産業用や車載用の多くのアプリケーションでは、同期整流降圧型コンバータによる電源トポロジーを採用しています。これらのアプリケーションでは、共通の電源バス(入力電圧[VIN])を使用する他の機器へのEMI(電磁干渉)を防止するため、伝導や放射による妨害が低いことも必要になります。例えば、インフォテインメント・システム内では、EMIによってカーステレオにノイズを発生させるおそれがあります。

図1は、 同期整流降圧型コンバータの回路とスイッチング・ノードの波形を示しています。スイッチング・ノード波形のピークのリンギングは、ハイサイド(高圧側)MOSFETスイッチング速度と、高圧側やローサイド(低圧側)のMOSFETとプリント基板の浮遊インダクタンスや浮遊容量の影響を受けます。スイッチング・ノードの波形のリンギングは、低圧側MOSFETの電圧ストレスになるとともに、EMIの原因となることから、防止すべきです。 

図1: 同期整流降圧型コンバータ回路と波形

図1の降圧型コンバータのスイッチング・ノードのリンギングと、これが原因で発生するEMIとの関係を明確にするため、CISPR(国際無線障害特別委員会)25 クラス5規格に準拠した伝導放射のテストを実施しました。図2に、その結果を示します。計測された 降圧型コンバータの伝導放射は、30MHz~108MHzの周波数帯で クラス5の規制値を15dBµV も超えていました。

図2: CISPR 25 クラス5に準拠した 30MHz~108MHzのノイズ計測結果。降圧型コンバータの入力電圧 VIN = 12V、出力電圧VOUT = 3.3V、出力電流 IOUT = 5A。

 EMIを低減する最初のステップは、スイッチング・ノードのリンギングを抑圧することです。これにはいくつかの方法があります。まず、MOSFETのターンオン/ターンオフ時間を長くします。これはスイッチング・ノードの立ち上がり時間と立ち下がり時間を制御するということです。このためには、図3に示すように抵抗RHOとRLOをMOSFETのゲート・ピンに直列に接続します。別の方法としては、RSUB とCSUBで構成されたスナバ回路をスイッチング・ノードとグラウンドの間に接続します。このスナバ回路によって、スイッチング遷移中に、浮遊インダクタンスや浮遊容量をダンピングします。

 

図3: ターンオン/ターンオフの制御回路

 上の手法以外にスイッチング・ノードのリンギングを低減する方法は、車載規格認定取得済の同期整流降圧型コントローラであるLM5140-Q1を使用することです。LM5140-Q1の特長の一つに、スルーレート制御機能があります。このデバイスのソース・ピンとシンク・ピンを使うことで、高圧側と低圧側のMOSFETのターンオン時間とターンオフ時間を独立して制御できます。

 低圧側のMOSFETがオフに遷移し、高圧側のMOSFET がオンに遷移する期間では、スイッチング・ノード 電圧がグラウンドからVINまで上昇します。高圧側のMOSFET のターンオン時間が短い場合、この遷移期間中にスイッチング・ノード電圧に大きなオーバーシュートが発生します。RHO 抵抗を増加させることで、高圧側MOSFETの駆動電流が減少し、MOSFETのターンオン時間が長くなり、スイッチング・ノードのリンギングの低減に役立ちます。高圧側MOSFETのターンオフ時間を長くすると、スイッチング損失が増加することにも注意が必要です。 RHO の抵抗値を選択する場合、EMIの低減と高圧側MOSFETのスイッチング損失の間のトレードオフを考えなければなりません。

 低圧側MOSFETの損失には、導通時ドレイン-ソース抵抗 RDS(ON) による損失、デッドタイム損失や、MOSFETの寄生ダイオードによる損失があります。高圧側と低圧側のMOSFETがオフになるデッドタイム中には、低圧側MOSFETの寄生ダイオードにはインダクタ電流が流れます。このMOSFETの寄生ダイオードは、通常、高い順方向電圧降下を持つため、効率が大幅に低下することがあります。低圧側MOSFETの寄生ダイオードに電流が流れる期間を短くすることで、効率を向上できます。

 スルーレート制御機能を使い、抵抗ROLLM5140-Q1のドライバ出力(LO ピン) と低圧側MOSFETのゲートの間に接続することで、低圧側MOSFET のターンオフに必要な時間を長くすることができます。ターンオフ時間を長くすることで、低圧側MOSFETの導通から高圧側のMOSFETの導通までのデッドタイムを短くさせることができ、降圧型コンバータの効率を向上できます。同期整流降圧型コンバータ回路のデッドタイムを短くする場合には、高圧側と低圧側のMOSFETが同時に導通しないよう注意が必要です。

図4: スルーレート制御機能を使った場合の、降圧型コンバータのスイッチング・ノードの波形

 図4は、図1の回路にLM5140-Q1コントローラを追加した回路と波形を示したものです。スルーレート制御機能を使うことで、スイッチング・ノードの立ち上がり時間と立ち下がり時間を最適化し、スイッチング・ノードのリンギングを防止しました。

 次のステップは、CISPR 25 クラス5 伝導放射の低減です。スルーレート制御機能の抵抗値は、RHO = 10Ω, RHOL = 0Ω, RLO = 10Ω、RLOL = 10Ωに設定しました。ここに示した抵抗値は、出力電力50Wまでのアプリケーション向けの最適な開始点となるでしょう。

 

図5 は、伝導放射テストの結果とまとめです。

図5: スルーレート制御の比較: CISPR 25 クラス5、入力電圧VIN = 12V、出力電圧VOUT = 3.3V、出力電流IOUT = 5Aで、スルーレート制御機能なしの場合(a)と、ありの場合(b)

 

LM5140-Q1のスルーレート制御機能を使った 降圧型コンバータ回路では、伝導放射を21dBµVも低減できました。また、この回路ではスイッチング・ノードの立ち上がり動作と立ち下がり動作の制御がより良好で、スナバ回路も不要となり、回路の簡素化とコストの削減に役立ちます。

 スルーレート制御機能の抵抗値を正しく選択することで、EMIの低減のみならず、システムの効率向上も可能になります。

LM5140-Q1関連の情報

 

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

https://e2e.ti.com/blogs_/b/powerhouse/archive/2016/03/21/how-to-use-slew-rate-for-emi-control

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