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多くのバッテリ駆動アプリケーションでは、バッテリ電圧が最小になった場合でもバッテリ駆動時間を延ばすため、降圧型コンバータを、VINがVOUTに近い100%のデューティ・サイクルで動作させることが必要になります。

例えば、スマート・メータに給電する2本の二酸化マンガン・リチウム(Li-MnO2)電池は、充電不可の一次電池で、リチウム塩化チオニル電池より安価な一方、動作寿命が長期(最長20年)であるため、スマート・ガス/水量メータでの利用が増えています。

図1に示すシステム構成では、2本の二酸化マンガン・リチウム電池を直列に接続(2s1p:2直列1並列)し、マイコンに給電するために降圧しています。

    

図1:スマート・メータの電力アーキテクチャ

最長20年のバッテリ寿命を持つアプリケーションを設計するには、超低静止電流(IQ)のDC/DCコンバータが役立ちます。スマート・メータ・アプリケーションの負荷プロファイルは連続負荷ではなく可変負荷です。システムは、長期のバッテリ寿命を実現するため、ワイヤレス信号送信またはバルブ作動時にしか大電流を消費せず、その後は非常に低い負荷条件に戻ります。このような負荷プロファイルにより、平均消費電流をマイクロアンペア範囲の値に抑えることが可能です。それらの軽い負荷で高効率を得るためには、特に、消費電流が平均消費電流よりも著しく低いオフ時間中に、超低IQとなる必要があります。

TIの超低消費電力降圧コンバータ『TPS62840』は、わずか60nAのIQで動作し、3.3Vの電源レールをレギュレートできます。『TPS62840』は、100%モードでのIQが150nAと極めて低く、バッテリ駆動時間がさらに延びます。

WEBENCH® Power Designerは、超低電力電源回路の設計とシミュレーションに役立つように、仕様に基づきカスタマイズされた電源設計が行えるオンライン・ツールです。

この例では、1セルあたりの平均電圧は約3.0Vです。セルの初期電圧は、充電時に約3.2Vで、完全放電時には2Vを下回ります。各バッテリが1.8Vまで放電し、充電時に3.2Vになると仮定して、以下のパラメータをWEBENCH Power Designerに入力します(図2)。

図2:WEBENCH Power Designerに入力される設計仕様

WEBENCH Power Designerのサーチ・ツールで最小入力電圧に3.6Vを使用すると、候補デバイスが51件出力されますが、その中に『TPS62840』は含まれていません。なぜでしょうか。

WEBENCHは、システムに最適なデバイスを見つけるため、2つの初期パラメータに注目します。

  1. 降圧コンバータ・トポロジの場合、WEBENCH Power Designerがユーザ入力の中で最初にチェックする項目は VINMIN > VOUT です。VINMIN > VOUT の場合、WEBENCH Power Designerはソリューション・リストの一部として降圧コンバータを選択します。VINMIN ≤ VOUTの 場合、WEBENCH Power Designerは、VOUTをレギュレートするため、100%デューティ・サイクル・モードで動作する降���コンバ���タの代わりに昇降圧コンバータを推奨します。これはWEBENCHが、VINMIN ≤ VOUTの場合でも、VOUTをレギュレートするソリューションを提供しようとするからです。

 

  1. 最初のチ���ックに合格した後、2番目のチェックでは、計算されたデューティ・サイクルが降圧コンバータのデータシートに規定された最大デューティ・サイクルより大きいかどうかを確認します。100%デューティ・サイクル・モードで動作可能な降圧コンバータに対しては、閾値として99.9%を使用します。デューティ・サイクルの計算には損失も含まれます。これにより、WEBENCH Power Designer内で計算されるデューティ・サイクルは、理想的なVOUT/VINをはるかに上回ります。

数多くのデバイスを選択した後、WEBENCH Power Designerは各デバイスに対して詳細設計を行います。

使用される入力パラメータに応じて、以下の3つの異なる結果が得られる可能性があります。

  • 『TPS62840』のWEBENCH Power Designerモデルで、VIN = 3.2V~6.4V、IOUT_MAX = 0.75A、VOUT = 3.3Vの場合(図3)。

図3:エラー・メッセージ(入力電圧が低すぎる)

最小VINがVOUTより低いため、設計の更新に失敗しています。この設計は、WEBENCHの最初のチェックに合格しません。

  • 『TPS62840』のWEBENCH Power Designerモデルで、VIN = 3.6V~6.4V、IOUT_MAX = 0.75A、VOUT = 3.3Vの場合(図4)。

図4:エラー・メッセージ(デューティ・サイクルが大きすぎる)

計算時のデューティ・サイクルに、ハイサイドMOSFETのRDSONやインダクタDCRなどの損失が含まれるため、この設計は更新されません。ここで、デューティ・サイクルの値は99.9%を超えています。この設計は、WEBENCHの2番目のチェックに合格しません。

  • WEBENCH Power Designerの「Select a Design」画面で、VIN = 3.7V~6.4V、IOUT_MAX = 0.75A、VOUT = 3.3Vの場合(図5)。

5WEBENCH Power Designerに表示された『TPS62840

最後の例では、両方のチェックに合格したので、『TPS62840』が表示されます。

100%デューティ・サイクルに近い場合に、WEBENCH Power Designerをより効率的に使用するためのヒント:

  • 入力電圧と出力電圧の間の電圧差を十分とり、デューティ・サイクルを小さくします。
  • 出力電流を小さくして、損失を減らし、デューティ・サイクルを小さくします。

これらのいずれかのソリューションにより、WEBENCH Power Designerで『TPS62840』を用いた設計が行えるようになります。実際のアプリケーションでは、バッテリを完全に放電させるため、100%モード動作は普通であり、一般に許容されています。100%モードでは、バッテリ電圧の低下と共に、降圧コンバータの出力電圧も低下しますが、それでも、たいていの負荷のシステム仕様に適合します。

参考情報

+技術記事「アプリケーションに応じた最適な静止電流について

+スマート・メータ向けリファレンス・デザインはこちら .

 

※上記の記事はこちらの技術記事(2019年7月15日)より翻訳転載されました。

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