常に進化を続けるテクノロジーには、モジュール方式の、より小型で性能重視なソリューションが求められています。電源モジュールは、ソリューション・サイズの小型化と基板面積要件への対応に役立ちますが、設計の柔軟性が低下する可能性もあります。電源モジュールによるソリューション・サイズの縮小と同時に、過渡応答の改善にもさらなる努力が重ねられてきました。最近の多くのDC/DCレギュレータや電源モジュールは、内部にループ補償を組み込んだり、ループ補償が不要になる動作アーキテクチャを備えたりして、非常に使い勝手がよくなっています。しかし、そのことで設計性能の細かい調整が難しくなる場合もあります。

高い精度での高速過渡応答の課題に対応

プロセス・テクノロジーの進化とともに、プロセッサが求める電圧の精度が厳しくなり、コア電圧は低下しています。表1は、FPGA(Field Programmable Gate Array)のデータシートの抜粋ですが、VCCINT電圧レールの推奨動作条件は1Vプラスマイナス30mVです。電圧がこの3%の範囲から外れるとプロセッサが予期せぬ振る舞いをする可能性があるため、この範囲内に電圧を維持することが推奨されます。したがって、負荷変動の間も3%の範囲内の条件を満たすには、DC/DCコンバータの出力の静電容量を増やす必要があるかもしれません。

記号

最小

標準

最大

単位

FPGAロジック

VCCINT

0.97

1.00

1.03

V

0.87

0.90

0.93

V

VCCBRAM

0.97

1.00

1.03

V

0.87

0.90

1.03

V

1FPGAField Programmable Gain Array)の推奨動作条件

静電容量を多少増やすのは問題ありませんが、大容量になるとモジュールの負荷過渡応答にマイナスに働く可能性があります。過渡応答を最適化するには、通常は図1のように、上側の帰還抵抗と並列にフィードフォワード・コンデンサ(CFF)を追加します。周波数ドメインでは、CFFを追加することでゼロ点が形成され、これにより帯域幅が増加し、過渡応答時間が改善します。

 


1:フィードフォワード・コンデンサCFFを追加した帰還分圧回路

残念ながら、このソリューションも完璧ではありません。CFFがゼロ点を形成することで帯域幅が増加する一方、CFFと帰還抵抗の並列結合の積として極も生じます。この極は、CFFのゼロ点によってもたらされるメリットを打ち消してしまいます。CFFによりゼロ点と極が追加されるうえ、これらが周波数の面であまり離れていないかもしれないので、CFFを選んだり計算して求めたりする作業が複雑になります。CFFの値が適切だと状況は良くなりますが、CFFの値を間違えると改善が見られないばかりか、部品表(BOM)に無駄な部品が増えるだけです。

抵抗1つで性能を改善する方法

TurboTrans™テクノロジーでは、図2のように抵抗を1つ(RTT)追加するだけでループ応答が改善します。RTT抵抗を追加すれば、モジュール外部の抵抗を使用して簡単に帰還ループを最適化することができます。必要に応じてTurboTrans抵抗を調整することで、補償段のゼロ点と中帯域ゲイン(AVM)を最適化できます。RTT抵抗を使用する場合には、CFFで生成された極のような悪影響はありません。

2TurboTransテクノロジーを活用した電源モジュール

RTT抵抗は、Type II補償方式で直列抵抗を追加したものにすぎません。このようにRTT抵抗を追加する場合は、他の電源モジュールと同じく、適切な値を算出するための式はデータシートに載っているため、ループ補償技術に精通している必要はありません。計算結果は、単に出力容量の合計値によって決まります。出力の容量が増えてもRTTが補償するので、良好な負荷過渡応答を維持できます。

TurboTransの実例

TIのTPSM84824を使って、過渡応答の速度向上にTurboTransテクノロジーがどれくらい有効かを見てみましょう。3%の範囲内の条件(表1を思い出してください)を満たすために、TurboTransテクノロジーがない場合は、出力容量を増やすしか方法はありません。しかし、図4と表2から分��るように、容量を増やしても電圧低下に対する効果はほとんどありません。これは、出力容量を増やすと、レギュレータの帯域幅全体が著しく減少するためです(図3参照)。これによりループが低速になり、負荷過渡への反応にかかる時間が増加します。結果として、出力容量の値が大きくても、電源モジュールが電圧低下を30mV未満に維持できるようにはなりません。


3:さまざまな出力容量のときのゲインのグラフ

4:さまざまな出力容量のときの過渡応答

出力容量(µF

クロスオーバー周波数(kHz

電圧低下(mV

188

41.0

114.6

288

31.3

103.2

388

26.0

92.4

488

22.8

86.4

588

20.5

82.2

2:さまざまな出力容量のときの電圧低下

TurboTrans機能を活用すると、この状況が改善します。図5に示すように、TurboTrans抵抗を調整することで、簡単に電圧低下を17.4mVに抑えることができます。


5TurboTransテクノロジーを使用したときの過渡応答

まとめ

実験結果からも分かるように、TurboTransテクノロジーを使用すると、電源モジュールの性能が大幅に向上するうえ、場合によっては全体の出力容量も減らすことができるでしょう。これにより、アプリケーションの性能が強化されるだけでなく、システムのコストやサイズの削減にもつながります。

 

その他のリソース

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2018年1月26日)より翻訳転載されました。

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