ドライバー監視システム(DMS)は、自動車のステアリング・システムと制御システムへのリアルタイム・フィードバックを強化します。詳細は、ブログ記事「ドライバー監視システムで衝突防止を支援する方法:パート1」で説明しています。しかし、設計者がこの技術を自動車に取り込もうとする場合には、複数の重要な設計に関する検討事項があります。

一般的に、最適な画像品質のために光源が調整されているような管理された環境向けにシステムを設計する場合は、設計の問題は簡単になります。DMSプラットフォームのサイズやフォームファクターは重要な制約条件ではありません。また、電力消費や放熱にも厳密な制限はありません。DMSで設計する場合、最初に検討すべき事項は、堅牢性とシステムで使用されるアルゴリズムの精度です。

自動車の室内は合理的に定義されている環境であると考えられそうですが、現実はまったく違います。実際には、自動車の室内は予測ができない環境です。一般的な制約条件として、運転環境は露光の変化、対向車のヘッドライトからの反射、気温の変化によって予測不可能になりますが、要因はそれだけではありません。

これらの要因によって、難しい環境条件に十分対応できるアルゴリズムをシステムで使用する必要性が発生します。システムの複雑さに追加されるもう1つの要因は、自動車の外見の設計に合わせることです。自動車の設計者は、絶えず新しい設計コンセプトを取り入れながら、ドライバーに快適さを提供する機能も最大限に高めようとしています。これらの制約条件により、DMSのカメラの位置は頻繁に変更する必要があります。

現実的には、DMSの設計者は以下の点について検討する必要があります。

  • DMSは、夜間、トンネル内、悪天候などの暗い環境であっても、信頼性の高い視覚処理のための画像品質を提供する必要があります。
  • カメラの位置は、車内の構成に応じて、計器部、ステアリング・コラム、ピラー、バックミラーのどの場所にも取り付けられるように柔軟性を持たせる必要があります。
  • DMSソリューションは、スタンドアロンの設計の場合でも、大規模なクラスタやインフォテインメントECUに統合する場合でも機能するようにします。
  • DMSソリューションは安全を重要視したADASと自律運転機能にリンクされているため、追加的なシステムの評価とASIL認証が必要になる場合があります 。

これらのシステム上の課題に対応するため、SoCは以下の機能を提供する必要があります。

  • 複雑なコンピュータ・ビジョンと人工知能のアルゴリズムを処理できる十分な性能
  • 新しいセンサのインターフェイスとなり、スタンドアロン・シングル・ボックス設計から、統合クラスタ/インフォテインメント + DMSソリューションECU(遠距離対応センサー搭載)まで、さまざまなシステム・トポロジをサポートする柔軟性
  • 重要な要件である、車内のどこにでも配置できるような小型設計に対応可能な低電力消費
  • 機能的な安全性と車載対応

図1で示しているように、TDA 3xプロセッサのようなシステム・オン・チップ(SoC)ソリューションは、小型の低電力設計で視覚とセンサによる処理のために最適化されたソリューションを提供することにより、DMSシステムに新たなイノベーションをもたらします。Jacinto™ 6車載向けプロセッサは、TDA 3xファミリと同様に、拡張性の高いSoCのポートフォリオがあり、開発者は、共通のソフトウェア基盤を維持したまま、幅広いパフォーマンスやシステムのニーズに対応できます。

TDA 3x SoCを使用すると、DMSソリューションで以下のことを実現できます。

  • 画像品質の向上:アドバンスト・イメージ・シグナル・プロセッサ(ISP)をTDA 3xプロッサ上で使用することにより、グローバル・シャッタ、RGB-IR、ローリング・シャッタ・センサなどのイメージ・センサのサポートが強化され、高度なセンサ認識が可能になります。この結果、DMSソリューションで露光の変化の調整やシステムのノイズのフィルタリングを効率的に行うことができ、画像品質が向上します。
  • 放熱:『TDA 3』異種アーキテクチャで統合埋め込み視覚エンジン(EVE)とC66x DSPを活用することにより、低電力(2.5W未満)で効率的なソフトウェアの実行が可能になり、放熱も少なくなります。
  • カメラの配置の柔軟性が向上:TDA 3xデバイスは基板面積が小さいため、開発者はイメージャ、IR LED、電源、メモリを統合するPCB設計に対応できます。または、開発者は中央処理PCBをリモートのLVDS接続カメラとともに使用して、自動車のスペースの制約が多い場所に配置するために、小型のカメラのみのモジュールを利用できます。

 図1:DMS向けのTDA 3xとTDA2Pxのシステム・ブロック図

DMSソリューションの開発をすぐに始める場合は、開発キットも役立ちます。図2で示しているように、D3 EngineeringのDMSキットでは、カメラモジュールが付属されたTDA3x車載用プロセッサと視覚アルゴリズムが組み合わされているため、エンジニアは技術の評価とDMSアプリケーションの開発を行うことができます。

DMSキットD3 Engineeringから入手でき、DesignCore® RVP-TDA 3x Rugged Vision Platform ECUが含まれ、TDA 3xシステムオンモジュール(SOM)ボード、関連ファームウェア、カスタマイズ可能な基板が堅牢な筐体に格納されています。2つのD3CMカメラモジュール(D3CM)で、ドライバーのモニタリングと虹彩のトラッキングが可能です。カメラには、2メガピクセルのセンサと、TIが公開した仕様のさまざまな照明条件で動作の信頼性を高めるための赤外線照明、システム開発時のユーザ・フィードバックのためのRGB LEDが組み込まれています。

図2:DMS向けD3 Engineeringキット

FotoNationアルゴリズムはECUでの稼働に合わせて最適化され、FotoNationアプリケーション・ライブラリには、視線の方向のトラッキング、顔検出、頭の位置のトラッキング、3Dによる顔の特徴の検出が含まれています。エンジニアは、自律運転とADASの機能に加えて、顔や虹彩の認識機能を使用して、ドライバーのアイデンティティに基づいて車内セキュリティやカスタマイズ機能を開発できます。

D3 DMSキットは、レベル2およびレベル3の半自律運転自動車をサポートしており、ドライバーは必要に応じて運転を引き継ぐことができます。このキットは、産業用システムと半自律運転自動車用システムの両方で、オペレーターの認証、認知、眠気の検知のような付加的な使用方法もサポートしています。

DMSキットは車載またはフィールド・テストでの使用に適しています。また、D3 Engineeringの製品開発サービスのサポートとともに、エンジニアリング検証テスト(EVT)ユニットや車載向けAサンプルの開発をサポートしています。DMSキットは、統合型ダッシュボードと後付けDMSソリューションの両方を対象にして生産の方法を提供することを目的としています。

眠気やドライバーの注意力低下は、世界中で大きな安全性の問題として表面化しています。DMS技術は、頭や目の位置を正確に測定してドライバーの注意力や疲労を分類することによって、ドライバーの注意力低下や眠気の可能性の検出を支援できます。TDAプロセッサは、人工知能(AI)とコンピュータ・ビジョン処理による最先端のDMSソリューションをエッジで、低電力で展開することを可能にし、これからの自動車の車載システムを向上させることができます。

参考資料

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2018年12月12日)より翻訳転載されました。
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