CTOアハマド・バハイが語る、TIのミリ波テクノロジでクリアな視野を実現する方法


 TI最高技術責任者(CTO)アハマド・バハイ(Ahmad Bahai)

テクノロジ業界をリードする多くの企業が、高精度かつ環境ノイズの影響を受けない、高度に統合されたレーダ・ビジョンの実現を長年にわたって夢見てきました。「レーダ」と聞いて思い浮かべるのは、巨大な飛行機が小さな点で表示される昔ながらのレーダ画面かもしれません。一方、TIが独自にアプローチするミリ波センサは、物体の輪郭を詳細に捉え、分類することができます。

たとえば、粉塵、暗闇、霧、雨などの条件下でも障害物を回避でき、機敏に動き回るマシンや、壁越しに侵入者を視認できるセキュリティ・システム、肉眼では見えない架線を検出するドローン、手術器具の先端でバイオマスを検出する小型レーダ、あるいは動脈壁や声帯の動きを監視できる小型センサなどが、TIミリ波センサを導入することで実現できます。

車載機器、ファクトリ・オートメーション、ビルディング・オートメーション、医療機器などのアプリケーションにおいては、一般に物体の高精度画像を形成するために導入される複数の補完的計測手法が、このようなマシン・ビジョンの基盤となります。また、アクティブ・センシングとは、送信した電波、及び複数の反射波をインテリジェントに変換して画像を形成することです。

革新的なソリューション

レーダ(電波による検知と測距)は、もちろん新しいテクノロジではありません。飛行機の操縦やアダプティブ・クルーズ・コントロールには、必ずレーダ・システムが利用されています。第二次世界大戦のさなかに概念が生み出されて以来、レーダは現在まで幅広く利用されてきました。その先駆けとなった軍事利用に加え、航空および地上交通管制、地形および地下マッピング、気象予報、先進運転支援システム(ADAS)、医療モニタリングなどのアプリケーションにも、電磁波(EM)測距が導入されています。

低周波数では超音波測距や超音波イメージングなどのテクノロジが手頃な価格で普及していますが、短距離での用途に限定されます。300MHz以下~約300GHzという広い周波数範囲で動作するレーダは、車載用アプリケーション向けには78~81GHzで幅広く利用され、産業用アプリケーション向けには60GHzで利用されています。低周波数では、電磁波伝播の減衰が小さくなります。低周波レーダは超長距離にも対応できますが、限られた精度や角度分解能を補うために、大型のアンテナや複数のアンテナが必要です。高周波数では減衰が大きくなりますが、分解能と精度も高くなります。また、高周波数では、無線、ベースバンド、アンテナの統合がより実現しやすくなります。超高周波数では、光学センサの分解能が圧倒的に高くなりますが、周囲の障害物の影響で不鮮明になる可能性もあります。

しかし、これまでのレーダ・テクノロジは、コスト、複雑さ、精度の面から導入が難しく、多くの車載用および産業用アプリケーションには最近まで採用されていませんでした。そのような状況を一変させたのが、TIのCMOSチップに搭載されたモノリシックのミリ波センシング・ソリューションです。

使いやすさ

レーダの導入には、これまで広範な無線周波数(RF)設計と専門知識が求められていました。また、適切なアンテナ、RF、アナログ、デジタル・プロセッサと、それらに適したインターフェイスを統合するには、高コストで面倒な設計が必要でした。

しかし現在は、TIの統合レーダ・チップを利用することで、独創性に富んだ数多くのプラグ・アンド・プレイ・ソリューションが実現できます。標準的な車載用アプリケーションに加え、多くの産業用および商業用アプリケーションで、使いやすいTIミリ波センサの恩恵がすぐに得られます。DSPとマイコンの統合によって得られる効率性と利便性は、さまざまな用途で効果を発揮します。統合によってフロントエンドの異常をリアルタイムに修正できるようになるので、ソリューション全体の性能が向上します。また、ローカル・アプリケーションや分析機能向けのオンチップ・プラットフォームとしても利用できるようになります。
 
たとえば、ドローンに組み込��れたミリ波センサは、農業において土壌や農作物の質を見極めるために利用できます。産業用の化学薬品貯蔵タンクの内蔵センサは、液面や蒸気密度を検出できます。分析エンジンが組み込まれたセンサは、多数の人の動きを検出、計数して分析できます。小型センサは、患者の心拍や呼吸のパターンを監視できます。医療用パッチ内にTIミリ波センサを並べて配置すれば、深部体温や心拍における動脈壁の動きを監視できます。アプリケーションによっては、超音波センサの代わりに統合デバイスを使用したうえで、クルマのバンパーにより多くの機能を持たせるようなことも可能です。

スケーラビリティ

レーダは、さまざまな方法で導入されてきました。長距離のナロー・ビーム・レーダには、異なるアンテナ構成と、より大きな電力が必要です。たとえば、長距離または中距離ADASレーダは、最大で250メートル離れた位置にある物体をミリ単位の精度で検出できます。さらにビーム幅の広い短距離TIミリ波センサは、車両付近にある物体の検出などの近接検出アプリケーションや、産業用アプリケーションでのレベル検出に利用されます。

レーダ・システムは、範囲(距離)、周波数(速度)、角度(角度分解能)から成る3次元空間で物体を検出します。レーダの角度分解能は、アンテナの開口面によって決まります。モジュール上で複数のアンテナを使用すれば、角度分解能をさらに高めることができます。送信出力、信号波形、アンテナ数、処理能力を拡張できるTIミリ波センサは、幅広いアプリケーションで効果を発揮します。

さらに、強力な内蔵プロセッサによって可能になったエッジ信号処理では、パターン認識用のデータ分析や、その他の人工知能アルゴリズムをエッジで実行できます。エッジ処理の例としては、ローカルでセンサを処理できるロボット・アーム、画像処理をローカルで行えるレーダおよびLIDARテクノロジ、産業用タンク内の危険な状況を検出できるTIミリ波分光センサが挙げられます。

時間、周波数、空間

レーダ・システムでは、タイム・オブ・フライトに加え、トランスミッタと反射器の相対速度によって引き起こされる周波数シフトも検出できます。警察官がスピード違反を取り締まるために利用しているのが、これらのシステムです。

レーダは変調波で信号を継続的に送信します。周波数変調連続波として知られるこの手法では、高度な信号処理アルゴリズムにより、受信した波形を時間、周波数、空間という3つの次元でまとめて処理し、対象物の画像を合成します。カメラとは異なり、この画像は対象物の輪郭なので、プライバシーが懸念されるような場合に、より望ましい特性と言えます。

分散型センサは、より広い視野を監視でき、同じ距離にありながら位置の異なる対象物を分別できます。高コストの逆合成開口レーダ(ISAR)には、同期センサのアレイが導入されています。CMOS TIミリ波ソリューションを利用すれば、合成アレイにより、ISARの何分の1かのコストと複雑さで、高速高分解能イメージングが可能な広い開口面を実現できます。

1度以内の分離度で対象物を区別できる複数のTIミリ波センサがクルマのバンパーに搭載されていることを想像してみてください。最新のレーダでは、対象物の輪郭を詳細に捉え、それを分類するために、マイクロ波ドップラーやカスケード式レーダを使用しています。このようなレーダは、対象物がトラックか、小型車か、あるいは人間かを判別できます。複数の分散型センサを使用したアレイ処理やセンサ・フュージョンでは高分解能の画像を得られますが、大量のデータを伴うため、大きな帯域幅を必要とします。この場合、ローカルな信号プロセッサを使用すれば、中央プロセッサへの高速インターフェイスは不要になります。

今後は分解能がさらに向上し、SLAM(自己位置推定と地図作成の同時実行)や合成開口レーダなどの高度なアルゴリズムが複合的に利用されることで、レーダはイメージング・テクノロジの主流へと成長していくことになります。将来的には、レーダとLIDARを組み合わせることにより、より多くのアプリケーションに最高のビジョン・ソリューションを提供できます。 

RF、アナログ、デジタル信号処理に勝る半導体の技術革新は、ミリ波センサに変革をもたらしました。防衛および航空宇宙という特定分野のアプリケーションに限定されていたレーダ・システムは、今や車載用アプリケーションや産業用アプリケーションにも導入されています。これらのテクノロジは、技術革新によって私たちの視野を広げる絶好の機会となります。

参考情報

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2018年6月12日)より翻訳転載されました。
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