今から約60年前の1958年に、テキサス・インスツルメンツでエンジニアとして働いていたジャック・キルビーが集積回路(IC)を発明しました。

この技術記事では、この発明がどのように車の安全性、水漏れ検出可能なスマートメータおよびポケットサイズの超音波を実現しているのかをご紹介します。

ICが電子機器のコストを100万分の1にまで下げることになるとは思ってもいなかった」ジャック・キルビー

 

ジャック・キルビーが最初のICを発明したとき、これがやがて私たちの現在の生活に欠かせない多くの電子機器の実現につながるとは知る由もなかったでしょう。

なぜなら、それは、電子機器のサイズを小型化し、信頼性と効率を向上させながら電子機器のコストを削減し、最終的にはより良い世界の創造に貢献するために今後数十年にわたり起こる半導体技術の漸進的イノベーションを予測できなかったからです。

TIは、半導体を通してより手頃な価格の電子機器を開発することで、より良い世界を創造することに情熱を注いでいます。それが「エンジニアリングの進歩」であるとTIは考えています。キルビーによるICの発明とそれに続く多くのイノベーションにより、「エンジニアリングの進歩」が実現されてきました。

 

医療がより受けやすくなるポータブルな超音波診断機器 

20年以上にわたり、インドのバンガロールにあるTIの研究開発(R&D)センターは、デバイスを段階的に小型化しながら、超音波画像機器の品質向上とコスト削減に取り組んできました。

従来の超音波スキャナは、病院や診療所のカートに搭載されていました。しかし現在では、消費電力とサイズを削減する一方で信号品質が向上したコンポーネントにより、携帯型の超音波スマート・プローブまで開発されました。32チャネル送受信フロント・エンドの構成に128個のコンポーネントが使われていたものが、今では集積回路2つに集約されてプローブの中に直接収まるぐらい小型化されたことで、電源供給と演算の実行に必要だった配線が不要になりました。

手ごろな価格で救急隊員が救急車内や遠隔地へ持ち運びが可能な超音波スマート・プローブは、臓器の鮮明な画像をリアルタイムで生成し、スマートフォンに表示できます。これにより、緊急の処置に欠かせない細かな部分が明らかになることも少なくありません。

 

車の安全性を高めるミリ波センサ

レーダー・システムは1世紀近く使用されていますが、従来は製造コストが�����に高かったため、主に軍事用途に使われてきました。TIは近年、堅牢なレーダー・システムを1つの完全統合型マイクロチップに収めたレーダー・テクノロジを開発しました。このテクノロジは、様々な産業用および車載用アプリケーションに活用されています。

TIのミリ波テクノロジは、Kilby Labs研究開発センターで開発された最初の画期的なイノベーションのうちの1つです。シングルチップの、世界で最も精巧なCMOSミリ波センサは、競合するセンサ・テクノロジに比べてごくわずかな消費電力で、3倍の高精度センシングと小設置面積を実現します。

2018年後期にTIのミリ波レーダー・センサが市場に投入され、車のレーダー・システムが急速に進化し、システムの小型化と高性能可が可能になり、ADASのみならず車載レーダーの新たな用途の可能性が開かれました。このテクノロジにより、長距離、中距離、短距離のレーダーのセンシング精度が大幅に向上しました。

TIの車載用ミリ波センサは、車両周辺の空きスペース、ドアとトランクの近くにある障害物の検知、自動駐車機能、侵入者検出警報、不注意で子供が車内に置き去りにされた場合に警報を発する車内の乗員検出などに、活用されています。これらの機能は最終的に多くの点で車の安全性につながります。ミリ波テクノロジがますます手頃な価格で提供されることで、これらの機能がより低価格帯の車種にも採用されるようになるでしょう。

 

自然保護の強化につながる超音波センシングによる水漏れ検知

  

世界銀行によると、世界全体で送水管の破損や水漏れにより年間約33兆リットルの水が失われています。従来の水道メータの電気機械システムは、単に水の流れを測定するようにしか作られていないため、水漏れや破損が発生してから発覚するまでに何日もかかることがあります。しかし、サーモスタットやモータ、その他の普段使用する多くの電子機器や産業製品の場合と同様に、水量メータの電気機械システムも急速に電子システムに切り替えられています。

超音波テクノロジの革新は、世界中のロボティクス、ホーム・オートメーション、水源保護などの多くの分野で変革をもたらしています。TIの先進的な超音波センシング・マイコンは、高性能A/Dコンバータを備えたスマート・アナログ・フロント・エンドを配置することで、信号対雑音品質を改善し、メータのキャリブレーションの不正確さの問題を克服し、消火用ホースからわずかな水漏れまで幅広く水流を測定して、乱水流や泡や、その他の水流の異常を検知します。

超音波テクノロジにより、スマート・ビルディングやスマート・シティに設置された水道メータに、数秒間に1滴といったわずかな水漏れを検知して問題の場所を特定できる機能が追加されます。これらのシステムでは、管内の1対の超音波トランスデューサが、流体の中の音波の速度を測定します。音波が伝播する速度は、パイプを流れる流体の粘度、流速、方向によって変化します。超音波が流れる媒体または物質の剛性によって、その伝わる速さは異なります。

測定精度は、トランスデューサの品質、アナログ回路の精度、信号処理アルゴリズムに依存します。音波または超音波のトランスデューサは、電気信号を比較的高周波数の数百キロヘルツで機械的な振動に変換する圧電材料です。正確な流量測定のために、通常、1~2MHzの範囲の1対の超音波トランスデューサが、釣り合いがとれていて校正されていなければなりません。超音波トランスデューサは、流量計のコストの大部分を占めます。また、センサ・システムの動作電力は、15~20年間バッテリがもつように非常に低くなければなりません。

TIの先進的な超音波センシング・マイコン・ファミリには、独自のフロント・エンドとアルゴリズムが組み込まれており、高精度でありながら、総コストと消費電力が削減されます。TIの流量測定アーキテクチャは、高性能アナログ設計、高度なアルゴリズム、組み込み処理を活用して、高コストな超音波トランスデューサの必要性をなるべく抑えます。

 

情熱を注いで、より良い世界を創造する

ご紹介した3つのイノベーションは、TIの実績のほんの一例にすぎません。TIが集積回路の進歩の先駆者であり続けるなか、半導体を通してより手頃な価格の電子機器を開発することで、より良い世界を創造するという情熱は今後も受け継がれていきます。一つ一つのイノベーションが、より小型で効率的な、信頼性が高く求めやすいテクノロジを実現します。これからも新しいマーケットが開かれ、いたるところで電子機器に半導体が使われるようになるでしょう。

これが、長きにわたりTIが取り組んでいる「エンジニアリングの進歩」です。

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