ノイズのせいでシステムが予想もしない動きをしたり、ひどければシステム障害も起こしたりしますが、原因を突き止めるのは非常に困難です。従来の高速CMOS(相補型金属酸化膜半導体)ロジックでは、ノイズにより信号に発振が生じることがあり、そのため電流消費量が増加したり、ときには信号エラーにつながったりします。これらのエラーは最終的にシステムの誤動作につながるため、より慎重な設計、場合によっては設計変更も求められます。この記事では、シュミット・トリガの利点およびシュミット・トリガを内蔵した新しい HCSロジック・ファミリの有用性について解説します。

設計エンジニアの多くは、外付けのシュミット・トリガ入力を用いたロジック・バッファを使って信号ノイズに取り組んでいます。シュミット・トリガは、信号遷移に対する閾値を2つ設けることで、発振を除去します。なだらかな信号エッジとノイズが多いエッジのどちらの場合でも、きれいな信号に変換し、シグナル・チェーンの下流にノイズを伝播させず信号エラーを防ぎます。結果として、システムの堅牢性と性能が向上します。図1に、シュミット・トリガの利点を示します。

1:シュミット・トリガ入力の利点

システム設計者が使用するロジック・デバイスは、ノイズの影響を受けにくい設計を実現するうえで重要な役割を担います。TIのHCSロジック・ファミリは、最新の300mmウェハー・プロセスを使用し、産業用や車載用からパーソナル・エレクトロニクスまで、幅広い市場のソリューションに対応します。HCSロジック・ファミリは、堅牢性や、電力効率、性能に優れた次世代システムのロジック・ビルディング・ブロックとなります。

エレクトロニクス業界では、数十年にわたりHCMOS(High-speed complementary metal-oxide semiconductor)マルチゲート・ロジック素子が使われてきました。HCSファミリは、HCロジック・ファミリのアップデート版になります。HCSロジックは、昨今のシステム設計者からのニーズと要望に応えられるように、マルチゲート・ロジック素子をより現代的なものに変えています。型番が『SN74HCSxx』となっている各HCSロジック部品は、既存のHCロジック部品とピン互換性がありドロップイン置換に対応するため、設計を更新したり開発ツールを変更したりする必要がありません。

現在、車載用や産業用などの厳しい環境で使われる、ノイズに弱い低消費電力アプリケーションに対してロジック・ファミリを選択することは非常に複雑です。設計エンジニアは、まったく異質な部品セットを組み合わせて、電力消費、性能、信頼性、コストの面でバランスのとれたシステムを構築しなければなりません。

HCSファミリには、各データ入力にシュミット・トリガ機能を内蔵してノイズや電力の課題に対処する、マルチゲート・ロジック素子の包括的なファミリがあるため、ロジック・デバイスの選択と製品設計はシンプルになります。シュミット・トリガ入力機能は、さまざまなアプリケーションに直接的なメリットがあります。先進運転支援システムや工場製造コントローラなどのアプリケーションは、HCSロジック・デバイスの恩恵を受けられる例のほんの一部です。図2のように、シュミット・トリガを内蔵することで、外部的なシグナル・コンディショニングの必要なしに、システムのノイズ耐性が向上してグリッチのない動作になります。車載用アプリケーションを念頭に設計されたHCSファミリは、TIで初めて一般商用レベルと車載用レベルの両方の部品を完全なラインナップで発売するロジック・ファミリです。

2:従来のHCロジックとHCSロジックとの実装の比較

効率性と堅牢性を考えた設計

HCSファミリを使うと単に外付けの信号バッファが��要になるだけでなく、システムのロジック実装に必要な電力が直接削減されるため、効率性が向上します。あるHCS部品の静止電流(IQ)は、同等のHCロジックが20μAなのに比べて、わずか2μAです。2Vから6VのHCSファミリの中の各デバイスの消費電力は、同等のHCロジック素子よりも95%低いので、HCSロジック・デバイスはバッテリ駆動設計に非常に適したものになっています。

超低消費電力は、ほんのさわりでしかありません。HCSファミリでは遅延も最小限に抑えられ、伝搬遅延が40%改善する一方、同等のHCデバイスよりも50%も電流駆動が改善しています。つまり、低電力のシステム・ロジック実装を実現するために、性能を犠牲にする必要がなくなります。

信頼のおけるサポートと設計を重視した開発補助資料

ロジック・ファミリを選ぶことは、単に一連のデバイスを選択するだけでは終わりません。TIでは、早くHCSロジック素子に精通してもらうために、アプリケーション・ノートやトレーニング資料、技術記事を用意しています。それに加えて、HCSファミリには、設計サイクルの短縮、予算に合わせた設計、最終製品を市場に投入する簡単な方法の発見に役立つ、TIロジック・アプリケーション専門のサポートがあります。

HCSロジック素子は、同等のHCロジック素子とドロップイン置換ができ、一般的に使われるパッケージ・タイプ(SOP(Small-Outline Package)、TSSOP(Thin Shrink Small-Outline Package))で供給される予定なので、HCSデバイスを設計に取り入れるにあたって新たに何かを覚え直す苦労はありません。

まとめ

新しいHCSファミリには、Automotive Electronics CouncilのQ-100適性や、劇的な低電力化、ノイズ耐性、堅牢な信号性能といった、設計者が求めている多くの特長や機能があると同時に、後方互換性も維持しています。

HCSロジック・ファミリは、単に新しくなったロジック・ファミリではありません。設計をより堅牢なものにするひとつの手段なのです。

参考情報

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※上記の記事はこちらの技術記事(2019年11月12日)より翻訳転載されました。
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