フライバック・コンバータには、コスト最小の絶縁型パワー・コンバータ、複数出力電圧への対応が容易、シンプルな一次側コントローラ、最大300Wまでの給電など、多くの利点があります。フライバック・コンバータは、テレビから携帯電話用充電器、電気通信、産業用アプリケーションまで、多くのオフライン・アプリケーションに使われています。その一方で、フライバック・コンバータは、その設計を経験したことのない人にとっては特に、基本動作が手ごわそうに見え、設計の選択肢も多岐にわたります。DC53V入力から12V 5Aを出力する連続導通モード(CCM)フライバックについて、重要な設計上の検討事項をいくつか見ていきましょう。

1は、250kHzで動作する60Wフライバック方式の詳細な回路図です。FET Q2がオンになると、トランスの一次巻線両端に入力電圧が印加されます。すると巻線電流が増加し、トランス内にエネルギーを蓄積する動作になります。出力整流ダイオードD1は逆バイアスされているので、出力への電流の流れは妨げられています。Q2がオフになると、一次電流は遮断され、巻線の電圧極性を反転させます。今度は二次巻線から電流が流れ出し、巻線電圧の極性が反転し、黒丸がプラス電圧になります。D1は導通し、出力負荷へ電流を供給し、出力コンデンサを再び充電します。

 図1. 60W CCMフライバック・コンバータの回路図

トランスの巻線を追加したり、他の巻線上に積み重ねたりすることで、出力を追加することもできます。一方、出力数が増えるとレギュレーションは悪化します。これは巻線とコアの間の磁束結合数(カップリング)が不完全であること、および巻線が物理的に離れていることが原因で、漏れインダクタンスが発生するからです。漏れインダクタンスは、一次側および出力側の巻線と直列な浮遊インダクタンスとして振る舞います。この結果、巻線と直列に意図しない電圧降下が発生し、出力電圧のレギュレーション精度が実質的に劣化します。一般的な経験則では、適切に巻かれたトランスを使用した場合、出力はクロス・ローディング上で±5~10パーセントの電圧変動が予想されます。さらに、負荷が重い場合、漏れインダクタンスによって誘起された電圧スパイクのピークにより、無負荷の二次側出力の電圧が大きく増加することがあります。この場合、プリロードまたはソフト・クランプを使用すると、電圧を制限する上で有効です。

CCMとDCM(非連続導通モード)動作にはそれぞれ利点があります。定義によると、出力整流ダイオードの電流が次のサイクル開始前にゼロまで減少したときに、DCM動作となります。DCM動作は、一次側のインダクタンスが小さくなるため、一般にパワー・トランスを小��化できるこ���のほか、整流ダイオードの逆回復損失とFETのオン損失がない、右半平面にゼロがない、などのメリットがあります。その反面、CCMと比べて、一次側と二次側でピーク電流が大きい、入出力コンデンサの容量が増加する、EMI(電磁波妨害)が増加する、軽負荷時のデューティ・サイクルが減少する、などのデメリットもあります。

 図2. CCM/DCMのフライバックFET電流と整流ダイオード電流の比較

2は、最小VIN(入力電圧)で負荷が最大値から約25パーセントまで低下した場合、CCMとDCMでQ2とD1の電流がどう変化するかを示しています。CCMでは、固定入力電圧で、負荷が最大と、最小の設計レベル(約25パーセント)の間であるとき、デューティ・サイクルは変化しません。負荷の減少とともに電流の「ペデスタル」レベルは低下し、やがてDCMに遷移します。DCMになるとデューティ・サイクルが減少します。DCMでは、VIN最小、負荷最大時にデューティ・サイクルが最大になります。入力電圧が増加するか負荷が軽くなれば、デューティ・サイクルは減少します。

これにより、高電圧ラインおよび最小負荷では、デューティ・サイクルが小さくなります。お使いのコントローラがこの最小オンタイムで正しく動作することを確かめてください。DCM動作では、整流ダイオードの電流がゼロになった後、50パーセント未満のデューティ・サイクルに対してデッド・タイムが挿入されます。これはFETドレイン上の正弦波電圧によって特徴付けられ、残留電流、寄生容量、漏れインダクタンスに依存しますが、通常は問題ありません。この設計では、スイッチング損失とトランス損失の減少により高効率となるので、CCM動作を選択しました。

この設計では、12V出力の安定化後、一次側を基準とする14Vのバイアス巻線を使用してコントローラへの給電を行うことで、入力から直接給電する場合よりも損失を削減しています。リップル電圧低減のために、2段構成の出力フィルタを選びました。初段のセラミック・コンデンサはD1の脈流からの大きなRMS電流を扱います。これらのリップル電圧はフィルタL1およびC9/C10によって減衰し、C9/C10で減少したRMS電流とともに、リップルが約10倍削減されます。リップル電圧が大きくてもよい場合、出力L/Cフィルタを取り除くことは可能ですが、出力コンデンサは最大RMS電流に対応可能でなければなりません。

UCC 3809-1UCC 3809-2コントローラは、絶縁アプリケーション用に光カプラU2と直接インターフェイスするよう設計されています。非絶縁の設計では、エラー・アンプを内蔵したUCC 3813-xシリーズなどと同様、U2とU3はコントローラに直結する電圧帰還の分圧抵抗回路とともに、取り除くことができます。

Q2とD1上のスイッチング電圧は、トランスの巻線間容量と部品の寄生容量によって、高周波数のコモンモード電流を発生させます。EMIコンデンサC12によってリターン・パスを提供しないと、この電流は入力または出力またはその両方に流れ込み、ノイズの増加や誤動作の原因となります。

Q3/R19/C18/R17の組み合わせにより、オシレータの電圧ランプがR18の一次側電流センス電圧に加算され、電流モード制御で使用されるスロープ補償が行われます。このスロープ補償は、分数周波振動(広いデューティ・サイクル・パルスの後に狭いデューティ・サイクル・パルスが続く現象)を取り除きます。このコンバータは50パーセント動作を超えないよう設計されているので、スイッチ・ジッタによる影響を低減するためにスロープ補償を追加しました。ただし、電圧スロープ補償を過度に行うと、制御ループが電圧モード制御に遷移し不安定になる可能性があります。最後に、出力電圧の制御性を維持するため、フォトカプラによって二次側からエラー信号を伝達します。フィードバック(FB)信号は、電流ランプ、スロープ補償、出力エラー信号、および過電流のスレッショルドを低下させるDCオフセットから構成されます。

図3にQ2とD1の電圧波形を示します。漏れインダクタンスとダイオードの逆回復によって誘起されたリンギングが示されています。

3. FETと整流ダイオードのリンギングをクランプおよびスナバで制限(57VIN、12V@5A)

低コストの絶縁型コンバータが必要なアプリケーションでは、フライバックは定番だと考えられています。今回の設計ではCCMフライバック設計での基本設計の検討事項を取り上げました。来月は電力段の詳細な設計計算を取り上げます。

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 著者紹介

John Betten(ジョン・ベッテン)

TI 技術スタッフ アプリケーション・エンジニアおよびTIグループ・テクニカル・スタッフのシニア・メンバー

AC/DCおよびDC/DC電力変換設計において28年以上の経験を有する。

ピッツバーグ大学 電気工学 理学士取得

IEEE(米国電気電子学会)メンバー

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