作業者の保護、ノイズ耐性の強化、サブシステム間のグランド電位差への対処など、その機能はあらゆるところで必要とされます。モータ駆動太陽光インバータDC充電(パイル)ステーション産業用ロボット無停電電源トラクション・インバータオンボード・チャージャDC/DCコンバータなどのアプリケーションのために、その機能を設計します。

その機能とはもちろん、ガルバニック絶縁のことです。

前述のようなシステムでは、モニタリングと制御を行うために、ある電力ドメインから別のドメインへ絶縁バリアをまたいで電流と電圧の情報を伝える必要があります。絶縁バリアをまたいでどのようにアナログ情報を伝えるのでしょうか。その答えは絶縁型アンプ絶縁型A/Dコンバータ(ADC)にあります。絶縁型A/Dコンバータは、絶縁デルタ・シグマ・モジュレータとも呼ばれます。

このようなシステムを設計する際の大きな課題は、絶縁型アンプまたはADCへの電源をどうするかです。従来の方法だと、ハイサイドに1つとローサイドに1つ、合わせて2つの電源が必要です(それぞれ図1の左側のVDD1とVDD2)。ローサイドにはデジタル・コントローラと同じ電源から電源をとることがよくありますが、ハイサイドにすぐ使える電源があるシステムは多くありません。つまり、ハイサイドにディスクリートな絶縁電源を設計する必要があり(これによりソリューション・サイズが増え、BOM数とソリューション・コストも増加)、そのため設計とプリント基板(PCB)レイアウトが複雑になります。

この設計課題に対処するために、TIはローサイドの単一電源で動作する絶縁型アンプおよびADCファミリを開発しました。図1に、電源が2つ必要な標準的な絶縁型コンバータ(左側)と、単一電源で動作するAMC3301ファミリ(右側)の違いを示します。

 1:従来の絶縁型アンプと単一電源を使用する絶縁型アンプ

 

これらの新デバイスには、ハイサイドの電源を内部的に生成する完全一体型DC/DCコンバータ段が内蔵されています。このDC/DCコンバータのアーキテクチャは、ハイサイドの低ドロップアウト・レギュレータ(LDO)出力ピン(通常HLDOOUTと表記)からアクティブ・フィルタやプリアンプ、コンパレータといった補助回路に最大1mAのDC電流を追加供給するように最適化されています。


シャント・ベースの電流センシング向けの高い精度


DC/DCコンバータ内蔵、高精度、強化絶縁型アンプAMC3301の詳細をご確認ください。

単一電源の利用により設計が簡素化される仕組み

単一電源を利用するメリットには次のものがあります。

  • ソリューション・サイズの縮小、部品表(BOM)とシステム・コストの削減

    内蔵DC/DCコンバータにより、専用の絶縁電源や、専用のトランスにトランス・ドライバとLDOを組み合わせたディスクリート電源が不要になります。DC/DCコンバータを内蔵することで、スペースに制約のあるアプリケーション向けのコンパクトなシステム設計を作成できます。また、BOM数が減り、システム・コストが下がります。
  • 設計とレイアウトが簡素化される可能性

    ハイサイド電源が得られるかどうかを悩む必要がなくなるので、高精度のシャント・ベースの電流/電圧センシングの設計が容易になり、次のことが可能になります。
    • 集中型電源が不要になるので、モジュール型のPCB設計による再利用性が向上
    • 2層基板設計が可能になり、電源などの配線が減少
    • 共通の中性点がない多相システムで位相間の電圧を測定する際に、設計上の複雑さが解消され、従来必要であったディスクリート絶縁電源が不要

  • シャント配置の自由度

    従来のアーキテクチャでは、ハイサイドに電源があるためにシャントの配置場所が限定され、これが寄生成分による影響にもつながるおそれがあります。一例として、ハイサイドの電源としてゲート・ドライバ電源を使用した場合、必ずしもシャントをスイッチ・ピンの近くに配置できるとは限りません。そのように最適な場所に配置できなければ、シャントと直列に寄生インダクタンスが加わるかもしれません。その場合、電源段のスイッチング時にアンプの入力で同相外乱が生じ、測定の精度が低下します。一方でAMC3301ファミリを使用した場合は、電源が内蔵されているため、寄生インダクタンスが測定精度に影響することがありません。

TIのポートフォリオ

図3は、TIの絶縁型アンプおよびADCのポートフォリオをまとめたものです。左側は電源が2つ必要な従来のデバイス、右側は単一電源で動作するデバイスです。

 2TIの絶縁型アンプと絶縁型モジュレータ(ADC)のポートフォリオ

 以下にAMC3301ファミリの全デバイスを用途別に示します。

 電流センシング向け:

  • AMC3301』:±250mV入力対応、強化絶縁型アンプ
  • AMC3301-Q1』:AEC(Automotive Electronics Council)-Q100認定済、±250mV入力対応、強化絶縁型アンプ
  • AMC3302』:±50mV入力対応、強化絶縁型アンプ
  • AMC3306M25』:±250mV入力対応、強化絶縁型モジュレータ(ADC)

 電圧センシング向け:

  • AMC3330』:±1V入力対応、強化絶縁型アンプ
  • AMC3330-Q1』:AEC-Q100認定済、±1V入力対応、強化絶縁型アンプ

性能を犠牲にしなくても、設計の簡素化とコンパクトなフォーム・ファクタを両方とも実現することは可能です。絶縁型アンプおよびADCの知識の拡充に役立つ以下の参考情報をぜひご確認ください。

参考情報(英語):
トレーニング・ビデオ
+ホワイト・ペーパー:
High-Voltage Isolation Quality and Reliability for AMC130x
Comparing Isolated Amplifiers and Isolated Modulators
Comparing Shunt- and Hall-Based Current-Sensing Solutions in Onboard Chargers and DC/DC Converters
+アプリケーション・ブリーフ:
Accuracy Comparison of Isolated Shunt and Closed-Loop Current Sensing

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。 
※上記の記事はこちらの技術記事(2020年10月26日)より翻訳転載されました。 
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