電源設計のヒント: 車載システム向けのUSB Power Deliverについて

新しいUSB Type-C™ 標準規格の最も優れた特長の一つに、Power Delivery(PD、電力供給)があります。USB Power Deliveryを使うことで、ケーブルに接続された各デバイスがより多くの電力を求めるネゴシエーションを行うことができ、これまで不可能だった新しい機能が可能になります。携帯、タブレットやラップトップPCなどのポータブル機器の充電を短時間で完了できます。モニタのような、より高い消費電力の機器への電力とデータも、1本のケーブルで供給できます。

USB Type-Cに対応するデバイスとホストの数は、まだ比較的少ない現状ですが、採用の動きは拡大しています。対応デバイスの数が増加するにつれて、消費者は家庭内や外出先、特に車内で使いたいと考えるようになるでしょう。

車載システムでのUSB Power Deliveryには特有の要件があり、その要件を上回る設計上の困難が伴います。 1に車載システムで発生する代表的な電圧を示します。

動作条件

電圧

継続時間

非走行時(定格値)

12V

連続

走行時(定格値)

13V~14.5V

連続

トレーラートラック非走行時(定格値)

24V

連続

トレーラートラック走行時(定格値)

26V~29V

連続

12V コールド・クランク時

3V~6V

15ms

12V ロードダンプ過渡波形

87V

400ms

24V ロードダンプ過渡波形

174V

350ms

1: 車載システムで発生する代表的な電圧

車載システムでは、保護、安定化またはその両方の機能を使って、負荷に印加される電圧を制限します。通常、この電圧は、トラック用電圧または12Vバッテリ電圧の2倍の、40V以下に制限されます。こうして、3V~40Vの電圧は、入力保護回路を通過することになります。

USB Type-A デバイスの動作電圧は5Vのみであり、1個の降圧型コンバータで充電または通信ポートを構成できますが、入力電圧が3V~6Vとなるクランク状態の間は動作しません。以前は、運転者は単独のクランク動作を一度だけ行い、その動作も短い時間で済んでいたことから、それほど大きな問題とはなりませんでした。しかし、アイドリングのストップ・スタート機能が搭載されると、このクランク動作による中断は大きな問題になってきました。例えば、携帯から音楽のストリーミングを楽しんでいる時、エンジンが停止・始動するたびに、音楽が中断してしまいます。USB Power Deliveryを使うことで、5Vから最大20Vまでの電圧に対応しますが、負荷に正しい電圧を供給するためには、大きな問題が伴います。

簡単な降圧型コンバータでは、正しい電力変換を行うことができません。簡単な昇圧型コンバータも、上に示したような入出力電圧範囲には適合しないでしょう。車載システムの設計者に必要なのは、動作条件に応じて降圧動作と昇圧動作を実行できるコンバータです。

この条件に適合するトポロジには、SEPIC(シングルエンド・プライマリ・インダクタ)型コンバータ、フライバック型や、非反転昇降圧型コンバータなどがあります。非反転昇降圧型コンバータには、2スイッチと4スイッチ構成の選択肢があります。1 に、各トポロジの簡素化された回路図を示します。

 

1: 非反転昇降圧型トポロジの簡素化した回路図

2に示すように、それぞれのトポロジには、利点と欠点があります。

トポロジ

利点

欠点

SEPIC型

2本の半導体で構成、低い入力ノイズ、コントローラの品種が豊富

2本のインダクタ、右半平面ゼロ、スイッチ電圧とスイッチ電流が高い

フライバック型

2本の半導体で構成、コントローラの品種が豊富

カスタム・トランスが必要、高い入出力ノイズ、高い周波数のリンギング、高電力で効率低下

2スイッチ昇降圧型

1本のインダクタのみで簡素な設計

ダイオードによって電力範囲が制限、出力ダイオードは常に導通、降圧モードと昇圧モードを一つのループで制御するため補償が困難、コントローラの品種が少ない

4スイッチ昇降圧型

1本のインダクタ、高い電力密度、同期整流

4本の半導体が必要、コントローラの品種が少ない、降圧モードと昇圧モードを一つのループで制御するため補償が困難、最も高価なソリューション

2: 非反転昇降圧型の各トポロジの利点と欠点

SEPIC型とフライバック型のコンバータはほとんど同じ性能ですが、SEPIC型コンバータでは、クランプされた入力電圧と、市販の規格品のインダクタを使用可能なことから、車載アプリケーションにはやや魅力的です。2スイッチ昇降圧型コンバータの電力範囲はSEPICと同様に制限されていますが、2スイッチ昇降圧型コンバータに使用可能なコントローラ製品の選択肢はわずかです。これらから、SEPIC型は5W~50Wの低電力アプリケーションに、4スイッチ昇降圧型は30W~100Wの、やや高電力のアプリケーションに適しています。

車載環境内の数多くのアプリケーションが、USB Power Deliveryの利点を活用できます。これらのアプリケーションには次のようなものが含まれます。

  • 最大100 Wの車内充電ポート(電圧は5V、9V、15V、20V)
  • ポータブル・デバイスを充電しながらデータを受け取るインフォテインメント・ポート
  • 例えば、リアシートに設置されたモニタなどのデバイスに接続し、同一ケーブルで電力とデータを提供するインフォテインメント出力ポート
  • クルマからの電力とデータを提供する診断ポート

USB Type-Cの車載への特化はこれからですが、まもなく対応することでしょう。トラブルのないユーザー体験を確実に提供するためには、解決すべき多くの電源の困難があります。変化する入出力電圧には、非反転昇降圧型電源が最適です。低価格、低電力のソリューション向けにはSEPIC型が適合します。高電力で、より高効率の回路向けには4スイッチ昇降圧型ソリューションが魅力的です。車載環境でのUSB Power Delivery向けアプリケーションへの需要は増加の一途であり、電源設計には数多くの市場機会が生まれることになります。

参考情報

著者紹介

ロバート・テイラー(Robert Taylor)
テキサス・インスツルメンツ
電源設計サービスグループ
アプリケーション・マネージャ
フロリダ大学卒業(学士号・修士号)

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