産業用スタック・ライトや競技場にある大型LEDディスプレイなどのライティング・アプリケーションやLEDサイネージには、電力消費が制限されているという共通の問題があります。産業用途において、これらのライトやサイネージが発する熱を放散し、LEDの寿命を最大限まで延ばすことが重要です。アプリケーションがリニアLEDドライバを使用する時には、リニアLEDドライバでの電圧降下を最小限に留めることが必要です。このためには、LEDの順電圧に基づいて供給するレギュレータの電圧を調整する必要があります。この技術は「ダイナミック・ヘッドルーム制御」と呼ばれます。

図1:RGB LEDドライバ

同一の電流であれば、LEDの電圧降下は温度やプロセスの変動に対して一定のままです。例えば、調整可能なレギュレータの帰還ネットワークを計算して、最小値を少しだけ上回る、0.5Vの残留電圧にできます。リニア・レギュレータが温度の変動やコンポートネントの許容範囲に対しても機能するように十分な電圧降下が必要です。ただし、電力消費を最小化するために低い電圧である必要もあります。

どのような場合でも、データシートで述べられている順電圧の変動を考慮する必要があります。緑色LEDの場合は、10mAで2.7Vから3.4Vの間になる可能性があります。したがって、電圧レギュレータを最低でも3.4V + 0.5V = 3.9Vに設定する必要があります。電圧レギュレータや抵抗のリファレンスには必ず許容範囲があるので、最小値に近づけすぎないようにした方が良いでしょう。

LEDが1つの場合は、電力消費は約12mWであり、ほとんどの場合、問題はありません。ただし、多くのアプリケーションではLEDは1つだけではなく、電流も増加させた方がよいでしょう。

電圧レギュレータを1つ備えた赤-緑-青(RGB)LEDドライバである、『TLC 5971』を見てみましょう。青色LEDは、最大順電圧が3.8Vです。このため、より大きな電流のためにさらにヘッドルームが高い、4.3Vに対応する電圧レギュレータを設計する必要があります。デバイスには4つのRGBチャネルがあるので、電力消費は最大で4 × ((4.2 – 3) + (4.2 – 2.7) + (4.2 – 2.1)) × 0.01 = 192mWになります。20mAで、すべての色に対して5V(固定出力電圧として利用可能)のレギュレータを1つだけ使用すると、電力消費はさらに大きくなります。

電力消費を低減させる方法
電力消費を低減させる1つの方法は、色ごとに1つのレギュレータを使用することです。または、少なくとも赤色の列のために1つの電圧、緑色の列と青色の列に別の電圧を使用します。図2で示しているように、緑色と青色の電圧は近い値ですが、赤色のLEDの列の電圧は緑色と青色よりも低くなっています。

図2:各色のLEDのLED順電圧

また、各レギュレータの電圧を調整することによってさらに削減させることもできます。1つの簡単な方法は、レギュレータの帰還ネットワークに電圧を注入することです。デジタル-アナログ変換器(DAC)を使用できます。または、パルス幅変調(PWM)とローパス・フィルタを使用することによって独自のDACを構築できます。図3は、制御さ���てい���電圧レギュレータのシミュレーションを示しています。右側は、マイコンからのPWMの信号です。ローパス・フィルタが用いられ、帰還ネットワークに注入されています。

図3:電圧レギュレータを制御するためのPWMのシミュレーション

マイコンがあるほとんどのシステムと同様に、マイコンでLEDドライバの電圧降下を測定して、電圧レギュレータを制御するためのPWMを設定できます。この制御ループは、大きな電力消費以外には目に見える効果はないので、高速であったり、非常に正確であったりする必要はありません。マイコンからのPWMなど、電源全体のシミュレーションができます。図3に示されているシミュレーションでは、1秒以内に0から100%へデューティ・サイクルを増加させる、20kHzのPWMを生成するように構成された電圧ジェネレーターによってPWMが生成されます。

シミュレーションには時間がかかるため、動作することを確認してから、パラメーターを変更した後、DACのシミュレーションを行うと良いでしょう。2つのメイン・パートで個別にシミュレーションを行うことによって、シミュレーション全体の速度が上がります。PWMのデューティ・サイクルの動きは、図4のようになります。

図4:PWMのデューティ・サイクルの変化に対するDACの電圧の結果

正電圧を帰還ネットワークに注入すると、電圧と抵抗に応じて出力電圧が下がります。注入する電圧が0Vのときに出力電圧は最大になります。図5は、出力電圧への電圧注入の影響を示しています。

図5:シミュレーションの結果

総消費電力へのDHC(ダイナミック・ヘッドルーム制御)の影響
TIでは、20個のRGB LEDと5つの『TLC 5971』LEDドライバを使用したスタック・ライトに対して、IO-Linkインターフェイス搭載RGB信号灯のリファレンス・デザインで帰還ネットワークに電圧を注入することによってダイナミック・ヘッドルーム制御を実装しました。図6で示しているように、LEDごとに20mAの電流、LEDドライバは4.5Vの固定電圧とすると、20mAの電流、6.5Wの総消費電力になります。LEDドライバに対して0.5Vの電圧降下まで電圧の調整を可能にすることにより、総消費電力を4.5Wまで下げることができます。

図6:ダイナミック・ヘッドルーム制御の有無による電力消費の比較

ダイナミック・ヘッドルーム制御技術は、LEDドライバを使用したLEDサイネージや照明アプリケーションにおいて、高い電力消費の低減に役立ちます。この技術によって電圧レギュレータを調整できるため、大幅な電力の削減が可能になります。

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2018年6月28日)より翻訳転載されました。
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