近年、電動工具向けのDCモータは、ブラシ付きモータから、より信頼性の高い、効率的なブラシレスDC(BLDC)に大きくシフトしています。チョッパ構造のような従来のブラシ付きDC技術は、双方向スイッチを使用するか否かにより、1つか2つのパワーMOSFETを実装する傾向にあります。一方、3相BLDC構造では3つのハーフ・ブリッジまたは最小でも6つのFETを必要とするため、ブラシ付きからブラシレスにシフトすることで、世界の電動工具向けFETの全市場におけるFETの出荷量は3倍から6倍に増えることを意味します(図1)。NexFET™パワーMOSFET製品を有するTIにとって、この市場トレンドは喜ばしいことです。

1:ブラシ付きからブラシレス技術へのシフトは、FETの数が6倍に増えることを意味する

しかし、BLDCデザインは、これらのFETに新しい技術要件を突きつけます。例えば、ボード上のFETの数が6倍に増えることで、モータを駆動するにあたりプリント基板の占有面積を6倍まで拡大する必要があるなら、BLDCデザインは電動工具や園芸工具メーカーにとって魅力的なものでなくなります。通常、パワーエレクトロニクスはこれらの工具のハンドル部分に搭載されていることを思い出してください。このような応用例では、一般的に、小さな手でも握れるように、占有面積にとても厳しい制約が課されています(図2)。このため、より高い電力密度、言い換えると、より小さい面積でより多くの電流を扱えるFETの需要が高まっているのです。

2:多くの電動工具では、パワーエレクトロニクスはハンドル部分に搭載されている

これまでを振り返ると、高電圧モータの駆動で最も人気のあるFETは、『TO-220』、『DPAK』、『D2PAK』など、大きく厚いパッケージで提供されてきました。しかし、TIの『SON 5 mm x 6mm FET』のような新しいQFNパッケージは、シリコン・ダイとソース・ピンの間のパッケージ抵抗をより小さくします。単位面積あたりの抵抗が小さくなることは、単位面積あたりの伝導損失を削減し、より高い電流能力と電力密度を得られることを意味します。FETシリコンの単位面積あたり抵抗(RSP)が継続的に小さくなるにつれ(世代が新しくなるごとに約半分になる)、電動工具や園芸工具、家電製品におけるQFNソリューションは急速に成長してきました。これらの小型FETは現在、最大30Aまたは単独ではそれ以上のDCモータ電流を駆動することができ、より高い電圧デザイン向けには、複数のQFNを並列使用したより大型のパッケージを用いることもあります。結果として、60mm2 の全PCB面積に2つの5mm x 6mmデバイスを実装しても、150mm2 の全PCB面積に約10mm x 15mmデバイスを実装する、単一のD2PAKのサイズに比べてごくわずかの面積しか占有しないことになります(図3)。

31つのハーフ・ブリッジに必要なPCB面積(写真は原寸に比例していません)

最近、TIはこのトレンドの最も理にかなった結論を導き出しました。2つのFETを単一のパッケージに垂直統合することで、単一のSON 5mm x 6mmパワー・ブロックで完全なハーフ・ブリッジを提供することに成功したのです。40V『CSD 88584Q5DC』と60V『CSD 88599Q5DC』は、TIの高周波電源応用向け低電圧パワー・ブロックと同じスタックド・ダイ技術を使用していますが、高電流モータ駆動アプリケーション向けに伝導損失を最小化するために最適化されたシリコン・ダイも搭載しています。垂直統合された2つのFETは、PCB上に2つのFETを横並びに設置することで生じる寄生インダクタンスを最小化することに加えて、同じパッケージ上により多くのシリコンをハウジングできるため、専用のQFNデバイスよりも高い電力密度を実現します。

また、これらのデバイスは、メタルトップが露出する、耐熱強化されたDualCool™パッケージで提供されます。もちろん大型ヒート・シンクに取り付けてPCBから熱を取り除けることから、電動工具メーカーが表面実装FETに『TO-220 FET』を好んで選択するケースもあります。しかし、TIのパワー・ブロックは同じ恩恵をQFNパッケージで提供します。例えば、従来の5mm x 6mm QFNでは、最も理想的な熱環境においても3W以上の電力損失が起こっていましたが、ヒート・シンクを適切に応用することで、これらのDualCoolデバイスは6W以上の電力損失に対処し、PCBの半分の面積で2倍の電力密度を実現します。

今日の電動工具や園芸工具、バッテリ駆動型の家電製品において人気のBLDCモータを駆動するにあたっては、電力密度が最も重要な要素となります。TIの新しいパワー・ブロック・ソリューションは、この課題を解決する卓越した水準の性能を提供します。

<参考情報>
+高効率、高出力密度ブラシレスモータドライブ リファレンス・デザイン『TIDA- 00774
+60V『CSD 88599Q5DC』および『DRV 8323Rゲート・ドライバ』を特長とする
DRV 8323RH三相スマート・ゲート・ドライバ評価モジュール
+ブログ記事(英語)『ブラシレス・ゲート・ドライバの設計

※NexFET、 DualCoolはTexas Instrumentsの商標です。その他すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらのBlog記事(2017年5月23日)より翻訳転載されました。

*ご質問は E2E 日本語コミュニティにお願い致します。

Anonymous