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電気自動車およびハイブリッド電気自動車(EV/HEV)が主流として受け入れられるには信頼性が不可欠ですが、信頼性を高めるには、車内のバッテリ・セルの測定精度が向上しなければなりません。測定精度のレベルを上げるには、データを取得する際や取得したデータをメイン・プロセッサに伝送する際の妨げとなる、高レベルのノイズへの対策が必要です。バッテリ・セルの電圧、温度、電流を高い精度で測定するだけでは不十分であり、これらを同期させることが要求されます。

 

1:バッテリ・セルのモニタリングを要する電気自動車内の電源の例

EV/HEVのノイズ源は異なる周波数で発生し、振幅もさまざまなので、セルの電圧、温度、バッテリ・パックの電流の測定に影響しないようにノイズをフィルタリングする最適な方法を判断するのは、非常に困難です。測定に誤差があると、バッテリ充電状態の誤通知、過充電のおそれ、バッテリ・セルの過度の放電といった、さまざま結果につながりかねず、ドライバーや同乗者、車体の安全にも影響する可能性があります。これらの課題に対処できるように、TIのバッテリ・モニタとバランサのポートフォリオは、��イズ・フィルタリングを内蔵することで高電圧測定精度を実現しつつ、余分に必要になる外付け部品も最小限になるように考えられています。

 

現在の信号ノイズ・フィルタリング・ソリューションの難点

ドライバーや同乗者にとって、以前に比べて今の自動車は、EV/HEVでなくてもずっと静かです。しかし、人間には聞こえない多量の信号ノイズが存在し、バッテリの電圧、温度、電流の測定に加え、このデータをメインの電子制御ユニット(ECU)に伝える伝送路などの内部システムに影響を与えます。

この信号ノイズは、ヒーター、インバータ・モーター、チャージャなど、車体のさまざまな場所で発生します。このようなさまざまなノイズはすべて異なる周波数で発振し、その範囲は数十ヘルツから数百メガヘルツにわたり、モニタリングが必要な信号の品質に影響します。結果として、可能な限り性能を高めるには、ノイズを除去するか少なくともその大半を抑制することが、その発生元に関わりなく「必ずすべきこと」になっています。ノイズの低減が不適切か不十分だと、測定パスに高調波成分が侵入して、システムで対処できないほどの誤差が加わる可能性があります。

 相手先ブランド製造業者(OEM)は、ノイズ源の特性を明らかにして明快な部品選択で完全にフィルタリングができるようにすることが困難だという、大きな課題を抱えています。このような不明点は、フィルタリングの実行方法にも悪影響を及ぼします。往々にして設計エンジニアは、控えめにみても過剰設計になるディスクリートのRCフィルタやICを選択して安全な側に立とうとしますが、これが結果としてソリューション全体のコストや効率に影響します。

バッテリ管理システム(BMS)のシステム・インテグレータや設計者は、バッテリ・モニタに内蔵されるデータ・コンバータの種類にも注意する必要があります。例えば、チャネルごとにデシメーション・フィルタが付いた並列のシグマ・デルタADCを使用するBMSモニタは、ノイズの抑制には有効ですが、測定ごとの変換時間が長くなります。これが結果として、全体的な電圧測定速度に影響します。一方で、多重化SAR ADCコンバータはそれよりもかなり高速ですが、すべてのチャネルにわたりサンプリングされるセル電圧に時間差があり、同期の面で問題があります。

 

セル測定の同期に関する課題への対処

セル電圧測定の同期は、充電状態(SOC)アルゴリズムが最小限の誤差でどれくらい正確にバッテリ充電状態を判断できるかに大きな役割を果すのは間違いないでしょう。このアルゴリズムはOEMごとに異なり、そのためセル電圧測定に必要とされる最低限の同期化には、はっきりと決まった仕様がないのが実情です。しかし、OEM間の共通の認識として、この数値は1msを優に下回り、なるべく0に近くなければならないとされています。

各BMSモニタが同時に測定可能なセルの数も関係します。上記のように、BMSモニタ・アーキテクチャとチャネル数によっては、各チャネルにシグマ・デルタなどのADCを備えてすべて一斉に測定を開始できるようにすることで、完全に同期化することが可能です。

しかし、各BMSモニタからメインECUにデータを伝送するときの、デイジーチェーン通信ラインで発生する遅延に留意することも重要です。ここでは、通信速度とフレーム・プロトコルについて考慮する必要があります。この場合も同様に、この要件に関しては、OEMの間でまだ十分に一本化されていません。市場で評価される数値は、10ms、20ms、場合により100msといったものまであります。これはつまり、400Vシステムのセル電圧に関するデータを10msごとにECUが受け取る必要があるとすると、その時間内でバッテリの96個のセルすべてでサンプリングされるセル電圧が、1ms未満の差で揃っていなければならないということです。

 

ノイズのフィルタリングに外付け部品を使用しても計算通りにならない

効率的でコスト最適化されたソリューションのために、必要な外付け部品を最小限に抑えて究極的には不要にすることで、バッテリ管理システムのノイズをフィルタリングするというのが、TIの車載バッテリ・モニタおよびバランサ製品ファミリで採用されてきたやり方です。

 『BQ79616-Q1』では、ADC測定の前にフロントエンド・フィルタを組み込んで、サンプリングを行う前に高周波数ノイズを抑制するという方法でノイズ問題を解決します。内蔵フロントエンド・フィルタにより、セル入力チャネルにシンプルで低電圧定格の差動RCフィルタを実装したシステムが可能になります。

 さらに、ADC変換後に測定精度を向上させるために測定後のフィルタが内蔵されますが、さまざまな周波数フィルタリングのオプションから選択できます。ADC後の内蔵デジタル・ローパス・フィルタにより、DCと同様の電圧を測定できるため、充電状態(SOC)をより的確に計算できます。TIのモニタは、過熱状態を防ぐための温度監視、自動一時停止および再起動バランシングにより、Ta=80℃時に最大240mAの自律的内部セル・バランシングをサポートします。これにより、ECUのオーバーヘッドが削減され、より多くの処理を高速で実行できるようになります。

 すべてのセルの測定結果の伝送を高速化するために、『BQ79616-Q1』は、デイジーチェーン構成での高速データ返送向けに通信プロトコルを最適化して、デバイス間の遅延をさらに削減できるようにしました。例えば、6個の『BQ79616』がデイジーチェーン方式で接続された96セル400Vシステムでは、1Mbpsのボー・レートにより2.5msでシステムに電圧測定値を返すことができ、この場合、チャネル間のセル電圧測定の時間差はわずか120マイクロ秒です。このように通信時間が短縮されることでECUに他の作業をする余裕ができ、障害検知時間全体の許容差が改善されます。

 

2TIの『BQ796XX』バッテリ・モニタ・ファミリを用いたデイジーチェーン構成の例

双方向��絶縁型デイジーチェーン・ポートを内蔵することで、コンデンサ絶縁とトランス絶縁の両方に対応し、EVパワートレイン・システムで一般的な集中または分散アーキテクチャ用に、効率が最も高い部品を使用できるようになります。さらに、絶縁型の差動デイジーチェーン通信インターフェイスにより、ホストは1つのインターフェイスでバッテリ・スタック全体と通信できます。デイジーチェーン通信インターフェイスは、通信ラインが破損した場合のために、スタックのどちらのエンドからでもデバイスと通信できるリング型アーキテクチャに構成することが可能です。

 

長期的な費用対効果の高いノイズ・フィルタリング・ソリューション

外付けのノイズ・フィルタリング部品の必要性がなくなることで、測定の整合性と精度が向上し、チャネル間の測定が同期化され、すべての測定値がホストに返されるまでの時間が短縮されます。このプロセスからは、費用対効果の高い最適化されたソリューションも生まれ、OEMではSOCとSOH(健全性状態)の目標値に対して1%誤差を達成できるに違いありません。このような技術の進歩がEV/HEV市場に浸透するにつれ、費用対効果と信頼性がさらに高くなった製品を利用できるようになることで信頼性の向上が実現するでしょう。

著者紹介
Ivo Marocco(Texas Instruments)

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