この電力の低下は準尖頭値の大幅な改善として現れます。

最初にピーク検出測定を行ってワーストケース測定用の周波数を求め、それらの周波数で準尖頭値測定を行い、CISPR 22Bの準尖頭値の限度値ラインからの真のマージンを推定するとよいでしょう。

表1は、準尖頭値(QP)測定により、ピーク検出測定と比較してCISPR 22Bに対する追加マージンが得られることを示しています。

 

表1 準尖頭値の結果

まとめ

統合型の信号・電源アイソレータは、システム設計を簡素化し、基板面積を縮小します。このようなデバイスで低インダクタンスのチップスケール・トランスを使用する場合、高い周波数でのスイッチングが必要であるため、ディスクリート・トランスを使ったソリューションと比較すると放射が大きくなります。低い電源電圧での動作、層間スティッチング容量の使用、フィルタ、コモン・モード・チョークなどの手法により、システムレベルの放射を減少させることが可能です。放射測定中は、被試験システムだけを露出させ、他の入力ケーブルやプローブ・ケーブルは完全にシールドされるよう注意します。

著者紹介

Anand Reghunathan
インドTI アプリケーション・エンジニア

Koteshwar Rao
TI リード・アプリケーション・エンジニア

Anant S Kamath
TI システム・エンジニアリング・マネージャ

 

※2017年6月19日EDN Japan掲載のテキサス・インスツルメンツ寄稿記事を転載

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