この技術記事では、昇降圧コンバータを塩化チオニル・リチウム(LiSOCl2)バッテリと組み合わせたときに、バッテリ寿命を最大限に延ばしつつ、全体として必要な保守およびコストが減少する、5つの事例を見ていきます。
水道メータとガス・メータは、電源として二酸化マンガン・リチウム(LiMnO2)バッテリとLiSOCl2バッテリを使用します。LiMnO2バッテリに比べてLiSOCl2バッテリはエネルギー密度が高くワットあたりの費用対効果が良いため、スマート・メータによく使われます。しかし、LiSOCl2バッテリはインパルス応答が悪いため、過渡電流負荷の際に電圧が大きく低下する可能性があります。
LiSOCl2バッテリと一緒にハイブリッド層コンデンサ(HLC)や電気二重層コンデンサといったバッファ素子を使用することでパルス負荷能力を高めることは可能ですが、HLCとLiSOCl2バッテリを高い信頼性で組み合わせるにはコストがかかるので、メータ全体のコストに影響する場合があります。バッテリはメータの保守の必要性や寿命にも関係するため、昇降圧コンバータをLiSOCl2バッテリと組み合わせるという別の方法を使うと、ソリューションの総コストを削減でき、メータの寿命が長くなります。
スマート・メータ・システムを設計する際の重要な設計課題
標準的なスマート・メータ・システムは、測定フロント・エンド、通信フロント・エンド、マイコン、電源管理IC、保護フロント・エンドの、5つの主要コンポーネントで構成されています。
これらの要件に加えて、水道メータは通常、小型のフォーム・ファクタであり、設置場所で15年以上、最低限の保守で稼働しなければなりません。
標準的な流量計の電力消費の特性
表1は、3種類の動作モードでの、標準的なメータの電力消費の特性を示しています。
動作モード |
電力を消費する部位 |
電流の範囲(A) |
流量計のエネルギー管理システムへの影響 |
スタンバイ・モード |
測定部、マイコン、保護部 |
5µA~100µA |
メータの寿命が決まる主な要因である。そのため、電源システムの効率が優れていなければならない(95%超)。 |
中間段階モード |
受信モードのときの通信フロント・エンド |
2mA~10mA |
ナローバンドIoTといった一部の非同期無線(RF)プロトコルでは、RFフロント・エンドが受信モードになっている必要がある。このような場合、電源システムの効率を高く維持しなければならない。 |
アクティブ・モード |
送信モードのときの通信フロント・エンド |
20mA以上 |
LiSOCI2バッテリが劣化する主な要因である。そのため電源システムは、良好な効率を維持しながら(80%超)バッテリから流れるピーク電流を制限できなければならない。組み込まれている通信システムにもよるが、一般にシステムがアクティブ・モードになるのは、24時間ごとに2分間である。 |
表1:標準的な流量計の電力消費の特性
昇降圧コンバータを使用したメータの設計における事例
バッテリ寿命を延ばし、スマート・メータ設計の性能を向上させるために、次の5つの事例を検討してみてください。
1:バッテリから流れるピーク電流を制限する
図1からわかるように(SAFT LS17330バッテリのデータシートから引用)、LiSOCl2バッテリは通常、スマート・メータで使われる無線通信システムに要求される高ダイナミック・レンジに対応していません。この問題に対処する方法の1つは、昇降圧コンバータ『TPS63900』と、バッテリ電流をフィルタリングするバッファ素子を使用することです。
図1:20℃のときのSAFT LS17330の標準的な放電の特性
2:出力電圧と入力電圧のレベルを分離する
電圧レベルを互いに独立にすることで、バッテリから流れる入力電流の特性と、負荷に供給される出力電流が最適化されます。この事例により、入力と出力の間のバッファ素子の使い方も簡素化されます。
3:動作電流が低く、スタンバイ電流が500nA未満のコンバータを使用する
システムの電力消費を最適化するためには、コンバータの平均電流消費量が、システムの電流消費量に比べて無視できるくらい小さくなければなりません。例えば、流量計の平均電流消費量が約5µAの場合、コンバータのスタンバイ電流は500nAを下回る必要があります。
4:電源システムの電圧をできるだけ低く維持する
システムのことを、コンバータにより給電される抵抗だと考えてみてください。電源電圧を低く維持することで、システムが消費するスタンバイ電流が削減されます。
5:電圧を動的に制御することで、動作モードごとの電圧負荷を最適化する
図2に示すように、『TPS63900』の動的電圧制御機能により、コンバータが出力電圧をその時々で変化させることができるので、負荷の最良の動作点で電力を供給できます。
図2:『TPS63900』の標準的アプリケーション
測定結果
次の条件で負荷過渡を測定しましょう。
- 158µA
- 97.4mAまで999ms
- 1ms、Vi = 3.6V、Vo = 3.0V、Co = 300µF
図3と図4に示すように、『TPS63900』は、バッテリから流れる入力電流をフィルタリングする能力がある一方で、出力電圧レギュレーションを良好に維持します。
図3:『TPS63900』のパルス応答
図4:入力電圧3.6Vの場合の『TPS63900』の効率
2.5mm×2.5mmパッケージまたは21mm2の総ソリューション・サイズに超低スタンバイ電流消費量と、優れた過渡応答、出力ノイズ・レベル、動的電圧制御を組み込んだ『TPS63900』は、複雑で高コストな旧来の方法で長い間対処されていたLiSOCl2バッテリを用いる際の課題の解決に役立ちます。
図5:『TPS63900』のソリューション面積
昇降圧コンバータ『TPS63900』を使用した設計の詳細については参考情報をご覧ください。
参考情報:
+アプリケーション・ノート: How to extend operating time of a LiSOCl2 powered system (英語)
+リファレンス・デザイン: 『TIDA-010053』
+データシート: SAFT LS17330(英語)
+関連記事: Smarter power for the front-end of the Internet of Things(英語)
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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年8月28日)より翻訳転載されました。
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