センシティブな試験・測定システムにおける性能強化

 高性能の試験・測定機器を製作する際に、基板にどこから電源が供給されるかについて考えることはあまりないでしょう。しかし、信じ難いかもしれませんが、電源は、その供給先となる高性能な逐次比較型(SAR)A/Dコンバータ(ADC)の性能に多大な影響を与える場合があるのです。電磁気干渉(EMI)に対して最適化された電源を使用することは、データ収集システム、半導体試験機器、スペクトル・アナライザ、オシロスコープなどさまざまなアプリケーションで非常に重要な要件となることがあります。

標準的な降圧コンバータの代わりに、EMI性能が最適化されたDC/DCスイッチング降圧コンバータを使用すると、信号対雑音比(SNR)を最大2dB、スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)を12dB改善できます。この分析には、20ビットSAR ADC(ADS8900B)を2チャネルと、THS4551完全差動アンプ、LM53635 EMI最適化36V降圧コンバータ、およびTPS7A30低ドロップアウト・レギュレータ(LDO)を使用しました。高性能DAQシステムでEMIの影響を排除するマルチレール電源リファレンス・デザインを参照してください。

LM53635降圧コンバータは、次の3つの主な特長によって優れたEMI性能を発揮します。

  • HotRod™パッケージング
  • 入力コンデンサに対して同心円状の電流ループを可能にする対称的ピン配置
  • スペクトル拡散機能

LM53635は、TIによるFCOL(Flip-Chip On-Lead)フレーム・デバイス実装であるHotRodパッケージングを使用しています。ボンドワイヤでダイをリード・フレームに接続する代わりに、ダイを裏向きにしてリード・フレームに直接半田付けします。図1および2を参照してください。ボンドワイヤをなくすことで、フィルタで除去しにくい高周波ノイズの要因である寄生インダクタンスが減少します。HotRodパッケージング技術のもう1つの利点は、デバイスのドレイン-ソース間オン抵抗(RDS(on))を減らすことで、デバイスの効率が実際に高まることです。

図1:標準的なワイヤボンドQFN(Quad Flat No-lead)デバイス


 図2:HotRod FCOL QFNデバイス

図3に、LM53635降圧コンバータのスイッチ・ノードでのHotRodパッケージの直接的な利点を示します。

図3:ボンドワイヤを使用した標準的な降圧コンバータのスイッチ・ノード(a)、HotRodパッケージングでEMI最適化されたLM53635のスイッチ・ノード(b)、対称的なVIN/グランド・プレーンによるLM53635のEMI最適化ピン配置(c)

HotRodパッケージングによってEMI性能が向上する一方、もう1つの最適化がデバイスのピン配置です。LM53635のVIN/グランド・プレーンは対称的に設計されているため、入力コンデンサを並列に配置でき、それによって入力電流ループの面積を小さくできます。また、この寄生インダクタンスを並列に配置することで、リンギングが減少し、高周波EMIの軽減に役立ちます。

LM53635のもう1つの優れた特長はスペクトル拡散機能であり、周波数を±3%ディザリングして基本エネルギーのピークを減らすことで、EMI性能を強化します。スペクトル拡散機能によって、高周波のピーク放射が最大6dB低下し、より低い周波数では1dB弱低下します。最大動作電圧が36VINのLM53635は、最大18VINのシステムに対して最適化され、この電圧を2.1MHzで3.3VOUTまで効率よく変換できます。電圧が18Vを超える場合、デバイスは周波数を2.1MHzからスムーズにフォールドバックします。

もう1つのデバイスLMS3655は、LM53635の400kHz版であり、400kHzでのスイッチング中に最小オン時間の制約が生じないので、周波数フォールドバックなしで24VINを1VOUTへと効率的に変換できます。LM53635は、2.1MHzの周波数により、インダクタおよび全体のサイズがより小さいソリューションを実現できますが、LMS3655は効率について最適化され、12VINから5VOUTへの変換におけるピーク効率が96%です。LM53635とLMS3655はいずれも、EMI性能最適化機能を共有しています。

図4:高周波数伝導EMIの結果(30~108MHz)。スペクトル拡散なし(左)、スペクトル拡散あり(右)。グラフに重ねられた赤線は、厳密なCISPR(Comité International Spécial des Perturbations Radioélectriques)25クラス5標準による制限を示す(30~54MHzでは28dB制限、70~108MHzでは18dB制限)。

TIではLM53635を、24V入力でEMIに対して最適化されていない類似の降圧コンバータとまったく同じ構成とし、出力を同じLDOに接続して、ADCの性能をテストしました。表1および図5、図6に、LM53635における最適化の影響を示しています。

表1:まったく同じ構成でのLM53635と非EMI最適化スイッチング降圧レギュレータの性能比較

図5:非EMI最適化降圧コンバータのスペクトル分析(複数の突起が見られる)

図6:LM53635 EMI最適化降圧コンバータ(図5のような突起なし)

高精度アプリケーションに対してLM53635降圧コンバータを使用した場合の性能強化が明らかに示されています。EMI最適化されたデバイスを使用することで、EMIに対して最適化されていない類似の降圧コンバータに比べて、SNRが+1dB、SFDRが+13dB向上します。電源ツリーは一般に、ほとんどの設計者が多くの時間を費やす領域ではありませんが、適切なスイッチング・レギュレータを選ぶことは、システム全体の感度に大きな影響を与える場合があります。

その他のリソース

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/powerhouse/archive/2017/10/17/powering-up-the-performance-of-sensitive-test-and-measurement-systems

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