半導体業界のイノベーションは、多くの場合、既存製品に「足していく」ことですが、設計においては「引いていく」ことが重要視されます。TIでは、SimpleLinkTMワイヤレス・マイコン周辺の電子部品表(BOM)を詳しく調べて、機能を犠牲にせずに外付けの高周波水晶振動子を取り除けないかと考えました。こうして、革新的なBAW(バルク弾性波)共振器テクノロジが登場しました。

設計スペースに限りのあるビル・セキュリティ・システムであれ、過酷な実環境で使われる電動工具であれ、BAW共振器テクノロジを活用することができます。

TIは、BAW共振器をマルチプロトコル2.4GHzマイコンに統合することで、水晶を使わない世界初のワイヤレス・マイコン・デバイス、『CC2652RB』を生み出しました。このデバイスは、BLE(Bluetooth® Low Energy)、ZigBee、Threadなどのプロトコルによる通信をサポートし、7mm×7mmのQFNパッケージで供給されています。

デバイスの仕組み

CC2652デバイス・ファミリの1つである『CC2652RB』は、図1のように、パッケージ内部にBAW共振器ダイを組み込んでいます。通常は外付け水晶振動子が生成する48MHzの高速クロック信号を、このBAWダイが生成するので、基板から水晶振動子を取り除くことができます。


1:シリコン・ダイに組み込まれたBAWテクノロジ

 

BAWを使用するメリット

 

PCB面積の削減 

ウェアラブル医療機器といったアプリケーションでは、どうしてもスペースの削減が必要になることがあります。『CC2652RB』は、スペースに限りのあるワイヤレス・アプリケーション向けに設計されています。外付けの48MHz水晶振動子が不要になることで、従来の7mm×7mm QFNワイヤレス・マイコンのフットプリントが12%減少しました。また、GPIOピンにセンサや周辺機器を配線するうえでも、自由度が高くなっています。

 

開発の簡素化 

水晶振動子は、ワイヤレスのRFレイアウトを行う際の、最もよくある難所の1つです。水晶はしばしば、ノイズや、クロストーク、水晶周波数調整などの問題の元になります。これらの問題を解決するために、開発途中で新しいPCBスピンが必要になることが多く、開発コストの上昇を招きます。これらのリスクすべてが、『CC2652RB』の利用によって回避できるのです。

 

堅牢性と耐久性 

今日の革新的な製品の多くは、過酷な環境で使用されています。工業用ロボットの絶え間ない振動から、機器を落としたときの機械的な衝撃まで、どのような状況でもワイヤレス・デバイスは確実に動作することが求められます。

 

BAW共振器テクノロジは、厳しい環境向けの実用可能な長期的設計オプションです。機械的な衝撃や振動の多い環境に対する耐性が増しており、業界標準規格MIL-SD-883Hについて試験を行ったときの変動(ppm)が、外付け水晶振動子に比べて3分の1の低さです。水晶振動子の耐用年数が一般に5年から6年なのに対して、このデバイスは、最長で10年に定められています。これは、ほぼ2倍になった耐用年数の間、水晶よりも高い高周波精度が得られ、タイミング・エラーや伝送エラーが減少することを意味します。

 

また、水晶振動子の方が、機械的な衝撃を受けて壊れやすく、そのためにデバイスのワイヤレス機能が使えなくなります。外付けの水晶が損傷した場合、ワイヤレス機能を復元するには水晶を丸ごと交換する必要があります。BAW共振器があれば、この壊れやすい部品をアプリケーションから取り除くことができるのです。

 

物理的な安全性 

BAW共振器テクノロジを使用すると、マイコンのセキュリティの潜在的に脆弱な部分が減少します。外付けの水晶を除外することで、システムに対するタイミング関連のサイド・チャネル攻撃の可能性を減らせます。

 

現在使用している『CC2652R』からCC2652RBに移行する方法 

『CC2652R』から『CC2652RB』に移行するのは非常に簡単です。この2つのデバイスは7mm×7mmのQFNパッケージで、ピン互換性があります。これらのデバイスのパッケージ内部のシリコンは同じなので、単に元々接続していた48MHz外付け水晶振動子のピン接続を外すだけです。

 

ソフトウェアの観点からも、クロック・ソース・レジスタを変更するだけと、実に単純です。すべてのSimpleLinkデバイスに共通して使われるSimpleLinkプラットフォーム・ソフトウェア開発キット(SDK)のおかげで、ソフトウェアの他の部分はシームレスに『CC2652RB』に移行します。

 

『CC2652RB』を用いた設計は簡単です。『CC2652R』から『CC2652RB』に移行すれば、フットプリント全体の削減になり、設計過程が簡素化されることがおわかりになるでしょう。

 

 BAWを使ってみましょう

Step 1:  SimpleLink™ 水晶発振子不使用 BAW CC2652RB マルチプロトコル 2.4GHz ワイヤレス・マイコン LaunchPad™ 開発キットを入手
Step 2:  SimpleLink™ CC13x2 / CC26x2 ソフトウェア開発キットをダウンロード
Step 3:  SimpleLink Academyのトレーニング動画を参照

参考情報

  • TI共振テクノロジの詳細: www.ti.com/baw.
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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年1月2日)より翻訳転載されました。
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