位置センサや近接センサからレベル・センサ、光センサに至るまで、センシング・ソリューションは私たちの周りの世界を検知し、デジタル化して処理するための手段として役立ちます。アプリケーション固有の問題によって数多くの異なるセンシング・テクノロジが生み出されており、システムではさまざまなレベルの精度と多様な条件で周囲の状況を検知できるようになっています。最近のスマート・インフラストラクチャや、ビル/ファクトリ・オートメーション製品におけるインダストリー4.0、自律ドローンのような最新アプリケーションの急増に伴い、センサには、新たな水準のシステム性能と効率性を実現するための原動力として、開発者から期待が寄せられるようになっています。

ミリ波レーダ・テクノロジは、短距離(5cm)から長距離(150m以上)までの検出に対応できる固有の機能を備えており、高速で移動している物体(最高300km/時)の距離、速度、方向を、周囲光や霧、雨、ほこりの影響を受けずに高い精度で検出できるという本来的な性質があります。1は、距離、速度、方向の情報を可視化した例です。

ミリ波テクノロジは自動車業界において大きな成功を収めていますが、その設計者は現在、ビル/ファクトリ・オートメーションのような他の市場への展開という課題に取り組んでいます。そこで問題になるのが、従来のレーダ・システムがディスクリート設計であることから、ハードウェア設計とソフトウェア開発が複雑化し、それが参入障壁となっている点です。

1:駐車場のシーン例においてTI ミリ波センサから得られた距離、速度、方向の情報:背景が青いグラフは距離/速度のヒートマップ(ここで移動中または移動していない物体とその速度を確認できる)であり、背景が緑色のグラフは距離/方向を可視化したもので、色付きの四角は移動中および移動していない車と歩行者を、シーンと各グラフの両方で強調表示しています。

2は、ディスクリートミリ波レーダ・システムの例を示したものです。レーダ処理チェーンには、無線周波数(RF)フロント・エンドとデジタル処理バック・エンドを含む複数の集積回路(IC)部品が必要です。ディスクリート・レーダ・システムでは、プリント基板(PCB)上での高速レーダ・データの伝送方法について十分な注意と検討が必要であり、マイクロコントローラ・ユニット(MCU)などの中央コントローラからすべてのディスクリート部品に制御信号を転送する必要があります。これらのシステムは、外部の電磁干渉(EMI)による影響を特に受けやすく、特定のノイズが多いシステムやさらに厳しい屋外環境向けの設計が難しくなっています。

ディスクリート・レーダ・システムは、ソフトウェア設計者にとっても課題の多い設計対象です。ホストMCUの構成と制御には、各RF部品およびデジタル処理部品への接続が必要となります。変化しやすい状況やアプリケーションのニーズに最適な方法で各部品を制御できるシステムを構築するためには、非常に洗���されたソフトウ��ア設計および開発技術が要求されます。 

2:ディスクリートミリ波レーダ・システムの例。色付きのブロックは、それぞれRFフロント・エンドまたはデジタル処理バック・エンド内の個別のICまたはICのセットを表しています。 

TIのシングルチップIWR1x ミリ波センサ・ポートフォリオには、図3に示すように、強力なARM® マイコンとTIデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)を使用したRF ミリ波レーダ・テクノロジが組み込まれており、ミリ波センシングへの参入障壁を引き下げるシンプルなシングルチップ・ソリューションを実現しています。TIのシングルチップ10mm×10mm IWR1xセンサを利用すれば、ディスクリート・フロント・エンド、アナログ/デジタル・コンバータ、処理デバイス間の複雑な高速データ/通信ルートに対処する必要がなくなり、それらのサポートに関連するサイズ、電力、および部品表の追加コストも不要になります。この集積度はソフトウェア設計プロセスの簡易化にも役立ち、デバイスの構成、監視、較正が非常に簡単になります。 

  

3:ハードウェアおよびソフトウェア設計を簡易化するため、シングルチップミリ波センシングに必要なすべての部品をTIIWR1x ミリ波センサに内蔵。 

ミリ波によるアプリケーションへの影響

液面センシングは、さまざまな化学物質を保管および測定する工場には欠かせない技術です。化学物質は腐食性や毒性を持つ場合があるため、直接的な接触を伴わずに残量を測定する必要があります。ミリ波センシングは、高精度測定に加え、ほこり、煙、極端な温度などの環境条件に対する優れた堅牢性を提供します。IWR1x RFフロント・エンドは直線性が高く、その非常に広い(連続時4GHz、スティッチング時5GHz)帯域幅により、1m~80mの範囲内での、極めて正確なサブミリ単位のタンク内液面測定が可能になります。77GHzレベル・トランスミッタ向け電力最適化設計のリファレンス・デザインには、IWR 1443を、4~20mA電流ループトランスミッタを使用する電力が制限されたシステムで動作するように最適化する方法が示されています。

交通監視インフラストラクチャには、交差点の状況への対処と交通統計データの収集のために車と歩行者について特定の情報とテレメトリ(遠隔測定法によるデータ)を把握し、輸送効率を向上させるという役割があります。ミリ波センサでは、車の位置と速度の両方を測定できるほか、150m以上離れた位置を最大300km/時の速度で移動する物体を検出できます。

ドローンは、愛好家によるレース用から、宅配便や森林管理など、数多くの産業での商業利用に至るまで、さまざまな用途で使われるようになっています。ドローンの設計者の課題としては、安全性の確保とプラットフォームの生産性拡大のために、障害物を検出できるようにすること、および飛行中の最も危険な部分でオペレータによる支援を提供できるようにすることが挙げられます。ドローンには高速物体検出と、100mからセンチメートル単位までに及ぶ距離の追跡機能が必要であり、たとえばドローンが地面に接近するときや、物体の周囲を回るように操作するときに必要になります。ドローンはバッテリ駆動なので、動作時間と積荷を持ち上げる能力を向上させるには、ソリューションを小型かつ軽量にする必要があります。

現在提供されているIWR 1443 BOOSTおよびIWR 1642 BOOST評価モジュールを利用すると、ミリ波レーダ・テクノロジを簡単に評価することができ、距離、速度、方向のデータをさまざまな産業用センシング・アプリケーションで使用する方法も確認できます。評価モジュールをTI提供のmmWaveソフトウェア開発キット(SDK)と共に使用すれば、すぐに使えるデモを実行したり、サンプル・コードを開発向けに数分でカスタマイズしたりすることができます。また、水と地面の識別や、心拍数と呼吸数の非接触測定など、TIの高精度ミリ波センシングおよび処理デバイスの通常用途とは異なる使用方法を紹介するサンプル・ソース・コードも提供されています。

その他のリソース

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/industrial_strength/archive/2017/05/16/bringing-new-intelligence-to-industrial-applications-with-mmwave-sensors

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Anonymous
  • 「ミリ波センサによって産業用アプリケーションに新たなインテリジェンスを導入」では液面センシングでサブミリの測定が可能とあります。

    しかし、液面センシングのホワイトペーパーでは3.75cmの精度と記載があります。サブミリの測定はどのように実現しているのでしょうか?