「インピーダンス・トラック」を使う高精度な電池残量計IC、デジカメやマウスなどの新用途開拓に向けて低コスト版登場

ノート・パソコンやスマートフォンなどの携帯型電子機器では、1%刻みの残量表示が当たり前だ。これを可能にしているのが「インピーダンス・トラック」と呼ぶ技術を採用した電池残量計ICである。このICの低コスト版が、新用途を開拓すべく登場した。次なるターゲットは、デジカメやマウス、携帯型血圧計だ。電池駆動時間の延長に貢献する。

ノート・パソコンやスマートフォン、タブレット端末などの携帯型電子機器に欠かせない存在である電池(バッテリ)。この電池を使って動かすことができる時間を「電池駆動時間(バッテリ・ライフ)」と呼ぶ。電池駆動時間が長ければ長いほど、ユーザーの使い勝手は高まる。そこで、電子機器メーカーの開発現場では、「電池駆動時間をいかにして延ばすか」を大きな目標に掲げている。

しかし、その一方で、携帯型電子機器の高性能化も着実に進んでいる。性能が高まれば消費電力は増える。このため、電池駆動時間はなかなか延ばせないのが実情である。

それでも、電池駆動時間に関するユーザーの使い勝手は高めなければならない。そこで重要になるのが電池残量計技術だ。この技術を使って、残量を高い精度で表示すれば、携帯型電子機器がいきなり使えなくなるといった事態を防止できる(図1)。ユーザーは、表示された電池残量を見ながら、アプリケーション・ソフトウエアの使い方や、充電のタイミングをコントロールできるようになるわけだ。

 図1 電池残量の表示例

スマートフォンの例である。1%刻みの残量のほか、通話や音楽再生、ビデオ再生といったアプリケーションを使える可能な時間も表示できる。 しかし、この目標の達成が難しい。もちろん、電池のエネルギー容量は、日々高まっている。

最も高精度なインピーダンス・トラック

携帯型電子機器での残量表示を実現するのが「電池残量計(フュエル・ゲージ)IC」である。実現技術は複数ある。大きく分けると4つだ。すなわち、電圧測定方式とクーロン・カウンタ方式、電池セル・モデリング方式、インピーダンス・トラック方式という4つである。以下でそれぞれの方式を見ていこう。

1つめの電圧測定方式は、電池セルの端子電圧を測定して、残量を求めるというもの。電池は一般に、充電した直後の端子電圧が最も高く、放電が進めば進むほど端子電圧が低下する。この特性を利用して、残量を求めるわけだ。

メリットは、端子電圧の測定というシンプルな構成で電池残量を把握できる点にある。デメリットは、精度がかなり低いことである。電池セルの端子電圧とエネルギー容量(残量)の関係は、必ずしも比例の関係にあるわけではないからだ。しかも、電池セルの端子電圧は、経年劣化や動作温度、放電電流といった要因でも低下する。こうした要因で低下したのか。それとも放電によって低下したのか。電圧測定方式では、判別できない。このため、精度はかなり低くなる。

2つめのクーロン・カウンタ方式は、電池セルに流入した電流と、流出した電流を測定することで残量を求めるもの。具体的には、電流検出抵抗を使って充電時に蓄えられた電流量を積算しておき、放電時に出ていった電流量を求めることで、電池に残されたエネルギー量を算出する。電圧測定方式に比べると、精度は高い。

しかし、弱点もある。動作温度や経年劣化による電池セルの特性変化を考慮できないことだ。さらに、オフセット・ドリフトが発生するという課題もある。これは、満充電もしくはカラの状態に至らない中途半端な充放電を繰り返すことで、誤差(オフセット)が積み上がるという現象である。従って、クーロン・カウンタ方式では、十分に高い精度は得られない。

3つめの電池セル・モデリング方式は、使用する電池セルの放電特性や温度特性を測定してデータベースを構築し、電池残量計ICの内部に格納しておく方法である。これと前述のクーロン・カウンタ方式を組み合わせる。そうすることで、動作温度や経年劣化による電池セルの特性変化も考慮することが可能になるわけだ。クーロン・カウンタ方式の弱点を補えるため、高い精度が得られる。

しかし、これでもまだ不十分だ。データベースに格納する測定データはあくまで、使用する電池セルの代表的な値にすぎないからである。実際に使用する電池セルの特性とまったく同じとは限らない。すなわち、電池セルの個体差までは考慮できないことになる。これでは、精度は不十分と言わざるを得ない。

こうした3つの方式の問題をクリアしたのが、4つめのインピーダンス・トラック方式である(図2)。現時点において、最も高い精度が得られる方式だ。この方式はその名の通り、電池セルのインピーダンスを捕捉するもの。どんな電池セルでも、使えば使うほどインピーダンスは高くなり、それに応じてエネルギー容量は減る。

図2 インピーダンス・トラック方式

この方式では、使用する電池セルの無負荷時放電特性(OCV:open circuit voltage)と、実際に負荷を印加したときの放電特性の関係からインピーダンスを測定する。もちろん、経年変化や動作温度によってインピーダンスが高くなる現象にも対応できる。

ただし、インピーダンスが高くなる要因は、経年劣化だけではない。温度が低くなったり、放電電流が大きくなったりしても、一時的だがインピーダンスが高くなる。一時的な現象と経年劣化。この二つをしっかり区別しないと高い精度で残量を算出できない。インピーダンス・トラック方式では、使用する電池セルの放電特性(無負荷時)や温度特性などの測定データをリファレンスとしてメモリに格納する。そして、稼働時中の電圧と電流、温度をモニターすることで電池セルのインピーダンスを常時捕捉して、データを更新していく。こうすることで、経年劣化でインピーダンスが高くなったのか、一時的な現象で高くなったのかを判断できる。しかも、測定によってデータを更新していくため、電池セルの個体差にも対応できる。従って、極めて高い精度を実現できるわけだ。

新たな市場を開拓

インピーダンス・トラック方式はすでに、ノート・パソコンやスマートフォンでは当たり前の技術になっている。

ノート・パソコンでは2006年ごろから採用が始まった。米インテル社が中心となって策定したバッテリ・マネジメント規格「Smart Battery System 1.1(SBS1.1)」でインピーダンス・トラック方式の適用がうたわれており、「現在、製品化されているノート・パソコンの約80%で採用されている」(日本テキサス・インスツルメンツ マーケティング部 アナログマーケティング バッテリー・ワイヤレスパワーソリューション リーダーの丹野真之氏)という。一方、スマートフォンでは2009年ごろから採用が始まっている。

このインピーダンス・トラック方式の新しい用途開拓に向けて、テキサス・インスツルメンツ(TI)が新しい電池残量IC「bq27425」を製品化した。次なるターゲットは、デジタル・カメラやマウス、携帯型血圧計などである。「データ・セントリックではない電子機器が対象だ」(同氏)。

しかし、こうした電子機器では、高精度な残量表示は必須の機能とは言えないだろう。例えば、マウスで1%刻みの残量表示が可能になっても、商品価値が高まるとは思えない。それではなぜ、インピーダンス・トラック方式が必要になるのか。答えは、電池駆動時間の延長にある。

例えば、Liイオン電池では約3.5Vを放電終止電圧とし、これを下回るとカラと判断する(図3)。動作温度が25℃であれば、カラと判断した際の残量は50mAh。極めて妥当な判断だと言える。しかし、動作温度が0℃に下がるとインピーダンスが高くなるため、約3.5Vで切ると多くのエネルギーが残った状態でカラと判断することになる。これでは、電池駆動時間が極端に短くなってしまう。

 図3 放電終止電圧を変更して残量を確保する(動作温度の場合)

25℃動作の場合は、3.432Vの放電終止電圧でカラと判断しても、残量はわずか50mAhにすぎない。しかし、0℃動作の場合は、3.432Vで判断すると多くのエネルギーが残った状態でカラと判断することになる。そこでインピーダンス・トラック方式を応用し、放電終止電圧を3.192Vに変更することで、より多くのエネルギーを使えるようにする。

そこでインピーダンス・トラック方式の出番となる。インピーダンスが高まった原因を特定できるため、低温時には放電終止電圧を約3.2Vに変更する。この電圧で切れば、残量は50mAhとなる。こうして活用できるエネルギーを増やし、電池駆動時間を延ばすわけだ。

こうした放電終止電圧の変更は、大電流放電によってインピーダンスが低下した場合(図4)や、経年変化でインピーダンスが低下した場合にも適用可能だ。同社は、放電終止電圧を変更して残量を確保する技術を「リザーブド・キャパシティ」と呼ぶ。

 図4 放電終止電圧を変更して残量を確保する(放電電流の場合)

300mAで放電している場合は、3.344Vの放電終止電圧でカラと判断しても、残量は50mAhである。しかし、放電電流が900mAに増えると、3.344Vでカラと判断しまうと多くのエネルギーが残ってしまう。そこでインピーダンス・トラック方式を応用し、放電終止電圧を3.093Vに変更する。そうすることで、残量が50mAhとなり、より多くのエネルギーを使えるようになる。

フラッシュではなくROMを集積

ただし、インピーダンス・トラック方式が新たに目指す用途では、低コスト化が求められる。ノート・パソコンやスマートフォンなどに向けたICをそのまま適用するわけにはいかない。

そこでbq27425では、低コスト化に向けた工夫を施している。具体的には、フラッシュ・メモリではなくROMを集積した。ROMの回路面積はフラッシュ・メモリに比べると小さい。その分だけコストを削減できるわけだ。パッケージは、実装面積が2 x 2.6mmと小さい15端子WCSPである。

しかし、フラッシュ・メモリはデータを書き換えることができるが、ROMはできない。使用する電池セルの種類に応じて、リファレンスとなるデータを入れ替えるといった使い方が不可能なわけだ。そこでTIでは、正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を使うLiイオン2次電池のデータをROMに格納した。従って、これ以外の電池には対応できないことになる。この点について同社は、「現在は、コバルト酸リチウムを使うLiイオン2次電池が主流であるため、大きな問題はないと考えている。ただし今後は、リン酸鉄系のLiイオン2次電池など、対応する電池の種類を増やす方向で検討している」(丹野氏)。

このほか、使い勝手を高める機能や工夫も数多く盛り込んだ(図5)。今回は、3つ紹介しよう。1つは、最大2.5Aに対応した電流検出抵抗を集積したことである。外付けで用意する場合は、電流検出抵抗の実装位置などに気を配る必要があった。今回はICに集積したため、設計の負荷を軽減できることになる。

 図5 システム構成

発売した電池残量計ICは、ホスト・システムに内蔵して使用する。電池パックには内蔵しない。

2つめは、LDOレギュレータを集積したことである。電池のエネルギーから、IC内部で使用する電力を作成する役割を果たす。従って、外付けのLDOレギュレータは不要だ。

3つめは、ホスト機能に対してインターラプト(割り込み)信号を出力する機能を用意したことだ。電池残量計ICでステータスの変化が起こったときに、ホストに割り込みをかける。このため、ホストから電池残量計ICに対して定期的にポーリングをかける必要がなくなる。その分だけ、消費電力を削減できるわけだ。

(2013 年 3 月 4 日 EDN マイクロサイト掲載の記事広告を転載。記事中の情報はすべて掲載時点のものです)

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