先進国のみならず開発途上国でも、快適な居住環境を維持するために人々はこれまで以上にエアコンに頼るようになっており、エネルギー消費量が急速に増加しています。

国際エネルギー機関が発行した「The Future of Cooling」というレポートによると、現在の総エネルギー消費量のうちの10%をエアコンが占めています。エアコンの電気使用量は2050年までに3倍になると予測され、これは米国、EU、日本の現在の電力供給容量を合わせたものに匹敵します。住宅や商業ビルに設置されるエアコンの数は、現在の16億台から、2050年までに56億台に増加すると考えられており、今後30年間で、エアコンが1秒ごとに10台販売される計算になります。

エアコンの占有センシングの役割

人の存在を検知する占有センシングを利用して、室内の活動レベルに合わせて最も必要とされる場所に風を向けることで、エアコンはもっと賢くなり、エネルギー効率が向上します。図1に示すいくつかのシナリオでは、人の存在/不在、活動状況、位置検出といった占有センシングからのフィードバックが省電力化にどう有効に働くかと、室温を調整し室内の人がいる場所に風を向けることで、室内環境がより快適になる様子を表しています。

図1:占有センシングから得られるフィードバックによりエアコンの利用状況を決定する様子を示すシナリオ

エアコンの占有センシングには、パッシブ赤外線センサとカメラの、2つの技術が使われています。パッシブ赤外線センサは、低消費電力かつ低コストですが、明るい太陽光のもとでは誤検知が多い問題があることと、かすかな動きに対する感度が不足しています。それとは逆に、カメラは最も高い解像度を利用できますが、特に人間の影や映像による誤検知の事例が増える可能性があります。

省電力化のために占有センシングの採用が増える一方で、産業界は、エッジ処理を使ってよりスマートなエアコンを作る方向に向かっています。ユーザーの快適性のために存在検知を使ってエアコンを制御することに加えて、単一のセンシング・テクノロジを目指す動きが進んでいます。将来的には、転倒検知や、心拍数や呼吸数などのバイタルサインのモニタリングといった、ユーザーの安全性をモニタリングするための機能がエアコンに組み込まれるようになるでしょう。

占有センシングにミリ波センサを使用するメリット

TIのミリ波(mmWave)センサは、対象範囲内の各物体に対する正確な距離、速度、到来方向の情報を含む豊富なデータ・セットを備えています。デジタル信号プロセッサ(DSP)が物体を検知、分類、追跡することで、人の存在、不在、人数、エアコン・ユニットとの正確な相対位置といった、人の占有情報を得られるようになります。エアコン・ユニットはこの情報を使って、インテリジェントな判断を下すことができます。例えば、人が部屋の中に入ってくると、あらかじめ設定された最低限の時間、その人が存在していることをセンサが追跡してから、エアコンをオンにします。その人が室内にとどまっていれば、追跡/位置情報を使って、その人が快適になるようにそちらにエアコンの風を向けることができます。室内にいる人の数に応じて、最も快適かつ省電力になるように、エアコンが温度を調整します。

TIのミリ波センサは、データが非常に正確である以上に、エネルギー効率の良いスマート・エアコンを作る際に次のような多くのメリットをもたらします。

  • 誤検知の減少
  • 過酷な環境でも機能する能力
  • 美的に優れた製品デザインと小型センサ
  • カメラの使用に代わるセンシング・テクノロジによるプライバシー懸念の緩和

エッジ・インテリジェンスを実現

TIの60GHzミリ波センサは、周波数変調連続波トランシーバ、オンチップ・モニタリングおよび較正メカニズム、Arm® Cortex®-R4Fマイコン、C674x DSPを1つのチップに統合しています。このような統合によって、デバイス自体がリアルタイムでデータを処理する、高集積センサのインテリジェンスを実現します。

あるサンプル・アプリケーションでは、TIのシングルチップ60GHzミリ波センサ『IWR6843』を使用して、業務用および住宅用のエアコンに占有センシングを実装しています。データを処理するセンサは、人の感知にCaponビーム・フォーミングを使用し、物体を見分ける十分なインテリジェンスを備え、誤検知を最小限に抑えます。このサンプル・アプリケーションでは、室内の最大8メートルの範囲にわたり、人が動いている場合と止まっている場合の両方で、±10cmの検出精度が実証されます。人数検知の精度は、室内で2メートルあたり3人の密度で、5人未満で100パーセント、最大9人で85パーセントです。

近い将来にエアコンは、データに基づいて完全に自立したシステムになり、リモコン操作したりエアコン制御ユニットを介して人が介入したりする必要がなくなるでしょう。エアコンのセンシング・テクノロジがデータを常時収集することで、最も快適な状態になるでしょう。例えばオフィス環境において、ある程度の時間をかけて、オフィスに人が最も集中するのは午前9時から午後5時の間だとセンサが判断したとします。このデータをもとに、システムが学習して人が多い時間帯はより多く風を出し、ピーク時間外は風量を下げるかオフにすることで、電力消費量が削減され、事業費が節約できます。

住宅用および業務用のエアコンの需要が2050年までに3倍になるであろう状況で、ミリ波テクノロジを使用した占有センシングにより、エアコンの総電力消費量を35%も削減できる可能性があります。私たちが未来に進む中、ミリ波テクノロジは、HVACシステムの稼働方法だけでなく、環境への温暖化ガス排出量全体の削減にも大きなインパクトを与え続けるでしょう。

参考情報
+リファレンスデザイン: “ミリ波レーダー・センサを使用する人数追跡 / 計測
+ホワイトペーパー(英語): “Bringing Intelligent Autonomy to Fine Motion Detection and People Counting with mmWave Sensors.”

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年7月1日)より翻訳転載されました。 
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