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高精度のモーター・ドライブ、センサ、マシン・ビジョンを搭載したロボット・アームが動作しているとします。アームが回転しながら、調和のとれた動きをし続けています。もし、システムの各部への動作指示が途切れてしまえば、ロボット・アームは互いに衝突してしまうでしょう。

TI のリアルタイム制御シリーズ ではこれまで、リアルタイム制御の主な機能、つまりセンシング、アクチュエータ駆動、処理について説明してきました。これらすべてを連動させるために必要な最後の要素は動作指示、つまりリアルタイム通信機能です。この記事では、インダストリ 4.0 を例に挙げ説明します。インダストリ4.0 は、リアルタイム通信とリアルタイム制御を土台としています。

オートメーションの分野でビッグ・データを推進する要因

COVID-19 の蔓延により、人間が介在しないファクトリ (工場) 運用の需要が非常に高まりました。Oxford 辞書によると、ビッグ・データとは、コンピュータでの分析を通して、特に人間の行動や相互作用に関するパターン、トレンド、相関を明らかにできる、きわめて大きなデータ・セットを意味します。ビック・データ を収集し、適切に分配することで、デジタル・ツイン、メーター測定、サービスへの課金、予防保守などを実現できます。たとえば、ビッグ・データが利用できるようになると、ロボット・アームの性能やシステムの状態をデータ・レート、温度、湿度、振動などとともに監視できます。モデル (デジタル・ツイン) を開発して、ビッグ・データで学習を行った AI に基づき、将来の性能と正常性を予測することができます。これらの利点を活用するには、情報技術(TI) と運用技術( OT : operational technology) をひとつにし、リアルタイム制御(RTC) システムのエッジまで インターネット・プロトコル(IP) をサポートする必要があります。この考え方を IT/OT の融合と呼びます。

イーサネットの場合、開放型システム間相互接続(OSI)モデルのネットワーク層とトランスポート層を通じて、伝送制御プロトコル / インターネット・プロトコル  (TCP/IP) を実現できるので、本質的に IPv4 (および IPv6) をサポートしています。各種産業用イーサネットには、必要な情報量をディタミニスティック (確定的) に伝達する能力と、IPv4 をサポートできる固有の性質があるので、産業用オートメーションの融合を行う際には、産業用イーサネットが事実上の通信標準規格になっています。既存のインフラは多くの場合、ネイティブTCP/IP 機能なしで 2 線式プロトコルを使用しているため、レガシーのフィールドバスも、エッジ側デバイスとの通信用に引き続き利用されています。図 1 に、現在の産業用オートメーションにおける通信の概要を示します。

1:現在の産業用オートメーションにおける通信

産業用通信の実装では、すでに変化が始まっています。シングル・ペア・イーサネット (SPE) は、既存の 2 線式システム・アーキテクチャを維持しながら、より高速な速度と、産業用イーサネットの利点もサポートすることができます。高度なその場診断機能は、分散型と集中型両方の監視と動作をサポートします。もちろん、SPE は既存の各種フィールドバスで敷設した 2 線式インフラを再利用できるので、融合に基づくアップグレードの簡素化とコスト削減に役立ちます。

イーサネットの導入

オープンであり、あらゆるエンタープライズ・アプリケーションで使われているにもかかわらず、最近までイーサネットをリアルタイム・アプリケーションで使用することはできませんでした。IT でのイーサネット・フレームの配信は「ベスト・エフォート」かつ「アンマネージド(管理されていない)」だったからです。たとえ最善の状況であっても、エラーは懸念事項でした。リアルタイム OT において、エラーは重大な問題や、ときには危険な事態を招く可能性があります。RTC システムは、システムの動作を指示するために信頼性の高い通信を必要とします。常にシステムを指示通りに動作させ、不適切な製品の製造、システムの破損、人体の負傷を防止する必要があるからです。IT イーサネットは、一般的に、企業や消費者環境で使用されるため、環境上の課題が生じることはめったにありません。一方、RTC システムの導入先は多くの場合、過酷な環境です。

広い温度範囲、ノイズや汚れの多い環境などで高い信頼性を維持し、堅牢でディタミニスティック (確定的) な動作と、より高いデータ・レートへ対応する必要があるため、産業用イーサネットが誕生しました。産業用イーサネットは確定的で堅牢なうえ、追加の帯域幅への対応能力と本質的な IP コネクティビティを兼ね備えているので、RTC システムを最大限に活用できます。

次に、タイミング特性と、それらの特性がイーサネットの物理層 (PHY) にどのように適用されるかについて説明します。

タイミング特性の重要性

RTC システムにとって重要な 3 つのタイミング特性があります。

  • レイテンシ:ここでは、レイテンシを「伝搬遅延」と同じように考えます。つまりレイテンシとは、何らかのシステム、サブシステム、またはコンポーネントに入力されたデータが出力されるまでにかかる時間です。たとえば、TI の 10/100Mbps イーサネット PHY である DP83826E では、往復 のレイテンシは 208ns です。レイテンシが小さいほど、サイクル時間を短縮できます。またはより多くのノードを 1 つのバス上に配置できます。
  •  確定性:システムを通過するデータの到着時刻が大幅に変動する場合、レイテンシの短さはあまり重要ではなくなります。確定性 (Determinism) とは、到着時刻に関するこの変動を意味します。超低ジッタの確定性は、良好だといえます。確定性が低い場合は、レイテンシの変動に対応できるように、ヘッドルームを小さくしてシステムを作り込む必要があります。図 2 で、DP83826E のレイテンシ (208ns) と確定性 (±2ns) を比較します。EtherCAT のようなリアルタイム・イーサネット・プロトコルには、イーサネット PHY 内でレイテンシが短く確定的であるという特長がメリットです。

図 2:レイテンシとその確定性

  • 同期:1 つのシステム全体で、または複数のシステムの全体でタイミングを合わせることにも、いくつか利点があります。効率やスループットの最大化と、安全な動作の両方を目的として、さまざまなサブシステムは、他のサブシステムが動作を実行した時刻を高精度で「把握する」必要があります。産業用イーサネット・プロトコルはいずれも、何らかの種類の同期機能をサポートしています。TSN (Time-Sensitive Networking) は、RTC システムで使用できる時間同期の 1 つの例です。IEEE (米国電気電子学会) 1588v2、つまり PTP (Precision Time Protocol) は、複数のデバイスが同期した状態を維持するのに役立ちます。IEEE 802.1as は、gPTP (generalized PTP:一般化 PTP) とも呼ばれ、RTC のような時間に制約のあるアプリケーションでさらに厳密な同期を実現できます。

まとめ

インダストリ 4.0 は、RTC と通信機能を正常に導入できることを土台としています。また、インダストリ4.0 に加えて確定的、低レイテンシといった特性を持つ通信 PHY と産業用イーサネット・プロトコルを採用することで、世界中のあらゆる機器が見事に調和し動作します。

参考情報

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