逆極性ソリューションの採用は、必要悪だと見られています。 車載システムでは、バッテリ上がりで発生するジャンプ・スタート時にバッテリまたはバッテリ・ケーブルが逆接続される場合にそなえ、回路の保護機能が必要です。しかし、こうした保護機能は、電力損失を発生させることから、システム設計者はその対策を立てておく必要があります。  通常、逆極性に対する回路保護法を考える際に、まずエンジニアの脳裏に浮かぶのはダイオードです。

子供用玩具に電池を取り付けても、玩具が動作しないときに、電池の向きを逆にすれば、玩具が動作した、という経験を多くの人が持っています。 これも、逆極性保護回路が動作した例です。シンプルなダイオードのおかげで子どもはおもちゃを楽しむことができました。

こうした優れた利点を持つダイオードですが、逆極性保護を必要とするあらゆるアプリケーションで採用できるわけではありません。その理由を説明します。 通常のダイオードは、両端間の電圧降下が 0.7V です。ダイオードの両端間での電力損失は、V x I で求められます。5A の電力が必要なアプリケーションでは電力損失は 0.7 x 5 となります。  ショットキー・ダイオードを使用する場合は、電力損失が約 3.5W になることになります。  電力損失以外に、電源ダイオード電圧が電源電圧以下に降下し、回路側で利用できる電圧に制約が発生するという問題が起きます。

産業、車載機器では、逆極性保護を必要とするほとんどのフロント・エンド・インターフェイスが、従来はダイオードか MOSFET を採用していました。 従来、大電流アプリケーションでは、チャージ・ポンプを必要としないことから、P チャネル MOSFET が使用されてきました。 ただし、P チャネル MOSFET の Rds(on) は入力電圧が低い場合はかなり大きくなり、入力へ向かって流れる逆電流を防止することができません。 この結果、逆静止時電流低減のためターンオフを可能にする追加回路と信号も必要になります。  P チャネル MOSFET を使用する場合の他の欠点については、後ほど説明します。

シンプルな N チャネル MOSFET を使用し、追加の回路を不要にするとともに、ダイオードを使用する場合と同程度の利点を実現しながら、電力損失を低減するにはどうすればよいでしょうか。

スマート・ダイオード・コントローラ、LM74610-Q1 はそうした課題への対応を可能にします。 車内の多くの電子制御モジュールは、車載バッテリに直接接続されており、スマート・ダイオード・コントローラが車載アプリケーションに大きく貢献します。 逆電圧は誤ったバッテリ・ジャンプ・スタート手順に関連して発生する一般的な問題であり、バッテリに接続されているいかなるモジュールも、逆電圧に対する保護が必要です。 車載フロント・エンド・システム向けの代表的なアプリケーション回路を、図 1 に示します。 LM74610-Q1 スマート・ダイオード・コントローラを N チャネル MOSFET やチャージ・ポンプ・コンデンサと組み合わせると、スマート・ダイオード・ソリューションを形成できます。

図 1: LM74610-Q1 スマート・ダイオード・コントローラと N チャネル MOSFET を組み合わせた代表的な設計例。

電流要件の低いモジュールではダイオードの使用が実用的です。しかし、必要な電流が 2 ~ 3A を上回っている場合には、 P チャネル MOSFET を使用して逆電圧条件下で回路を保護するのが一般的です。 しかし、制御回路は複雑で、大電流の P チャネル MOSFET は高価であることから全体のシステム・コストが増加します。 スタート/ストップ・アプリケーションで通常見られる低入力電圧の場合、P チャネル MOSFET では一般的に Rds(on) 値が非常に大きくなります。 ラボ・テストの結果、図 2 に示すように、入力電圧が低い場合は P チャネル MOSFET はショットキー・ダイオードより放熱性能が低いことが確認されています。また、P チャネル MOSFET には逆電流のシャットオフ機能が備えられていません。このため、電圧遮断、ウォーム・スタート、コールド・スタート、スタート/ストップなどの、一般的な車載条件により発生する入力低下でバルク・コンデンサの電圧が低下する結果になります。

  

図 2: スマート・ダイオード・コントローラ( N チャネル MOSFET と組み合わせ)の性能を、P チャネル MOSFET の性能と比較。

OR 接続アプリケーションも、ダイオードまたは MOSFET を使用します。 車載機器では最近、冗長バッテリ接続が採用される傾向が見られます。この場合、通常、ヒューズ付き電源パスを 2 つ使用し、機能安全部品モジュールに接続します。 E-call(緊急通話)ボックスは、通常動作用に車載バッテリの冗長電源接続と、メイン・バッテリへの接続が切断された場合に備えた非常用補助バッテリを内蔵しています。

電流の小さいモジュールは通常、OR 接続でダイオードを使用します。 OR 接続を使用する大電流アプリケーションでは、多くのディスクリート部品と複数の大型パッケージを採用した、より複雑な回路が必要になります。 車載、産業機器は信頼性を重視する必要があるため、設計者は障害発生率の低減のために部品点数とピン数を最小限に抑えようとします。

静止時電流による消費電力を低減する必要のあるアプリケーションでは、入力保護を目的としたグランド基準方式は望ましくありません。 自動車の排出基準が厳しくなり、車載電子モジュールの数が増加するにつれ、燃料消費の増加につながるオフ/オン時の消費電流を低く抑える必要性が高まっています。 通常、各電子モジュールのオフ時には、消費電流を最小 100μA に低減できます。 これは、空港の駐車場に自動車を 2 週間駐車しても、エンジンをスタートできる数字です。

LM74610-Q1 と N チャネル MOSFET を組み合わせると、静止時電流の低減をより適切な形で実現することができます。 この場合は、ダイオードに似た逆極性保護を実現すると同時に、通常極性の条件下では MOSFET に似た性能を実現できます。 LM76410-Q1 は制御信号をまったく必要としないことから、2 端子のデバイスと同じように、グランド基準を採用していません。

グランド基準を採用していないことから、LM76410-Q1 は静止時電流による消費電力を 0 に抑えています。 逆電圧が印加されている場合は、MOSFET のボディ・ダイオードはターンオンせず、LM74610-Q1 がターンオンになることもありません。 通常極性の電圧が印加されている場合は、ボディ・ダイオードが導通し、内部のチャージ・ポンプ回路はダイオード電圧で起動され、MOSFET をターンオンするための電圧を生成します。 定期的に(1% のデューティ・サイクル)MOSFET はターンオフになり、チャージ・ポンプを再充電します。 保護回路では、98% のデューティ・サイクル時に定期的な間隔で 0.6% の電圧降下が発生します。 2.2μF のコンデンサをチャージ・ポンプ・コンデンサとして使用することで、MOSFET は 2.6 秒ごとに約 50ms にわたってオフになります。 図 3 に、LM74610-Q1 のブロック図を示します。

図 3: LM74610-Q1 のブロック図。

ダイオード固有の特性の 1 つは、逆電圧をブロックすることです。その結果、逆電流が発生しません。 スマート・ダイオード・コントローラはこうした動作を模倣し、逆電流が発生する可能性がある場合には、非常に高速なターンオフを実現します(代表値で 2μs)。 逆電圧のブロックは、ISO7637 に準拠した車両試験の際に重要な機能です。 ISO7637 仕様では、電子モジュールが 12V で動作中に、動的に負電圧パルスを印加することを義務付けています。

この逆電圧に対する応答が遅い場合は、出力が負になるか、パルスの発生時にかなりの量の電荷放電が起きる可能性があります。 出力が負になった場合や、コンデンサの電荷が放電された場合は、下流にある電子回路が損傷するおそれがあります。 こうした放電を防止するために、より大きなバルク・コンデンサを使用することもできます。しかし、この場合は基板面積が大きくなり、コストが上昇する可能性があります。 ラボ・テストの結果、スマート・ダイオード・コントローラは P チャネル MOSFET 方式よりかなり高速であることも検証されました。 図 4 に、逆極性に対する高速応答を示します。この結果、図 5 に示すように、4.7μF の小型出力コンデンサを使用する場合でも、ISO7637 の pulse 1 を満たすことができます。

図 4: 逆電圧に対する LM74610-Q1 の応答時間。

図 5: スマート・ダイオード・コントローラ・ソリューション - 4.7μF の出力コンデンサを使用した場合の ISO pulse 1 への応答。 

図 6: スマート・ダイオード実装を使用する場合の小型フォーム・ファクタ実装(8mm x 12mm)。

LM74610-Q1 スマート・ダイオード・コントローラと N チャネル MOSFET を組み合わせると、車載、産業機器で効果的なフロント・エンド逆極性保護が実現し、小電流から大電流にいたるまで広い範囲の電流への対応が可能になります。 図 6 に、100W のソリューションを実現できる小型フォーム・ファクタ(117mm2)を示します。これは、D2PAK ダイオード(180mm2)に対して約 60% のサイズです。

その他のリソース:

 

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

https://e2e.ti.com/blogs_/b/behind_the_wheel/archive/2015/11/16/smart-diode-controller-realizes-the-power-of-zero


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