クルマの電動化が進むにつれて、高精度のバッテリ監視機能を使用し、最高レベルの機能安全を実現することが重要になります。そこで、バッテリ監視機能の精度を向上させるために、自動車のバッテリ管理システム (BMS) は効率的に動作し、EV に搭載している個別のバッテリ・セルの性能をリアルタイムで監視する必要があります。

電気自動車 (EV) やハイブリッド車 (HV) の一般的な構成で、バッテリ管理ユニット (BMU) は 12V バッテリから電力を受け取ります。自動車が駐車している状態や電源がオフになっているときでも、リモート・キー・エントリー (ワイヤレス・ドアロック)、セキュリティ (盗難防止)、バッテリ監視などの各種機能をサポートするために、このバッテリは継続的にオンになっています。

自動車を駐車しているときも、このバッテリが適切な状態であることを確認するために、マイコン (MCU) は定期的にウェークアップし、高電圧バッテリ・パックで障害の有無を確認します。この定期的なウェークアップでは電流が流れ、12V バッテリの放電が早まる可能性があります。

この状況に対処するために、設計技術者と自動車メーカーは、ホストの自動的な逆ウェークアップ機能を考慮の一つに入れることができます。この機能を実装することで、ホスト・マイコン (MCU) をオフにしたまま、電源 IC (PMIC) にバッテリ監視機能を任せることができます。その結果、マイコンは低消費電力モードに入り、12V バッテリの電力を温存することができます。

 

障害発生時にウェークアップするバッテリ設計の検討

図 1に示しているように、要求の厳しい負荷である AC モーターをサポートするために、複数の EV バッテリ・パックをスタックして 800V またはそれ以上の電圧まで高めることができます。これらのバッテリ・パックは、合計数百個のセルを直接接続することになります。分散型バッテリ・パック・システムは、セル数の多いパックをサポートするために、個別のプリント基板 (PCB) に搭載した高精度バッテリ・モニタを多数相互接続します。この組み合わせをセル・センシング・ユニットと呼びます。

BMU ボードは、ホスト・マイコン (MCU)、その電源 (PMIC またはシステム・ベース・チップ [SBC])、通信インターフェイスを搭載しています。通信インターフェイスは、マイコン (MCU) とセル・マウント・ユニット上のバッテリ監視デバイスをリンクさせ、実際のバッテリ・セルに接続する機能を果たします。ケーブル障害が発生した場合に対処できるように、リング接続は逆方向のデイジー・チェーン通信をサポートしています。ホスト・マイコン (MCU) は、CAN (Controller Area Network) バス経由で自動車の制御ユニットとのインターフェイスを確立します。各バッテリ・セルを効果的に監視することで、EV のマイコン (MCU) はすべてのバッテリ・セルの適切に動作できます。

 

 バッテリ管理システム (BMS) を簡素化した図

 

TI のバッテリ・モニタとバランサを使用して精度を向上

TI の 『BQ79616-Q1』 バッテリ・モニタとバランサは、スリープ・モードであっても、��電圧バッテリを継続的に監視することができます。バッテリで障害が発生した場合、『BQ79616-Q1』 はデイジー・チェーン構成を経由して障害情報を 『BQ79600-Q1』 の通信インターフェイス宛に転送します。続いて、 『BQ79600-Q1』 はウェークアップし、PMIC とマイコン (MCU) 宛にコマンドを送信して、これらもウェークアップさせます。

このマイコン (MCU) は自ら定期的にウェークアップする必要がなく、ウェークアップするかどうかの判断を 『BQ79616-Q1』 のモニタに任せることができます。したがって、『BQ79600-Q1』 と、『BQ79616-Q1』 によるホストの自動的な逆ウェークアップ機能を組み合わせると、マイコン (MCU) とその PMIC をオフにして低消費電力モードに維持することができます。この場合、12V バッテリからの電流引き込みを最小化し、バッテリの電力を温存することが可能になります。

図 2 に示すように、『BQ79616-Q1』 がスリープ・モードや低消費電力動作モードである場合も、セルの過熱と低温、セルの過電圧と低電圧、サーミスタの過熱と低温に関する障害検出機能は引き続きアクティブ状態にとどまります。スリープ・モードでは通信は使用できないので、このデバイスはハートビート・トーン (デバイスは障害状態ではない) と障害トーン (デバイスは障害状態) を使用して、障害ステータスを送信するオプションを実装しています。

これらのトーンは、通信コマンド・フレームと同じ方向で送信されます。これらの通信トーンとは異なり、ハートビート・トーンと障害トーンは定期的に送信されます。ハートビート・トーンと障害トーンのレシーバは、常にスリープ・モードになっています。(NFAULT をトリガするために) トーン信号をベース・デバイスに送り返せるように、スリープ・モードで障害ステータスをサポートするにはリング・アーキテクチャが必要です。『BQ79600-Q1』 のスニッファは障害トーンを検出した後、自らを検証モードに移行し、本当に障害が発生しているかどうかを確認します。実際に障害が発生している場合、『BQ79600-Q1』 は INH ピンと高電圧出力ピンをトリガします。後者のピンは、PMIC をイネーブルにするための電圧を供給します。

 

TI のバッテリ・モニタとバッテリ・バランサを使用する、ホストの自動的な逆ウェークアップ機能

 

まとめ

BQ79616-Q1』 バッテリ・モニタ・ファミリは、ホストの自動的な逆ウェークアップ機能をサポートします。この結果、ホスト・マイコン (MCU) をオフの状態にし、その電源を最小消費電力モードにしたまま、スタックした複数のバッテリ管理デバイスから到着する障害を、『BQ79600-Q1』 が監視することができます。『BQ79600-Q1』 は、INH ピン経由で SBC をウェークアップさせます。『BQ79600-Q1』、またはスタックした一連の 『BQ79616-Q1』 が、マスクされていない障害を検出した場合、SBC はさらにマイコン (MCU) をウェークアップさせます。この方法で 12V バッテリの電力を温存し、EV が駐車状態または電源がオフになっている状態であっても、過電圧、定電圧、過熱、低温に関するセル監視機能、およびサーミスタの過熱と低温などの機能安全要件をサポートすることができます。

参考情報:
+”BQ79616-Q1, BQ75614-Q1 and BQ79656-Q1 Evaluation Modules User’s Guide” (英語)
+ホワイト・ペーパー(英語):
EV (電気自動車) バッテリ管理向け通信での有線とワイヤレスの比較
自動車電動化に関連するバッテリ管理分野での機能安全に関する検討事項

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