車載テレマティクス・アプリケーションでの暗電流測定


現在の自動車は、20年前の携帯電話が持っていたよりも多くのインテリジェンスと接続性を備えています。これらの車は、サブスクリプション・ベースの通信サービスや組み込みのセルラー機能を介して、ほぼ常時、世界とつながった状態にあります。さらに将来は、車両間通信の導入も進むでしょう。外の世界との通信を制御する中心的な機器が、テレマティクス制御ユニット(TCU)です(図1)。

図1:車両を世界とつなぐ標準的な接続オプション

車両の走行中に行われる通信に加えて、車両の停止中にも、モジュール・ファームウェアのダウンロード、クラウド・サービスへの診断情報アップロード、ロケーション・サービスの通知など、各種の通信ニーズがあります。

内燃エンジンで走行する車両の場合、車両停止時の通信は常にバッテリを消費します。これは充電式の電気自動車では問題とならないかもしれませんが、非充電式の電気自動車は、内燃エンジン車両と同じ問題に直面します。通信でバッテリから消費される電力はそれほど大きくないとはいえ、車両が長時間停止状態にあるとき(長期の旅行中ずっと空港に駐車する場合など)には、バッテリの消費が問題となる可能性があります。 したがって、戻ってきた所有者が車両を始動させるとき十分なバッテリ電力が残っているように、車両停止時の通信によってどのぐらいの電力が消費されるのかを理解しておくことが重要です。この消費電流は、よく「暗電流」と呼ばれます。

暗電流の消費を監視する方法は、それぞれの車両によって異なります。多くの車両では単純に、発生した通信シーケンスの数をカウントします。この数が一定のレベルに達すると、TCUは通信の頻度を下げ、最終的にはバッテリの充電状態を保持するために全通信を停止します。この方法は、すべての通信の消費電力が等しい場合にはうまく機能します。

一方、通信ごとに消費する電流が異なる場合には、バッテリから消費される電流をより的確に知るために、実際の消費量を測定する方が得策かもしれません。この電流の測定には、主に2つの課題があります。

  • テレマティクス・システムは多くの場合、図2に示すように、12Vバッテリ・レールに直接接続されるため、多くの車両では40Vの過電圧耐性が求められます。
  • 測定が必要な電流レベルは、多くの場合、数十ミリアンペアの単位です。これは特に、数十アンペア単位の通常の消費電流レベルも測定する必要がある場合は、多くの電流測定手法で困難な課題となります。

 

図2:eCall機能を搭載したTCUの標準システム・ブロック図、12Vバッテリ入力ラインの診断電流監視を強調表示

TIの『INA186-Q1』は、この両方の課題に対処します。『INA186-Q1』は同相電圧範囲が最大42Vと広いため、車載12Vバッテリ・レールでも耐えることができます。このトピックの詳細については、「車載モジュールの12Vバッテリ監視」(英語)アプリケーション・ブリーフを参照してください。

ほとんどの電流センス・アンプにとって、4ディケードの電流測定ダイナミック・レンジを確保することが課題の1つとなります。たとえば、仕様が以下のようであるとしましょう。

  • 双方向電流測定:
  • 最大測定電流:±10A
  • 最小測定電流:±10mA
    • 同相電圧:12V(VBATT
    • 電源電圧:5V
    • ゲインが25V/Vの『INA186A1-Q1』

この場合、出力電圧スイングは電源電圧の約半分(2.46V)となります(双方向電流測定の詳細については、INA186-Q1データシートの7.4.3節を参照)。理想的なシャント抵抗値を計算するには、10Aで厳密に2.46Vとする必要があります。ゲインが25のとき、これは入力電圧が98.4mVであることを意味します。したがって、理想のシャント値は9.84mΩです。実際には、各種の動作条件およびシャント変動によって出力が飽和しないように、わずかに低い値のシャント抵抗を使用します。

誤差の計算のために、二乗和平方根を取ります。TIでは「TIプレシジョン・ラボ - 電流センス・アンプ」トレー二ング・シリーズの「TIプレシジョン・ラボ - 電流センス・アンプ:各種誤差源の概要」で、電流測定の誤差計算について詳しく説明しています。これら4つの誤差源(オフセット、ゲイン誤差、同相除去、電源除去)を使用した1次計算により、最小電流と最大電流での誤差レベルは表1のようになります。

デバイス

最大
VOUT
(V)

ゲイン
(V/V)

最大
VIN
(V)

理想
RSHUNT
(mΩ)

0.01Aでの
誤差
(%)

10Aでの
誤差
(%)

『INA186A1-Q1』

2.46

25

0.10

9.840

65.1%

0.9%

『INA190A1-Q1』

2.46

25

0.10

9.840

21.9%

0.2%

表1:標準的なテレマティクス暗電流測定アプリケーションでの1次理想シャント抵抗および誤差の計算

表からわかるとおり、10mAでの誤差は50%を超え、このアプリケーションには大きすぎるかもしれません。低い電流での誤差を改善するには、よりオフセットの小さいアンプが必要です。表1に示した『INA190-Q1』は、『INA186-Q1』の精度を向上したピン互換のアップグレード製品です。

さらに、システムの消費電力とシャント抵抗のコストについて理解する必要があります。9.84mΩのシャント抵抗で最大電流が10Aの場合、最大消費電力は1W弱です。より大きな低電流誤差を許容できる場合は、元の9.84mΩシャントよりもコスト効果の高い4.92mΩのシャント抵抗を0.5Wの消費電力で使用できます。ただし、最小電流での電圧降下の1/2の値で低電流誤差が増加します。

車両停止時の通信が増え続ける中で、車両を始動する機能を処理するのに十分な電荷をバッテリが保持できるようにすることが重要です。消費電流を正確に測定することは、車両がこの機能を管理するのに役立つ1つの方法です。TIの電流センス・アンプは、高精度の暗電流監視に関連した課題の解決を支援します。

参考情報

 

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年3月4日)より翻訳転載されました。
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