それほど遠くない職場へ車で通勤中、信号が青になるまで無駄に時間を取られるということはよくあります。

「自分の進行方向は赤信号なのに、どの方向からも誰も来ない。よく起こることなので、車に乗る前に気分を鎮めることにしています。」

そう語るのはTI産業用レーダ・グループのリーダーであるロバート・ファーガソン(Robert Ferguson)です。彼は、シンプルなレーダ・チップを使えば、信号機が状況を理解し、青に変えることが可能だと知っているため、すべての信号が、TIのミリ波センサを使い、情報に基づいて自ら判断をするようになる日が待ちきれません。

それは遠い未来ではないでしょう。ミリ波テクノロジは、すでに量産されており、高度なレーダ・センサとして産業界や自動車業界のお客様に採用されています。TIは、世界で最も正確なシングルチップのCMOSレーダ・センサを初めて提供しました。マイコン、RFフロント・エンド、ハードウェア・アクセラレータ、プログラマブル・デジタル信号プロセッサ(DSP)を備えたTIのミリ波センサは、物体までの距離、速度、角度を市販されている他のレーダ・センサの最大3倍の分解能で計算します。そして、実行すべき動作を判断します。

シンプルなシングルチップ設計

これまでの世代のレーダ・センサは、大型で、はるかに複雑な設計でした。1枚のプリント回路基板に複数のディスクリート部品があり、高速インターフェースで2枚目のボードのプロセッサに接続していました。しかしTIのミリ波センサは、アナログ回路とデジタル回路を1個のチップに統合しています。

アナログ回路のみのレーダ・センサと異なり、ミリ波センサはデータをプロセッサ、サーバー、クラウドに送って指示を待つことはありません。

「“すべてのインテリジェンスがセンサの中にある”。これがエッジ(ネットワーク端部)のインテリジェント自律機能です」と、ロバートは述べています。

精密で高度にプログラマブルなTIのミリ波センサは、ロバートの通勤時間を短縮するよりもはるかに多くの可能性を秘めています。自宅を快適にし、職場の効率を高め、スマートシティを作ることまで、広範な意味があります。

自動車業界や産業界は、すでにミリ波センサを組み込んだ製品を設計しています。農業、ドローン開発、医療、人間とロボットの協働、セキュリティに携わるエンジニアも同様です。

TI車載レーダ・グループのリーダーであるキショア・ラマイア(Kishore Ramaiah)は、次のように述べています。「精密で高度にプログラマブルなTIのセンサは、アナログ機能やデジタル機能に統合されているため、お客様に簡単にご利用いただけます。」

シンギュラリティではなくユビキティ

明確にお伝えすると、「エッジのインテリジェント自律機能」は人工超知能ではありません。意思決定がその場で行われようとネットワーク内で行われようと、「ハードウェア、ソフトウェア、ロジックを使って判定結果を大きなネットワークに伝える処理エンジンであることには変わりない」と、ロバートは考えます。「産業分野におけるTIの目標は、センサを追加することでいくつかのアプリケーションを改善することです。何かを改善するという価値を提案できる場合には、光学ソリューションやLIDARなど、他のセンシング・テクノロジも加えたいと思います。」

キショアいわく、自動運転車を実現するには、TIのミリ波センサと複数のセンシング・テクノロジ(カメラ、LIDAR、超音波センサなど)を連動させる必要があります。「あるセンシング・テクノロジに弱点があっても、別のセンシング・テクノロジでカバーできる場合があります。」

単体であれ、他のセンサとの組み合わせであれ、リアルタイムの意思決定、低消費電力、小さなフットプリントを誇るTI ミリ波センサは、ユビキタスとまで行かなくても、おそらく広く利用されるようになるでしょう。

TIは、5月に車載および産業用の超広帯域ミリ波センサの量産を発表し、今後も製品群を強化してく予定です。

どのようにミリ波センサがすべてを変えるのか

なぜ、TIのミリ波センサは、カメラや簡単なモーションセンサよりもロバートの通勤時間を改善するのでしょうか? まず、レーダはより堅牢だという点です。カメラや他のテクノロジは環境条件に妨げられる可能性があります。しかしレーダなら、まったくの暗闇、雨天、極端な高温や低温の日でも、車との距離を感知します。そして、デジタル処理機能を統合したミリ波センサが決定を下します。

ロバートは、次のように述べています。「レーダなら『この方向には50m先に車を検出した。あちらの方向には75m先に車を検出した。だからあの信号を青にして他の方向は全部止めなければならない』と判断するでしょう。」「この処理機能がなければ、データをコントロール・センターに送り、信号を変える指示が戻ってくるのを待たなければなりません。」

この意思決定機能により、TIのミリ波センサは、ローカルで決定を下し、その選択をネットワークに伝えて追跡を可能にします。

ミリ波センサを使用した他の画期的な動作検出アプリケーションをいくつか考えてみましょう。

  • 玄関チャイムのビデオの誤報を防止:「この機能により、カメラが木の枝の揺れや日光の動きを検出してスマホに無駄な動画を送ってきたという経験がある人はいるでしょう」と、ロバートは語ります。しかし、TIのミリ波センサを使えば、人、動物、他の動く物体を見分けてから、玄関チャイムのビデオに録画するかどうかを判断します。
  • 緊急対応者をサポート:オフィスやアパートで事件が発生した場合、TIのミリ波センサが壁の向こうの小さな動きを検出するため、救急隊員が人を迅速に救出することができます。人が意識を失っていても、呼吸するときの胸の動きなどの小さな動きをレーダが感知します。
  • 屋内環境の最適化:ミリ波センサは、部屋にいる人の数と動きに合わせて冷房、暖房、照明を自動的に調節するスマート・ビル・システムを実現します。確かにカメラでも部屋にいる人数はわかりますが、TIのミリ波センサは、プライバシーを侵害せず、暗さやドアや壁にも関係なく、人の数と動きを判断できます。
  • 患者と新生児を接触なしにモニタリング:天井、マットレスの下、壁の向こうにTIのミリ波センサを設置すれば、患者に触れることなく、心拍数、呼吸、その他のバイタル・サインを監視できます。医療システムに統合すれば、新生児や火傷の患者など、非常に繊細な患者に物理的な接触による苦痛を与えたり、プローブや電極を無理に装着したりすることなく、監視が可能となります。

 さまざまな形で自動運転車をサポート

TIのミリ波センサは、車の内にも外にもさまざまな形で使用されています。車載レーダは以前からありますが、TIのミリ波センサの特徴は、カスケード型レーダを可能にする点にあるとキショアは語ります。

「複数のレーダ・トランシーバをカスケード接続すれば、最大350m以上離れた物体を検出可能です。1度未満の精度を得ることも可能となります。この性能はLIDAR並みです。」

2025年には、自動運転車のレーダ・システムにおいてミリ波テクノロジが主流になるだろうとキショアは予想しています。車内または車外の複数の位置に配置することも可能です。主なメリットは以下のとおりです。

  • 後部座席の子供やペットを検出し、運転者に同乗者への注意を促します。
  • 運転者が居眠りをすると座席やハンドルが振動して起こします。ミリ波センサは、運転者がサングラスをしていても、日差しが明るすぎてカメラが機能しなくても、居眠りの兆候を検出します。
  • 運転者が急病になればセンサが呼吸や心拍数に反応し、車の操縦を助けたり、緊急サービスに通報したりします。
  • ドアの操作システムは、指挟み、横を通り過ぎる自転車との衝突、横に駐車した車の損傷を防ぎます。
  • 超音波の駐車支援センサは、気温や圧力の変化、同周波数のノイズによって障害を起こす可能性がありますが、TIのミリ波センサは、そんなときも自動駐車をサポートします。キショアは次のように語ります。「レーダ・センサの追加は、駐車アプリケーションを実装する方法を変えます。厳しい環境条件に対する安定性こそ、レーダがADASアプリケーションに必要とされる理由です。」

レーダ支援の未来

TIのミリ波センサがあれば、段差、コード、その他の障害を検出できるため、ドローン、フォークリフト、ロボット掃除機は、エッジのインテリジェンスを即座に活用できる何百もの機器の例です。ミリ波センサの統合を検討可能なアプリケーションは、まだ数多くあるとキショアは語っています。自動車に関しては、ミリ波センサを使用した車同士の通信や道路障害物を知らせる警告が考えられます。

ロバートは、将来の産業用途として、より自動化された倉庫や、レーダ・センサ駆動型の商品配送などを思い描いています。特に期待しているのは、ミリ波センサの独自の機能を組み合わせて人間とロボットの協働を実現する可能性です。

「重要なのは、レーダが、物体に関して他の技術が提供できない3種類のデータ、つまり距離、速度、角度を提供することです。これによって動きを検出すると同時にジェスチャーを認識できます。」

自動化された工場では、危険な機械の数メートル以内に人間が入ると警報がなります。しかし、ミリ波センサなら、高速で近づいている場合には早く警報を鳴らすことができます。ロバートは語ります。「このセーフティ・ガードによって事故を削減することができます。自動ドアでさえスマートになり、人の体の角度によって、出たいと判断すれば開き、通り過ぎるだけなら開きません。

結局、TIのミリ波センサが世界をスマートにできるかどうかは、開発者の想像力にかかっています。ロバートは語ります。「TIは、お客様が使用する部品を作り、お客様は当社が実世界に見出すよりはるかに壮大なアイデアを思いつきます。当社は氷山の一角だけを見てこのタイプのテクノロジの普及を予想し、お客様がその次のステップを考えてくださることを期待しています。」

参考情報
ホワイトペーパー(英語)「 mmWave Rader: Enabling greater intelligent autonomy at the edge.

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※上記の記事はこちらのBlog記事(2018年9月18日)より翻訳転載されました
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