未来の自動車を想像した場合、おそらくみなさんは自律走行を思い浮かべるでしょう。しかし、私たちの運転の習慣が変わったときに、乗員としてはどのような変化があるでしょうか。両手が自由になり、両足もリラックスさせることができるでしょう。毎日の通勤は、単調で退屈なものから、罪悪感を抱かずに仕事をしたりビデオ・チャットやコンテンツのストリーミングを楽しんだりできする時間に変わるでしょう。

これはコネクテッド・カーにおけるテレマティクスの1つの未来像にすぎず、可能性は無限です。テレマティクスの将来の姿を知るためにも、現在のテレマティクスについて見ていきましょう。

テレマティクスの進化

2000年代初頭に、eCall(自動緊急通報システム)が登場しました。eCallは、安全性と緊急時の支援およびナビゲーション機能を提供するシステムで、ドライバーや同乗者をサポートする次世代テレマティクス・サービスとして大いに期待されています。この技術は主に、欧州のEuropean Commission E112、European Regions Airline Association(ERA)、ロシアのGlobal Navigation Satellite System(GLONASS)、および米国のE911によって推進されました。

2018年3月31日に、欧州連合(EU)はすべての新車にeCallのハードウェアを装備することを義務化しました。この技術はベーシックな携帯電話とナビゲーション・デバイスとしてスタートし、現在は、無線通信でのアップデート、運転行動の予測、他の車両との通信がシームレスに統合されています。

市場の現況

Strategy Analytics社による『Automotive Infotainment Systems Q2 2018 OEM and Aftermarket Growth Drivers Through 2025(2018年第2四半期、2025年までのオートモーティブ・インフォテインメント・システムのOEMおよびアフターマーケットの成長の推進力)』と題するレポートによると、相手先ブランド名製造(OEM)とアフターマーケットのテレマティクス電子制御ユニット(ECU)環境のいずれにおいても、市場は順調な売上成長を示しており、2017年から2025年の間に7.8%の年平均成長率(CAGR)を維持します。その他のインフォテインメント・プラットフォームは、同期間において横ばいまたはマイナスのCAGRとなる可能性があります。この予測で注目すべき点は、OEMとアフターマーケットのテレマティクスのECUのみが考慮され、車車間通信および路車間通信(V2X)、自己診断(OBD)ポートドングルやフリート・マネジメント・システム、補正機能、スマート・テレマティクス・ゲートウェイなどのテレマティクス市場でのトレンドの進展は考慮していないことです。

図1は、主なテレマティクス・ネットワークを示しています。

 1:自動車のテレマティクス・ネットワークの今後

技術の進展のペースにより、5年、10年、15年の市場のトレンドがどのようになるか予測することは困難です。しかし、テレマティクス環境において新たに出現するトレンドを把握することは重要です。

今後の市場

市場は今後どのようになるでしょうか? 現在、市場は新しいタイプのサブシステムで断片化されています。多くの場合、最初に進展するものを知ることは難しく、テレマティクスの環境が先に整うのか、法令あるいはインフラが先かという状態です。

安全なテレマティクス・システムの維持は不可欠です。これらのシステムのトレンドは、テレマティクスのエコシステムへの1つの入口として、クラウドから自動車へのゲートウェイやすべての自動車のサブシステムを接続するインフラのネットワークを作り出すために計画されています。テレマティクス制御ユニット(TCU)はさらに統合を高めて、スマート・テレマティクス・ゲートウェイに進化するでしょう。

インフォテインメント・システムとコネクテッド・カーの収益の見込みとしては、挑戦するスリルは言うまでもなく、テクノロジ・プロバイダによって自社と業界全体の水準が継続的に向上していくことが期待されます。

現在のハードウェア設計における懸案事項

テレマティクス環境では、OEMとティア1企業ごとに独自のハードウェアのバリエーションがあり、非常に多くのTCUの開発方法があります。ただし、確実なことが1つあります。すべてのOEMとティア1企業は同じようなハードウェア設計の問題に直面しています。バックアップ・バッテリ、電力の供給、オーディオ、プロセッサの設計のいずれの場合も、テレマティクス・システムにおける設計には数多くの共通の問題があります。これは、システムが車両のどの場所に配置されるかによって異なります。

TCUの設計時に考慮する点について見ていきましょう。

図2は、緊急通報機能を備えたTCUです。

 図2:緊急通報機能を統合した最新のTCU

eCallシステムが統合されているTCUの一般的な必要条件

必要条件は(ある場合は)地域によって異なります。EUにおける指令では、eCallシステムは以下の条件を満たすことを求められています。

  • 衝突時および衝突後も、自動車のバッテリを使用せずに自動的に動作する。
  • マイナス20°Cやマイナス40°Cといった極端な温度にも耐えられる。
  • 10年の製品寿命期間にわたって8分から10分の通話ができる。
  • セルラー・ネットワークで緊急サービスのコールバックに60分間対応できる。
  • 国際標準化機構(ISO)26262 Automotive Safety Integrity Level(ASIL:自動車安全性要求レベル)の基準Aに適合している。

バックアップ・バッテリ

バックアップ・バッテリは、TCUの設計で最初に行うべきものです。EUの必要条件に基づき、バックアップ・バッテリは6Wから20Wの間の任意の電力のオーディオ電源と、GSM(Global System for Mobile Communications:モバイル通信用グローバルシステム)モジュールからの約2A(名目値350mA)の最大電流をサポートしている必要があります。

バックアップ・バッテリを選択すると、バッテリの科学的構造(一般的なタイプとして、リチウムイオン、リン酸鉄リチウムイオン、ニッケル水素があります)、セルの数や電流供給能力に応じてシステムの他の部分が決まります。また、電力供給経路でバッテリを配置する場所によって、使用する充電器や低損失レギュレータの種類のほか、ブースト・レギュレータの必要性も決まります。

 図3と図4は、異なる充電の構成に基づく、2つの電力供給経路のバリエーションを示しています。それぞれのバリエーションは同じコンポーネント数で同じ働きをしますが、バックアップ・バッテリの選択とバッテリ・チャージャーの能力に基づいて構成が異なっています。

バリエーション1は、低コストでシンプルな設計ですが、複数のブースト・レギュレータを使用しており、サイズと冗長性のトレードオフを余儀なくされています。バリエーション2は、より多くの保護が必要なリチウムイオン・バッテリを使用しますが、セル数は少なくできます。どちらも実現可能な選択肢です。コスト、サイズ、信頼性のすべてが、どちらかを選ぶ場合の要因になります。

 図3:TCUの電力供給経路のバリエーション1

 図4:TCUの電力供給経路のバリエーション2

電源レギュレータ
問題はバックアップ・バッテリだけではありません。電源レギュレータの選択という別の問題もあります。車載用途と同様に、車両外のバッテリ電源は、厳しい温度環境に耐え、広い入力電圧と電磁妨害(EMI)の軽減を維持する必要があります。テレマティクス・システムは、高温が続く車両内(フロントガラス、車室、トランク、エンジン)に配置されます。150°CのIC接合部温度と適切なボードの熱および効率性が求められます。

OEMのロードダンプ、逆極性やコールド・クランキングの条件に応じて入力電圧は異なりますが、通常は4.5Vから最大42Vの範囲です。スイッチング・レギュレータがカー・ラジオのAMおよびFMの周波数帯に干渉することは許されません。そのため、周波数の切り替えは(AM周波数帯より低い)約400kHzまたは(AM周波数帯より高く、FM周波数帯よりも低い)約2.1MHzのいずれかである必要があります。適切なスイッチング周波数、ディザリング/スペクトラム拡散のスイッチング・レギュレータを選択して最適に配置することは、すべて、良好なEMIのパフォーマンスを確保するための重要な要素です。

オーディオ
オーディオ電源は大きく異なります。4W~6Wほどの低電力のシステムを選択する設計者がいる一方で、20Wのシステムを選択する設計もいるかもしれません。消費電力やバリエーション以外にも、一般的な車載での短絡の保護、ロードダンプ、温度に対する保護とモニタリングに加え、オープンおよび短絡の出力負荷、電源出力、接地短絡など、スピーカーの診断と保護はオーディオにおいて非常に重要な機能です。

データ通信
独立型のeCallシステムとTCUの違いは、ユニット外部でのデータ通信です。つまり、データ通信が行われる場合はTCUであり、通信が行われず、基本的に自動車用携帯電話である場合はeCallシステムです。もちろんTCUにもeCallの機能を装備できます。しかし、eCallシ���テムにはTCUの機能を装備できません。

テレマティクス・システム内のデータ、モデム、メモリー・ストレージの統合が進むと、ヘッド・ユニットやセントラル・ゲートウェイへの接続のデータ転送速度が向上します。CANやLIN、そしてUSBによるデータ通信の時代も過去のものになりました。これらの方式はすでに10/100Mbps、さらには1GMbpsの通信に取って代わられています。

将来の展望
コネクテッド・カーの将来については、未知な部分が数えきれないほどあります。テレマティクスは手がかりを提供していますが、技術は私たちが一体となって問題に対応できる速度でしか進歩しません。

これらの新しいトレンドや、OBDドングルのような小規模なアフターマーケットでのテレマティクスの可能性から生まれるもの、および、V2Xシステムのような革新的技術を予測することは困難です。モデム、処理、データ通信のように、最新のTCUとの類似点は確実にありますが、これらのシステムは完全に異なるニッチ市場に該当し、法令やユーザ・エクスペリエンスのような外部要因です。

また、断片化された市場、新しいサブシステム、設計における問題、セキュリティの懸念、インフラのニーズ、法制など、数多くの問題があります。

コネクテッド・カーに対する買い手の期待は高まっているので、大きな収益の可能性があります。OEM、ティア1、ティア2、サービス・プロバイダの各社は、自社と業界全体の水準を向上させる準備ができています。

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著者情報
Hope Bovenz
テキサス・インスツルメンツ
オートモーティブ・インフォテインメント・システム部門システム・エンジニア

※ 2018年9月26日マイナビニュース掲載のテキサス・インスツルメンツ寄稿記事を転載
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