CHMSLとは、センター・ハイマウント・ストップ・ランプ(center high-mounted stop lamp)の略称です。自動車の場合、CHMSLは左右のブレーキ・ランプの上に取り付けられています。米国国家道路交通安全局(NHTSA)によると、CHMSLは、ブレーキが踏まれたときに、後続のドライバーに対して速度を落とす必要があることを、視認性の高いメッセージとして伝えます。CHMSLは左右のブレーキ・ランプに加えて取り付けられているため、「第3のブレーキ・ランプ」とも呼ばれています。ピックアップ・トラックなどの一部の自動車では、ブレーキ・ランプの機能に加えて、バック・ランプの機能もCHMSLに統合されています。

 ディスクリート部品を使用したCHMSLの実装

近年の自動車では、CHMSL内の光源の大部分は発光ダイオード(LED)ストリングがベースになっています。トラジスタベースの回路によってCHMSLのLEDストリングが動作します。通常、CHMSL LEDドライバ回路はスイッチング回路ではなくリニア回路です。つまり、LEDはトランジスタが線形領域で動作する回路によってリニア駆動されます。

多くの場合、設計者は個別の抵抗とローサイド・バイポーラ複合トランジスタ(BJT)、または、回路を使用したディスクリート部品によるCHMSLのLEDドライバ回路を考えます。図1は、CHMSL向けのディスクリートLEDドライバ回路の例を示しています。この回路では、CHMSLは2つのLEDストリングで構成され、それぞれのLEDストリングは2つの赤色のLEDが直列になっています。BJTは、LEDのローサイドにあります。

 図1:CHMSL向けディスクリートLEDドライバ回路

温度の考慮

リニアLEDドライバ回路を設計するときは、熱性能を考慮しなければなりません。回路の設計と部品の選択では、部品が故障するような温度まで熱くならないようにする必要があります。図1の回路図により、供給電圧の上昇につれてBJTと抵抗の電圧も上昇し、その結果これらの部品の電力消費が増えることがわかります。電力消費の増加は、温度の上昇を意味します。したがって、リニアLEDドライバ・アプリケーションでは、入力電圧範囲が熱の問題の主な原因になります。

図1の回路図の熱の問題を分析するために、CHMSLのLEDの総電流が90mAで、各LEDストリングが45mAの電流で動作する例について考えてみましょう。16Vの供給電圧の場合、式1では9VまでのBJTの最大電圧降下が計算されます。

式2では、0.81WまでのBJTの最大電力消費が計算されます。

最大動作温度を85°Cと仮定して、熱抵抗が80°C/Wのスモールアウトライン・トランジスタSOT-223パッケージでBJTを使用することによって、式3では、BJTの最高接合部温度は次のように計算されます。

この計算は、接合部温度が一般的に許容可能な最高接合部温度である150°Cに非常に近いことを示しています。

回路の熱性能を高めるためには、式4の計算によって示しているように、2つのトランジスタを並列で使用して電力消費を分け、最も悪い条件でも最高温度が150°Cより低い温度にとどまるようにします。

熱抵抗が高い他のBJTパッケージ・タイプを使用すると、電力消費を分割するために、より多くのBJTが必要になります。並列でのトランジスタの数とサイズは、主にLEDの電流とトランジスタで許容されている最大電力消費がベースになります。

統合LEDドライバICを使用したCHMSLの実装

図2で示しているように、LEDを動作させるためのもう1つの方法は、TIの『TPS92610-Q1』のような特定のリニアLEDドライバ集積回路(IC)を使用することです。このようなドライバICでは、トランジスタとドライバ回路がすべてIC内に統合され、トランジスタは線形領域でも動作しています。すべての部品がIC内に統合されているため、このソリューションで必要なものはICとセンス抵抗のみです。

 図2:『TPS92610-Q1』統合LEDドライバ回路

温度の再考慮

この設計での温度、特にICの接合部温度を見てみましょう。16Vの供給電圧の場合、式5では11VとしてICの最大電圧降下が計算されます。

同じ90mAの電流、ICの最大電圧降下を11V、熱抵抗を52°C/Wと仮定すると、式6では、最高接合部温度は次のように計算されます。

統合ソリューションの4つの利点

ディスクリート・ソリューションに対する統合ソリューションの1つ目の利点は、部品数が少なくなることです。基板上の部品数を少なくすることで、スペースの条件が間違いなく軽減されます。

2つ目の利点は、全温度範囲に対する電流レギュレーション精度です。LEDの順電圧が温度とともに変化しても、ドライバICはIC内で一定の電流を維持できます。この点は、図1で示しているディスクリート回路とは対照的です。ディスクリート回路では、温度が変化したときにLED内の電流を調整することはできません。

リニアLEDドライバのICベース・ソリューションの3つ目の利点は診断機能です。LEDのオープンやショートなどLED回路の故障を検出でき、故障がドライバーに通知されます。

最後の利点は、部品数とそれぞれの部品のコストを考えた場合、図2で示している実装の方が図1の実装よりも安価にできることです。

詳細情報

センター・ハイマウント・ストップ・ランプ(CHMSL)向け車載リニアLEDドライバのリファレンス・デザインは、ブレーキ・ランプとバック・ランプを装備した、LEDストリングを動作させるための統合ソリューションです。各ランプは、電力をそれぞれの配線に供給することによって個別に制御できます。このデザインでは、『TPS92610-Q1』車載シングルチャネルLEDドライバを使用しています。この結果、少ない部品数で豊富な機能を持つソリューションを実現しています。

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2018年2月16日)より翻訳転載されました。
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