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コンパレータは、例えば、過電圧状態では論理レベルのHigh(5V)、通常動作ではLow(0V)を出力するといったように、システムの2つの状態を比較するのによく使われます。専用のコンパレータもありますが、オペアンプをコンパレータとして機能するよう構成することも可能です。

オペアンプの場合、専用のコンパレータと比べて低コストで、必要なプリント基板(PCB)面積が最小限で済むなど、いくつかの利点があります。ただし、オペアンプをコンパレータとして構成するには、オペアンプのいくつかの仕様や特性を事前に検討しなければなりません。この記事では、このような考慮事項について説明し、設計手順を紹介していきます。

設計上の考慮事項

オペアンプをコンパレータとして構成する場合には、差動入力クランプ・ダイオード(背面結合ダイオード)の有無、入力同相モード電圧、スルー・レート、さらに過負荷回復時間について考慮する必要があります。図1は、オペアンプを使用したときの標準的なコンパレータ構成です。

図1:オペアンプを使用した標準的なコンパレータ構成

差動入力クランプ・ダイオード

差動入力クランプ・ダイオードは、背面結合入力ダイオードとも呼ばれますが、大きな差動入力電圧から入力段のトランジスタを保護します。図2に示すのは、内蔵の差動入力クランプ・ダイオードです。

図2:入力クランプ・ダイオード

オペアンプをコンパレータとして使用するときは、差動入力クランプ・ダイオードが存在してはなりません。差動入力クランプ・ダイオードの付いたオペアンプにダイオードの電圧降下を超える差動信号が加えられると、非反転入力と反転入力の間でいずれかのダイオードが導通し、2つの入力が短絡します。この状態では、導通したダイオードに過大な電流が流れるので、デバイスが損傷を受ける可能性があります。図3にこの影響を示します。入力ダイオードが導通すると、電流がリファレンス・ソース(VRef)から入力電圧(Vin)へと流れます。

図3:差動入力が大きすぎるとクランプ・ダイオードに電流が流れる

入力同相モード電圧

同相モード電圧の範囲により、オペアンプの入力段のリニア動作領域が規定されます。オペアンプの入力の電圧はこの範囲内におさまる必要があります。電圧がこの範囲を外れると、位相反転などの望ましくない結果が生じます。

伝搬遅延

オペアンプをコンパレータとして構成しているとき、伝搬遅延とは、入力の遷移後に出力電圧がLowからHighまたはHighからLowに遷移するのにかかる合計時間のことです。合計遷移時間は、オペアンプの過負荷回復時間とスルー・レートに依存します。オペアンプの合計出力遷移時間は式1で求められます。

tTOTAL = tOL + tS                     (1)

ここで、tOLは過負荷回復時間、tSはスルーにかかる時間です。

出力がその最終値に安定するまで、入力電圧が変化しないようにする必要があります。図4は、コンパレータとして構成したオペアンプの標準的な出力電圧波形です。入力電圧が変化する前に出力電圧が遷移し終えていることに注目してください。

図4:伝搬遅延

過負荷回復時間

過負荷回復時間とは、入力電圧の変化後、出力電圧が飽和状態から変化し始めるまでにかかる時間のことです。高周波入力信号に対してオペアンプの過負荷回復時間が長すぎると、信号タイミングに影響が及びます。なぜなら、出力が最終的なHighまたはLowの振幅レベルに到達しないうちに、入力電圧が再び変化する可能性があるからです。

図5に、オペアンプをコンパレータとして構成したときに、過負荷回復時間が信号タイミングにどう影響するかを示します。この例では、tOLが原因となり、tTOTALが許容遷移時間をオーバーしています。緑の点線は、入力信号周波数に対して過負荷回復時間が十分に速いときの正しいタイミングを表しています。実線の出力波形は、デバイスの過負荷回復時間が長すぎる場合を表しています。出力が最終的な振幅に達する前に入力信号が変化していることに注目してください。これにより、図5のΔVで示すタイミング・エラーが生じる可能性があります。

5:過負荷回復時間がタイミングに与える影響

スルー・レート

スルー・レートとは、オペアンプの出力電圧の最大変化率のことであり、これは図4の出力波形の立ち上がりと立ち下がりの時間に影響します。コンパレータとして使用する場合、一般に入力電圧がスレッショルド電圧をまたぐと、出力はHighからLowまたはLowからHighに変化する必要があります。スルー・レートが仕様として重要なのは、これにより出力電圧が変化する速さが制限されるためです。スルー・レートが低いと、出力が最終的な振幅に達するまでの時間が長くなるため、出力電圧の状態がHighまたはLowに達する前に入力信号が変化し、タイミング・エラーにつながる場合があります。

図6に、オペアンプをコンパレータとして構成したときに、スルー・レートが信号タイミングに及ぼす影響を示します。この例では、tSが原因となり、tTOTALが許容遷移時間をオーバーしています。緑の点線は、スルー・レートが十分に速く、入力信号が変化する前に出力の状態がHighまたはLowに達することができる正しいタイミングを表しています。実線の出力波形は、デバイスのスルー・レートが遅すぎる場合を表しています。出力が最終的な振幅に達する前に入力信号が変化していることに注目してください。これにより、図6のΔVで示すタイミング・エラーが生じる可能性があります。

図6:スルー・レートがタイミングに与える影響

伝搬遅延には過負荷回復時間とスルー・レートの影響が含まれ、これらはそれぞれ、入力に加えられる���動信号振幅に影響されます。差動入力電圧またはオーバードライブ電圧を上げると、伝播遅延時間が短くなります。図7は、入力オーバードライブ電圧が異なると『TLV9062』の伝搬遅延にどう影響するかを示したものです。入力オーバードライブ電圧が大きいほど、伝搬遅延が短くなることに注目してください。オーバードライブ電圧が100mV未満であると、過負荷回復時間が増加しスルー・レートが減少するため、伝搬遅延が長くなります。

図7:入力オーバードライブ電圧と立ち下がりエッジの伝搬遅延との関係

設計手順

オペアンプをコンパレータとして設計する手順は、単純化すると次の2つの設計ステップになります。

  • 分圧抵抗またはリファレンス電圧を使ってスレッショルド電圧を設定する
  • ここで述べた設計要件をすべて満たすオペアンプを選択する

図8に、反転コンパレータとして構成された『TLV9062』を示します。このデバイスには入力クランプ・ダイオードがなく(オペアンプがコンパレータとして動作するための必須要件)、レール・ツー・レール入出力の機能があり、スルー・レートは6.5V/µs、過負荷回復時間は200nsです。

図8:『TLV9062』を使用したコンパレータ・アプリケーション

反転コンパレータのトポロジでは、入力信号(VIN)をオペアンプの反転ピンに接続し、スレッショルド電圧(VTH)をオペアンプの非反転ピンに接続します。この構成では、入力信号がスレッショルド電圧より小さいとき、オペアンプの出力は正の電源電圧(V+)であるHighに遷移し、入力信号がスレッショルド電圧より大きいときは、負の電源電圧(GND)であるLowに遷移します。

分圧抵抗(R1とR2)および電源電圧(V+)により、この設計のスレッショルド電圧が設定されます。スレッショルド電圧は式2で求められます。抵抗R1とR2により、スレッショルド電圧が中間電位に設定されます。                                                                                                          

                                                                                                                                                   

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アプリケーション波形

入力信号として0~5Vの三角波形を使用し、コンパレータの動作を検証します。三角波形では入力信号がゆっくりと変化するため、出力がどこでHighからLowまたはLowからHighへ遷移するかが判別しやすくなります。図9に、入力信号(黒線)と出力信号(赤線)の波形を示します。注目して欲しいのは、入力信号が2.5Vのスレッショルド電圧をまたいだ後の出力の遷移です。

図9:入力電圧に対するコンパレータ応答(伝搬遅延を考慮済み)

図10は、図9の出力信号の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの部分を拡大したものですが、スルー・レートが回路のタイミングに与える影響が分かります。『TLV9062』がLowからHigh(またはHighからLow)に遷移する時間は、そのスルー・レートにより約1µsかかります。

図10:立ち上がりエッジ(左)と立ち下がりエッジ(右)

まとめ

コンパレータとして構成されたオペアンプは、専用のコンパレータに比べて低コストでPCBの占有面積が少ない代用品となります。ただし、期待する性能を確実に得るには、次の主な4つのオペアンプ特性を考慮する必要があります。

  • 入力差動クランプ・ダイオード
  • 入力同相モード電圧
  • スルー・レート
  • 過負荷回復時間

オペアンプは、入力クランプ・ダイオードのないものにする必要があります。そうでないと、過電流が入力を流れ、デバイスの損傷につながるおそれがあります。また、入力同相モード電圧範囲を超えないようにしなければなりません。もし超えた場合は、位相反転などの望ましくない影響が生じる可能性があります。最後に、タイミング・エラーを防止し、回路の読み取り精度が下がらないように、出力信号の遷移時間にスルー・レートと過負荷回復時間も考慮するようにします。これらの特性がそれぞれ回路性能に与える影響を理解することで、高精度のしっかりとしたシステムを設計できるでしょう。

参照

1.      TIプレシジョン・ラボ: オペアンプ・ビデオセミナー(日本語吹替、日本語字幕)

2.      技術記事(英語) “Op amps used as comparators – is it okay?

著者紹介

Tim Claycomb

テキサス・インスツルメンツ

汎用オペアンプ部門

アプリケーション・エンジニア

 

※2019年9月3日マイナビニュース掲載のテキサス・インスツルメンツ寄稿記事を転載

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