めったに使わない電子デバイスを使ってみようと手に取ったら、バッテリが切れていたり、ほとんど残っていなかったりして腹が立ったという経験はありませんか?そのデバイスが単にスタンバイ・モードやスリープ・モードになっていたのなら、原因は小さいながらも極めて重要な仕様である、静止電流かもしれません。

静止電流とは

静止は、「活動していない、または休止している状態や期間」と定義されています。つまり、静止電流(IQ)とは、スタンバイ・モード中の軽負荷や無負荷のシステムに流れる電流です。静止電流は、デバイスがオフの状態でバッテリがシステムに接続されている場合に流れる電流である、シャットダウン電流と混同されることがよくあります。いずれにしろ、低バッテリ消費設計においては、どちらも重要な仕様です。

静止電流はほとんどの集積回路(IC)設計に該当する仕様であり、IC設計では、アンプ、昇圧および降圧コンバータ、低ドロップアウト・レギュレータ(LDO)が静止電流の消費量を決める一因となります。このブログ記事では、設計がシンプルで消費電力が計算しやすいことから、LDOに重点を置いて説明していきます(LDOに不慣れな場合は、アプリケーション・レポート「Technical Review of Low Dropout Voltage Regulator Operation and Performance」に詳しく説明されていますので、そちらをお読みください)。LDOが完全に動作可能な場合、その消費電力は次の式1で計算できます。

たとえば、静止電流が0.05mAのLDOを使用し、200mAの出力電流で4.2Vから1.8Vに降圧する必要がある場合、それらの数値を式1に代入すると、消費電力(PD)が得られます。

 アプリケーションがスタンバイ・モードや軽負荷状態に切り替わると、電力消費の要因に占める静止電流の割合がはるかに大きくなります。先ほどの例で確認すると、IOUTが大幅に低下(たとえば100µA)した場合、PDは次のようになります。  この例では、静止電流が電力消費の要因の50%近くを占めています。

「それほど大きな電力は浪費していない」と思われるかもしれません。しかし、スタンバイ・モードやシャットダウン・モードに大部分の時間を費やすアプリケーションならどうでしょう?スマートウォッチやフィットネス・トラッカー、あるいは携帯電話の一部のモジュールは、それらのモードに時間を費やすことが頻繁にあります。ディスプレイが常時オンになっていないフィットネス・トラッカーは軽負荷条件に相当し、レギュレーションに使用されるLDOのIQが、バッテリの駆動時間を決める大きな要因となります。

スペースの制約とバッテリ駆動時間

より小型かつ軽量の民生用製品を求める傾向が続くなか、エンジニアはサイズの縮小とバッテリ駆動時間の維持や延長を両立するという課題に直面しています。ほとんどの設計例でバッテリは最も大きく、かつ重い部品ですが、バッテリを物理的に縮小すると、バッテリの容量も駆動時間も減少することになるので、設計者はそれを嫌います。そのため、他のすべてのオンボード・デバイスをできる限り小型に抑えることが不可欠となります。

サイズのために性能を犠牲にしていることを問題視すべきでしょうか?端的に言えば、その必要はありません。TIには、最高の電力性能を備え、かつサイズの小さいLDOがありますが、それが実現できる理由は、消費電力が低ければ熱抵抗の要件が緩和されるからです。その典型的な例が『TPS7A02』です。このデバイスは、0.65mm×0.65mmのウェハー・チップ・スケール・サイズ、0.35mmピッチのパッケージを採用しており、静止電流は25nAです。最小サイズのLDOであることに加え、市販されている中で最もIQが低いデバイスでもあります。また、0.65mm×0.65mmサイズでは小さすぎるという設計者向けに、『TPS7A02』には、1mm×1mm X2SONパッケージ版も用意されています。このデバイスや類似するLDOを活用すれば、サイズと性能を両立した設計が行えるようになります。

成功を実現するソリューション

バッテリを長持ちさせる設計を検討している場合は、別のシンプルなソリューションとして、イネーブル・ピンやシャットダウン・ピンを使う方法もあります。スマートウォッチ、フィットネス・トラッカー、携帯電話、ドローンといった機器では、このソリューションを採用することによってバッテリを強化できます。これらすべての民生用電子機器の中でも、ドローンは、通常は飛行前か飛行後にのみアイドル状態となるので、スタンバイ・モードに費やされる時間が極めて短時間です。それでも、飛行に必要のないモジュールに接続されているLDOをシャットダウンすることにより、バッテリを長持ちさせることができます。飛行に必要のないモジュールには、ユーザーがビデオの録画や写真撮影をしたいときにのみ使用されるモジュールである、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)イメージ・センサやジンバル(図1を参照)などがあります。通常は数百ナノアンペアであるLDOのシャットダウン電流がバッテリでの消費電流となり、その値はLDOの静止電流をさらに下回ります。これが、最終的な飛行時間をわずかに延ばすことにつながります。

CMOSイメージ・センサとジンバルが、どちらもノイズの影響を受けやすいという点からも、LDOはこれらのモジュールに最適であると言えます。イメージ・センサやジンバルに届くすべてのノイズが、ドローンから取得されるビデオや写真の品質、解像度、安定性に影響します。

このアイデアは、頻繁には起動しないものの、画質を維持するためにクリーンでノイズのないレールを必要とするモジュールである、携帯電話のカメラにも応用できます。

 1:ドローン・モジュールの一般的なブロック図

まとめ

バッテリの駆動時間は動作中の負荷条件に大きく依存しますが、低静止電流のLDOを活用すれば、バッテリ駆動デバイスの動作時間を簡単な方法で延ばすことができます。また、これらの小型デバイスの用途は民生用の電子機器だけに限られたものではなく、ビルディング・オートメーションやファクトリ・オートメーションのような産業用アプリケーションにおいても同様に大きな役割を果たしています。そのため、設計者には見落とされがちですが、IQやシャットダウン電流の影響により、アプリケーションの動作時間に数秒から数分、数時間、あるいは数日単位の差が生じる可能性もあります。これで静止電流の重要性については理解していただけたと思いますので、消費電力を計算する際は、常に静止電流を考慮するよう心掛けてください。

 

その他のリソース

+LDOの基本について、詳しくはLDOの基本に関するブログ・シリーズをご覧ください。

+低ドロップアウト・レギュレータのクイック・リファレンス・ガイドをご確認ください。

+ビデオ(英語):"LDO basics: Quiescent current"

 

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2018年6月20日)より翻訳転載され、2019年9月に更新されました。
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