ブラシ付 DC モータのリップル・カウンタが革新的なシート・ポジション・メモリ機能を実現

家族や友人など、複数で1台のクルマを共有する場合、ドライバーはその都度、運転席のシートやハンドルの高さ、ハンドルやアクセルペダルからの距離、シートの背もたれの角度、バックミラーとサイドミラーの角度などを調整する必要があります。

多くの高級車には、メモリ機能付きのシートおよびミラーが搭載されており、好みの角度や高さに調整した自分だけのシート・ポジションを記憶することができます。この機能があれば、ドライバーが変わるたびにシートやミラーを再調整する必要がなくなり、時間の節約ができます。

過去のブログ記事「ドライバー・シートに革新をもたらす」(英語)では、小型のブラシ付DCモータが多くのシート調整軸を制御していることについて取り上げています。従来の技術では、シートの位置を計測するためにDCモータの筐体に取り付けられた磁気ホール効果センサを使用していました。まずモータ・シャフト内で磁気ポールを回転させ、センサが感知するための磁場を作り出します。その後、複数のセンサがモータの回転及びサブ回転の速度と回転数を計測します。モータの回転数は、該当する特定の軸におけるシートの全移動距離として計算され、そのデータがメモリ機能付シート・コントロール・モジュールのマイクロプロセッサ上に保存されます。

位置測定
 位置記憶とモータ速度が活用されているのは、自動車のシートに限りません。パワーウィンドウやスライドドア、パワーリフトゲートなどの多くの小型モータ車載アプリケーションでは、モータ回転数の情報を使用して、失速状態を認識し、指が挟まれるピンチを検知しながら、パルス幅変調制御(PWM)の効率を高めるためにモータ速度を最適化しています。例えば、クルマを駐車場にバックで停車するとき、ドライバーが見やすいようにサイドミラーの角度を変えることができますが、これも小型モータを使用しています。小型モータは自動車のあらゆる場所で活用されており、シンプルな位置記憶ソリューションによって様々な便利な機能が提供されているのです。

最近ではモータの位置と回転速度をセンサなしに測定する技術への関心が高まっています。もちろん、センシングの冗長性がメモリ機能付シートの機械的および電子的不全を避けるのに役立つケースもあります。小型モータによってより多くのシート・ポジション軸が制御されるようになるにつれ、モータを駆動してセンサの情報を得るために、より多くのホール効果センサや、ホール効果センサIC、ハーネスワイヤをモータに搭載する必要があります。

モータ電流リップルを使用した位置計測
 ここ数年の研究により、モータを流れる全電流フローを計測し、モータの逆起電力により生成される電流リップルをカウントすることで、ブラシ付DCモータの速度と回転位置を測定する手法が発見されました。逆起電力はモータ速度に比例し、モータの整流極上に磁力を誘導することで生成されます。DCモータの電機子電圧と正弦波逆起電力は、モータを流れる全電流が正弦波形になる原因となります。

 

下記の方程式1は、モータを流れる全電流フローを示します。

Varmはモータ電機子に適用される電圧、Rarm は電機子上に見られる負荷抵抗です。

 

下記の方程式2は、VBEMFをモータの周波数によって表したものです。

Keはモータ固有の機械定数で、ωはロータ回転速度です。

逆起電力はすべてのコイル型整流極に現れ、磁場内のコイルの移動は全て電線に伝導し、リップルを作る原因となります。

モータが回転することで、モータ・ブラシは隣接する整流極間で短絡を起こす原因となります。この短絡は、図1のように、電機子抵抗の効率を低下させ、全電流フローを増大させます。各整流極のサブ回転はこの結果を生む原因となり、電流リップルを増大させることになります。

1:モータ回転により生じるインピーダンス変化

効率的なリップル・カウン
 モータ・リップルが生じる原因がわかったところで、次はリップルを計測する効率的な方法を見つけなければなりません。残念ながら、コンパレータを使用して、周期的なリップル信号をマイコンの汎用I/O(GPIO)トリガに変換すればよい、といった単純なことではありません。ACコンポーネント信号以外にも、様々なコモンモードDCコンポーネントの計測が必要で、そのため信号バイアスとコンパレータの閾値設定は困難なものとなります。

DCレベルの信号は、モータに依存し、負荷により変化します。負荷が増大することで、負荷を移動するのに必要なトルク量も増加します。トルクの増加はモータ速度の低下に繋がり、方程式1で見られるように、全DC電流フロー量に直接影響します。これは、実際には、負荷に基づいて継続的に変化する、リップル信号向けのDCバイアス点を生み出すことになります。

バイアス問題を抱えるその他のアプリケーションでは、信号経路に、シンプルなDC減結合コンデンサを組み込むことでこの問題を解決できます。適切なフィルタリングにより、電流検出アンプの出力からDC点を除去する一方で、シンプルなレジスタ・ディバイダにより、コンパレータ・ステージに最適な信号触れとなるようにバイアス点を再設定することができます。

リップル・カウンタ・アプリケーションには、もう一つ問題が存在します。モータを回転し始める時、摩擦に抵抗するのに必要な初期エネルギーとモータを回転させるのに必要な推進力から、非常に大きな電流スパイクが生じます。モータ・リップルは従来、100から1,000Hzであるため、DCをブロックし、リップル信号を流すために、減結合RCフィルタのサイズはかなり大きくなります。必要なRCフィルタ・サイズを確保することで、時定数も増加します。この電流スパイクの過渡電流は高速で、あまりに大きいことから、DC阻止コンデンサによりDC信号として認識してもらえないのです。

TIは創造力に富んだ電気回路を開発することで、デジタル信号処理の複雑性を回避しながら、モータ・リップルを計測する革新的な手法を導き出しました。図2は、初期電流計測時の大きな過度電流スパイク(黄色)を、容易に計測できるマイコン向け信号(紫色)に効率的に変換する手法を示しています。この変換手法の詳細は、『ブラシ付モータ・リップル・カウンタ・リファレンス・デザイン』を参照ください。

2:モータ電流リップル(黄色)を可算信号(紫色)に変換

リップル・カウンタは、より快適で便利なドライブ体験を提供する新しい手法を既存技術に提供します。シート・ポジション・メモリ機能が高級車以外にも採用されることで、より多くの人が自動車を共有しやすくなるでしょう。DCモータ・リップル・カウンタのようなコンセプトは、クルマの未来に大きく貢献します。

<参考情報>
リファレンス・デザイン:
+「センサレス位置測定向け車載ブラシ付きモータ・リップル・カウンタ
+「小型フットプリントのモータ制御モジュール

※すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらのBlog記事(2017年8月16日)より翻訳転載されました。

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