前回はスマート・センシングについて、ガラス破損検出器との関連で説明しましたが、このシリーズの第2部では、別の種類のアプリケーション、障害インジケータについて説明します。
障害インジケータは、配電ネットワークの架空送電線や地下ケーブルにおいて、障害状態を検出および通知するために広く利用されているデバイスです。架空送電線に取り付けられている障害インジケータの下部には、発光ダイオード(LED)があります。過電流状態が検出されるとLEDが点灯し、離れた位置から障害を視認できるようになるため、現場スタッフが障害箇所を特定できます。
適切に実装すれば、障害インジケータによってネットワーク上の障害部分についての情報が得られるため、運用コストや停電の発生頻度の削減につながります。さらに、このデバイスを利用することで、危険な障害診断を行う必要性が低下するため、安全性が向上し、機器の損傷が少なくなります。障害インジケータは、その設置場所から主にバッテリ駆動であり、低消費電力での動作が特に必要とされるデバイスです。
最近の超低消費電力マイクロコントローラとワイヤレス接続テクノロジの進歩により、"スマート"な障害インジケータの開発が可能になっています。図1は、スマート障害インジケータ・システムの例を示しています。
図1:スマート障害インジケータ・システム
図1の障害インジケータは、架空送電線ネットワークの接続部に取り付けられています。障害インジケータは、送電線の温度と電流についての測定データを、電柱の上に搭載されたコンセントレータ/端末装置にワイヤレスで送信します。コンセントレータは、リアルタイムの情報を主局に中継するために、GSM(Global System for Mobile Communications)モデムを使用してデータをセルラー・ネットワークに渡します。主局でも、これと同じデータ経路を通じて障害インジケータを制御し、診断を実行することができます。地下ケーブルの場合、障害インジケータはRS-485などの有線ネットワークを介してコンセントレータに接続されます。
常に主局に接続されているということには、いくつかの利点があります。1つ目の利点は、障害状態を主局からリモートで監視できることです。障害箇所を見つけるために、電力会社のスタッフが現場に足を運ぶ必要はありません。スマート障害インジケータでは温度と電流を継続的に監視することもできるため、主局の制御装置は、配電ネットワークについての状態情報をリアルタイムで得ることができます。このような追加情報を利用することで、電力会社は速やかに障害箇所を特定し、電力供給システムのダウンタイムを最小化できるほか、障害発生前に対応措置を取ることもできます。主局の作業者は、必要な間隔を空けて障害インジケータでの診断を実行し、正しく動作しているかどうかを確認することができます。
図2は、TIのMSP 430™強誘電体ランダム・アクセス・メモリ(FRAM)マイクロコントローラ(MCU)をベースにしたスマート障害インジケータの機能ブロック図です。電流トランスデューサでは、送電線の電流に比例するアナログ電圧が生成されます。この電圧信号はオペアンプによって増幅され、フィルタリングされます。オペアンプの出力はMCU上のアナログ/デジタル・コンバータ(ADC)によってサンプリングされます。その後、ADCから出力されるデジタル・ストリームがCPUまたはアクセラレータで実行中のソフトウェアによって分析されます。オペアンプの出力は、MCU上のコンパレータにも接続されています。コンパレータは、入力レベルがあらかじめ設定されたスレッショルドを超えると、MCUの中央処理装置(CPU)に対してフラグを生成します。
図2:MSP 430 FRAM MCUをベースにしたスマート障害インジケータの機能ブロック図
電流測定の分析は時間ドメインまたは周波数ドメインで行うことができます。新世代のMCUの計算能力によって実現される周波数ドメインでの分析は、以下のような理由から、ますます一般的になっています。
- 送電線の電流波形が正弦波と大きく異なり、波形の不規則性が懸念される場合は、簡単な調和解析手法としてスペクトル分析を行うことで、送電線の状態をより詳細に評価できます。
- 分散型発電の進歩に伴い、一部のアプリケーションでは障害インジケータによって障害時の電流の方向を検出することが必要になっています。最近の調査から、電流の振幅と位相を継続的に監視することで、電流の方向を推定できることがわかっています。従来型のテクノロジでは、電圧を監視するために高価な機器が必要です。
送電線の電流で過渡電流を検出するための対象周波数がDC~10kHzの範囲内であるとします。この要件を満たすには、アナログ/デジタル変換のサンプル周波数を25.6kHzに設定し、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを使用して、20msの間隔ごとにデータ・ブロックを収集します。この設定により、512実数ポイントFFTで最大12.8kHzのスペクトルを50Hzの分解能で生成できます。FFTの出力は、送電線の状態をチェックするためにパターン認識アルゴリズムに供給されます。
ガラス破損検出器を扱ったこのシリーズの第1回でも触れたように、MSP 430FR5994 MCUは、このような計算性能と消費電力の競合を、低エネルギー・アクセラレータ(LEA)ペリフェラルを内蔵することによって解決しています。LEAが16MHzで動作した場合、512実数ポイントFFTには約1msしかかかりません。
データの移動とウィンドウ処理のオーバーヘッドを考慮すると、追加でLEA時間が0.5ms、CPU時間が0.5ms必要になります。各20msの間隔に対して、19.5msのCPU時間と18.5msのLEA時間をパターン認識やその他のシステム機能に利用できます。
MSP 430FR5994には、256KBのFRAMが内蔵されています。FRAMの高速な読み取り/書き込み速度により、パターン分析用のデータの蓄積が可能になっています。また、MSP 430FR5994 MCUにはダイレクト・メモリ・アクセス(DMA)モジュールも内蔵されているので、CPUが介入することなく、ADCなどのペリフェラルからメモリに、またはメモリからメモリにデータを移動できます。MSP 430FR5994上の12ビットADCは、最大200KSPSで動作できます。このアプリケーションにとっては十分過ぎる性能です。
送電線の温度も、送電線の正常性に関連する重要なデータ点です。温度センサの出力は、通常はMCU上のADCで直接検出できる電圧です。
処理が完了すると、障害インジケータの出力データがワイヤレス・リンクを介してコンセントレータに送信されます。Sub-1GHz接続テクノロジは、消費電力を最小限に抑えながら伝送距離の要件を満たすことができます。地下の送電線の場合、データはRS-485インターフェイスに出力できます。MCUでは、システムのセキュリティ要件に応じてデータの暗号化が必要になる場合があります。MSP 430FR5994には、AES(Advanced Encryption Standard)-128およびAES-256をサポートするためにハードウェア・アクセラレータが内蔵されています。障害インジケータで障害状態が検出されると、従来型のLEDライトが点灯します。
障害インジケータは、架空送電線または地下電力ケーブルに取り付けるバッテリ駆動のデバイスです。取り付けた後のデバイスへのアクセスは非常に制限されます。そのため、障害インジケータには長いバッテリ駆動時間が不可欠です。
以下の2つの手順に従うと、バッテリからの電力消費を最小限に抑えることができます。
- 低消費電力MCUモードを活用する。データ処理が必要ないときには、MCUを低消費電力モードに切り替えることができます。LEAを使用すると信号処理が高速になり、アイドル時にはCPUも低消費電力モードに切り替えることができます。
- エネルギー・ハーベスティングを使用する。図2の機能ブロック図は、エネルギー・ハーベスト用として想定される2つのソース、ソーラー・パネルと送電線(電流トランスデューサ経由)を示しています。
TIでは、エネルギー・ハーベスティングとワイヤレス通信向けのソリューションも提供しています。詳細については、「その他のリソース」セクションの情報を参照してください。
その他のリソース
- エネルギー消費を最小限に抑えながらMCU性能の新たな標準を確立する方法について記載された、TIのホワイトペーパーをこちらからダウンロードできます
- LEAモジュールをスマート障害インジケータで使用する方法については、こちらのホワイトペーパーでご確認ください。
- MSP430F5994 MCUに関するその他のブログ記事もご覧ください。
- TIのワイヤレス通信とエネルギー・ハーベストの各ソリューションについては、以下の情報をご確認ください。
- 障害インジケータについての詳細情報
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
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