セル・バランシングは、電気自動車(EV)のバッテリ管理システムの重要な機能の1つであり、車両の走行距離を延長し、バッテリの安全な動作を確保するために役立ちます。また、セル・バランシングは、バッテリ自体の不均衡を修正するためにも必要です。EVのバッテリをはじめとして、すべてのバッテリには、製造プロセスでのミスマッチや動作条件のミスマッチが原因で時間の経過とともに不均衡が生じ、セル間のエージングが不均一になります。

バッテリは、その中で最も弱いセルが完全に放電されてしまうと、他のセルに多くの電荷が残されていたとしても、それ以上電荷を供給できなくなります。セル・バランシングは、バッテリ・パックの容量を最大化し、そのすべてのエネルギーを使用可能にすることで、バッテリ寿命を延ばし、EVバッテリの場合は走行距離の延長を実現します。バッテリ容量の最大化に加えて、セル・バランシングは、セルの過充電や過放電を防ぐことでバッテリの安全な動作を維持します。過充電や過放電はいずれも、セルの劣化を早め、潜在的に危険な動作状況につながるおそれがあります。

セル・バランシングの仕組み

セル・バランシングには、アクティブ・セル・バランシングとパッシブ・セル・バランシングという2つの一般的なアプローチがあります。アクティブ・セル・バランシングでは、DC/DCコンバータを使用して容量の低いセルに高い容量を与えることで、セルの電荷を再配分します。現在では、セルの製造と選別の技術が大きく向上し、バッテリ・パック内でのセルのミスマッチは非常に少なくなっています。そのため、動作開始時に大きなセル・バランシング電流によってセル内の大きなミスマッチを調整するといったことは回避できます。小さなバランシング電流を使用して高い頻度でセル・バランシングを行うことで、動作中に徐々に蓄積されるミスマッチを管理できます。

パッシブ・バランシングでは、一般に熱放散を通じて、容量の多いセルから電荷を除去し、すべてのセルが同じ量の電荷を持つようにします。パッシブ・バランシングとアクティブ・バランシングの主な違いは、パッシブ・バランシングではエネルギーが再配分されず、最初に高い電荷を持っていたセルがすべて最終的に低い電荷のセルと一致するまで、エネルギーが消費される点です。パッシブ・バランシングは、単純でコストが低いため、より広く使用されるアプローチです。

多くの場合、セル容量は充電状態によって表され、これはバッテリがその容量に対してどの程度のレベルまで充電されているかを示すものです。図1に、セル・バランシングの種類による違いを示します。

 1:各バランシング・モードでのバッテリの充電状態

EVバッテリでのパッシブ・セル・バランシング

パッシブ・バランシングでは、セルに並列な抵抗に対してスイッチングを行い、エネルギーをその抵抗で消費することにより、余分に充電されているセルから電荷を取り除きます。このエネルギー消費により、��ルおよび消費用のスイッチと抵抗に熱が生じます。リチウム・セルの温度は、できる限り室温に近く維持することが不可欠です。そうしないと、内部の温度上昇率が放熱で抑えられる限度を超え、熱暴走に至るおそれがあります。

温度が高くなると、リチウム・セルは構造的な変化と電極表面での膜形成によって劣化が早まります。また、過剰な熱の蓄積によりセル・バランシング用のスイッチや抵抗が損傷する可能性もあります。一般的なEVには多数のセルが搭載され、セル・バランシング用のスイッチや抵抗は互いに近接してパッケージングされるため、パッシブ・バランシング中にはバッテリとバッテリ管理システム内の熱放散を管理することが必要になります。

TIのバッテリ・モニタとバランサによってEVバッテリの安全性を向上

TIの『BQ79616-Q1』は、デバイス内部のスイッチを使用してパッシブ・セル・バランシングを実行します。これらのスイッチにより、『BQ79616-Q1』の内部ではセル・バランシング中に熱放散が行われます。デバイスとバランシング用抵抗の箇所がプリント基板(PCB)上の高温部分となります。『BQ79616-Q1』は、ダイの過熱を避け、PCBの温度を管理するために、2つの熱管理機能を備えています。

一方の熱管理機能はダイの温度を監視し、もう一方の機能はサーミスタの温度を監視します。ダイの温度が高くなると、マイコン(MCU)に障害が通知され、マイコンはセル・バランシングを一時停止して、集積回路(IC)の温度を下げることができます。ICの温度が低下し、障害が解消されたら、マイコンはセル・バランシングを再開するよう『BQ79616-Q1』に指示します。

サーミスタの監視では、温度が一時停止スレッショルドを超えた場合、『BQ79616-Q1』は自動的にバランシングを一時停止します。温度が復帰スレッショルドまで下がると、バランシングは自動的に再開されます。この場合、『BQ79616-Q1』はマイコンからの介入なしでセル・バランシングの一時停止と再開を行います。図2に、デバイスとサーミスタの温度監視を示します。

 2:『BQ79616-Q1』によるPCB上の温度監視の場所

セル・バランシングの一時停止状態では、バランシングのタイマや設定もすべて停止し、これらはデバイスが一時停止状態を抜けると再度有効になります。外部のバランシング用抵抗による温度上昇を管理するために、『BQ79616-Q1』は、汎用入力/出力に接続されたアクティブ・サーミスタのいずれかが、設定されたセル・バランシング過熱スレッショルドを超える温度を検出した場合、すべてのチャネルでセル・バランシングを一時停止できます。セル・バランシングの過熱検出が働いた場合は、すべてのアクティブ・サーミスタが設定された復帰スレッショルドを下回る温度を検出した時点で、すべての有効なチャネルのバランシングが再開されます。

自律的なセル・バランシングは、バッテリの寿命を最大限に延ばすために役立ち、EVバッテリに対する大きな利点となります。『BQ79616-Q1』のような、強化されたIC熱管理とマイコンへの障害通知を追加することで、コストを最適化しながら高速で安全なセル・バランシングが可能となり、充電までのバッテリ動作時間の延長と、EVバッテリの動作寿命の延長につながります。

参考情報(英語):
+トレーニング・ビデオ:
What is Cell Balancing?
+技術記事:
How active and passive cell balancing works
+ホワイト・ペーパー:
Cell balancing buys extra run time and battery life

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年12月9日)より翻訳転載されました。 
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