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車載アプリケーションの設計者は、種々のEMC(電磁適合性)要件を満足する必要があり、このためには、適切な電源スイッチング周波数(fsw)を選定することが重要です。多くの設計者は、中波AM放送帯域外の周波数でEMI(電磁妨害)を低減できる400kHzや2MHzを選びます。これらの選択肢のうち、多くの理由から2MHzのスイッチング周波数が推奨されます。本稿では、TIの新しいTPS54116-Q1 DDRメモリ向け電源ソリューションを例として、2MHzのスイッチング周波数で動作させる場合の、いくつかの重要な検討事項について説明します。

2MHzのスイッチング周波数で動作させる場合の、最初で、最も重要な検討事項はコンバータの最小オンタイムです。降圧型コンバータで、ハイサイド(高圧側)MOSFETをオンにし、その後オフにする場合、この最小オンタイム期間中はオン状態を保たなければなりません。ピーク電流モード制御を使う場合、通常、最小オンタイムは電流センス信号のブランキング時間によって制限されます。コンバータの最小オンタイムの最大値は、一般に最小負荷条件で発生します。それは次の理由によります。

  1. より重い負荷条件では、直流の電圧降下が発生し、動作時のオンタイムが長くなります。
  2. スイッチング・ノードの立ち上がり時間と立ち下がり時間。ローサイド(低圧側)MOSFETがオフになってからハイサイドMOSFETがオンになるまでの期間、およびハイサイドMOSFETがオフになってからローサイドMOSFETがオンになるまでの期間をデッドタイムと呼びます。デッドタイム期間中には、インダクタに流れる電流によってスイッチング・ノードの浮遊容量が充放電されます。軽負荷時にはインダクタに流れる電流が小さくなり、浮遊容量の充放電時間が長くなり、スイッチング・ノードの立ち上がり時間と立ち下がり時間が長くなります。立ち上がり時間と立ち下がり時間が長くなることで、スイッチング・ノードの実効パルス幅が増加します。
  3. オフからオンまでのデッドタイム。ローサイドMOSFETがオフになった後、ハイサイドMOSFETが再びオンになるまでのデッドタイム期間には、ハイサイドMOSFETの寄生ダイオードがスイッチング・ノードの電圧をクランプするまで、インダクタに流れる電流がスイッチング・ノードの電圧を充電します。その結果、ローサイドMOSFETがオフになってからハイサイドMOSFETがオンになるまでのデッドタイム期間中、スイッチング・ノードは高電圧になります。この期間中、スイッチング・ノードが高電圧であることから、このデッドタイム期間が実効最小パルス幅に追加されます。図1に、オンタイムが同一なのに無負荷条件ではパルス幅が増加している様子を示します。

 

1: 全負荷時と無負荷時のパルス幅の比較

 

2MHzのスイッチング周波数を選択する場合の第2の検討事項は、最小入力電圧(VIN)と出力電圧(VOUT)の変換比です。この変換比は、コンバータの動作に必要なオンタイムを決定してしまうため、コンバータの最小オンタイムを左右します。例えば、コンバータの最小オンタイムが100nsで、スイッチング周波数が2MHzの場合、式1 から、この条件でサポート可能な最小変換比 (Dmin)は20%になります。任意のVIN-VOUT 比では、最小オンタイムよりも短いオンタイムが必要になることから、大多数のコンバータでは出力電圧の安定のためにパルス・スキップ・モードを採用します。パルス・スキップ・モードでは、スイッチング周波数が変化し、ノイズの制限が必要な周波数でノイズを発生するおそれがあります。

  

車載アプリケーションで電源をバッテリに直結する場合、オンタイムは、代表的な入力電圧範囲である6V~18Vから出力電圧への変換動作をサポートする必要があります。式2を使い、最大入力電圧18V、電圧変換比20%とすると、最小出力電圧は3.6Vとなります。電源をバッテリに直結する場合、ロード・ダンプなどで、代表的な入力電圧範囲を超える大きな電圧スパイクが発生することがあります。アプリケーション要件によって、入力電圧スパイク期間中に、パルス・スキップ・モードでのコンバータ動作が可能か、不可能かどうかが決まります。

 

3.3V または5Vの電源レールに接続されたレギュレータは、2MHzのスイッチング周波数での動作がより容易です。例えば、TPS54116-Q1の最小オンタイムの最大値は125nsであり、2MHzでの最小デューティ・サイクルは25%となります。入力電圧3.3V時の最小出力電圧は0.825Vです。また入力電圧5Vであれば1.25Vの最小出力電圧をサポートできます。個々のアプリケーションで最小出力電圧を検討する場合には、入力電圧の許容範囲やスイッチング周波数などの要件も含めるべきです。 

2MHzのスイッチング周波数を選択する場合の第3の検討事項は、インダクタ内の交流損失です。交流損失はスイッチング周波数が高くなるに従って増加します。インダクタによっては、より高い周波数で、より低い交流損失特性を備え、より高い効率を提供するよう設計されたコア材料を使っているものがあります。大多数のインダクタ・メーカは、インダクタ内での交流損失の予測に役立つツールを供給しています。

2MHzのスイッチング周波数を選択する場合の第4の検討事項は、サイズと効率のトレードオフです。DC/DCコンバータのスイッチング周波数を選定する場合、サイズと効率のトレードオフを行うことが必要です。スイッチング周波数を高くすると、インダクタのサイズや数種類のコンバータ損失が増加します。400 kHzと2MHz のスイッチング周波数を比較すると、2MHzの設計では、インダクタのインダクタンスは1/5になりますが、スイッチング損失は5倍になります。インダクタンスが1/5になることで、インダクタのサイズは小さくできます。

スイッチング周波数に関連する損失には、ハイサイドMOSFETのスイッチング損失と、デッドタイム損失の2種類があります。損失の基本的な予測値は、式3で計算できます。式3を使って、より高いスイッチング周波数で増加する損失の影響の解析をさらに進めることもできます。例えば入力電圧5V、負荷電流4A、立ち上がり時間3ns、立ち下がり時間2ns、寄生ダイオードの電圧降下0.7V、デッドタイム20nsの条件では、予測される電力損失は、2MHzで325mW、400kHzでは65mWとなります。

余分な電力損失は、動作時に接合部温度の上昇を招きます。TPS54116-Q1EVM-830 のRθJA = 35°C/W を式4に代入すると、このICの接合部温度は、9℃しか上昇しないことがわかります。放熱特性は、PCBのレイアウトによって変化します。

 

データシートの1ページ目に2MHzのスイッチング周波数が掲載されている場合でも、実際に2MHzでの動作が可能であるかどうかは、すべての動作条件を検討してみないとわかりません。2MHzのスイッチング動作には利点と欠点があり、設計するDC/DCコンバータ・ソリューションのサイズと効率の間には、常にトレードオフが必要です。TPS54116-Q1EVM-830 評価モジュールを注文し、WEBENCH®Power Designer を使って、2MHzのスイッチング動作の設計を開始しましょう。

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