このスマート・センシング・シリーズの第3回では、状態監視における超音波テクノロジの利用について説明します。

状態監視は、予知保全や先行保全の主な構成要素となっています。状態監視とは、機器の動作における重要な変化を検出することにより、機械または電気システムの動作状態を監視し、障害の発生を防止するプロセスです。状態監視を行うことで、機器の耐用年数を縮めてしまうような状態に対処できます。

状態監視の手法にはさまざまなものがあり、広く利用されているのが超音波テクノロジです。超音波センサは、通常は20kHz~100kHzの周波数範囲に含まれる音圧波を検出します。この周波数範囲内の音波は、さまざまな"不具合症状"から発生します。不具合症状は、注油不足による摩擦の増大などの単純な症状の場合もあれば、ベアリング・レースに対する回転体のこすれや滑り、機械的ひびや劣化した潤滑油によって引き起こされる衝撃などの場合もあります。高速および低速の機械式アプリケーションにおける摩擦や、高圧流体を扱う状況下での漏れといった不具合では、必ず超音波周波数の範囲内の音波が発生します。電気的なアーク放電、トラッキング放電、コロナ放電では電離が生じ、周囲の空気分子をかき乱していて超音波が放射されます。超音波放射の周波数と振幅は、機器の種類によって異なります。

図1は、代表的な超音波検出器の簡単な機能ブロック図です。  

図1:超音波検出器の機能ブロック図

 超音波の波長は非常に短いため、放射される可能性のある場所にマイクやトランスデューサを向けることができます。放射された超音波は、マイクによって電気信号に変換されます。電気信号の周波数は、ミキサによって低い可聴周波数にシフトされます。ローカル発振器の周波数は調整可能です。超音波を可聴信号に変換するために、検査担当者が放射される超音波に合わせて検出器の周波数を調整する必要があります(ラジオのチューニングによく似た操作です)。検査担当者は、ヘッドホンを使って可聴信号を聴きます。さらに正確な診断が必要な場合は、スペクトル分析ソフトウェアによって可聴信号を録音して分析することもできます。

超音波検出器をテスト・ポイントにリモートで設置すると、機器の経時的な監視やリモート監視(またはその両方)を行うことができます。多くの産業用アプリケーションでは、4mA~20mAの電流ループにより、長いケーブルを通してデータが伝送されます(図2は代表的なループを示しています)。ループは、センサ/トランスデューサ、電圧/電流コンバータ(一般にトランスミッタや信号コンディショナーと呼ばれます)、ループ電源、レシーバ/モニタという4つの個別の素子で構成されています。多くのアプリケーションでは、センサと電圧/電流コンバータが同じパッケージに搭載されています。センサは測定対象の物理パラメータを表す値である電圧を出力します。トランスミッタはセンサの出力を増幅および調整し、その電圧を比例する4mA~20mAのDC電流に変換します。このDC電流は閉ループ内を循環します。レシーバ/モニタは追加の処理や表示(またはその両方)のために4mA~20mAの電流を電圧に戻します。通常は、この電流ループからセンサの電源も供給されます。4mA~20mAの電流ループを正しく機能させるために、センサの消費電流は3.2mAに制限されています。

図2:4mA~20mAの電流ループの機能ブロック図

電子機器や機械装置から放射される超音波の周波数範囲は20kHz~100kHzに及びますが、従来型の超音波検出器では、単一の周波数を中心とする情報のみが収集されて処理されます。このため、早期の機械的/電気的障害に起因する超音波放射の変化を検出するための検出器の能力が、大幅に制限されます。アーク放電やコロナ放電による損傷の防止を目的として、電気的スイッチまたはトランスでの部分帯電状態を検出する場合を、例に取って考えてみましょう。停電による経済的損失を減らすためには、誤警報率を低くしなければなりません。この目標を達成するには、監視システムにより、1つの周波数ではなく、超音波の周波数帯全体で超音波放射を調べる必要があります。そのため、次はこのような超音波検出器の動作原理と信号処理について説明します。

図3は、超音波検出器の概念を表した機能ブロック図です。 

図3:超音波検出器の概念を表した機能ブロック図

広帯域の微小電気機械システム(MEMS)マイクで超音波信号を拾います。アナログ/デジタル・コンバータで適切にサンプリングできるように、まずアナログ電気信号を増幅してから、ローパス・フィルタ処理を行います。サンプリング周波数は、超音波信号の周波数範囲をカバーできる高さにする必要があります。超音波の全帯域幅を経時的に監視するため、このシリーズの第1回(ガラス破損検出器についての回)で説明した短時間高速フーリエ変換(FFT)手法を採用しました。

入力データを短い期間に分割することで、FFTアルゴリズムによって各期間のスペクトルを計算しながら、信号スペクトルが時間の経過に伴いどのように変化するかを調べることができます。この短い期間は、最も低い対象周波数をカバーできる長さにする必要がありますが、これが長すぎると、期間内の信号が統計的に"変化のない"状態になってしまいます。短時間FFTで計算されたスペクトルの経時的な変化の例が、ガラス破損検出器に関するブログの図2に示されています。

このデータを使用して、広帯域幅にわたる超音波放射の経時的な変化を調べることができます。監視システム・ソフトウェアでは、複数の周波数を同時にトラッキングすることにより機器の動作をより全体的に把握できるため、検出確率は上昇し、誤警報率は低下します。もはや検査担当者が周波数を調整する必要はありません。

センサでは、引き続き従来の4mA~20mAの一方向電流ループを使用し、中央コンピュータに状態データを渡すことができます。データ・ログやセンサ構成の処理には、より高速なRS-485などの双方向インターフェイスやワイヤレス・インターフェイスが必要です。

TIのMSP 430FR5994コントローラを、前述したようなシステムの実装用プラットフォームとして活用する方法について、重要な点を以下に示します。

  • 代表的な20kHz~100kHzの超音波周波数範囲をカバーするため、アナログ/デジタル変換のサンプル周波数は200kHzまで上げる必要があります。MSP 430FR5994オンチップ12ビット・アナログ/デジタル・コンバータ(ADC)は、このアプリケーションをサポートするために必要な200KSPSで動作できます。MSP 430FR5994ダイレクト・メモリ・アクセス(DMA)コントローラは、中央処理装置(CPU)の介入なしでデータをADCからメモリに移動し、定義済みのデータ・ブロックの転送後に処理を実行するようCPUに通知することができます。
  • 放射される音の経時的な変化は、ガラス破損検出器にも使用した短時間FFT手法を使って検出できます。
  • 512個の入力サンプルがA/Dコンバータにより2.5msの期間にわたって収集された場合、512ポイントの実数FFTでは最大100kHzのスペクトルが400Hzの分解能で生成されます。ガラス破損検出器の記事で説明したように、低エネルギー・アクセラレータ(LEA)モジュールが16MHzで動作している場合、512実数ポイントFFTにかかる時間は約1msだけです。これに加え、データの移動とウィンドウ処理のオーバーヘッドとして、0.5msのLEA時間と0.5msのCPU時間が必要になります。
  • アプリケーションで連続検出が必要な場合は、短く分割した各期間中にスペクトルを調べるため、1msのLEA時間と2msのCPU時間が必要になります。LEAの消費電流は67µA/MHz、CPUは100µA/MHzです。16MHzで動作し、デューティ・サイクルが100%の場合、MSP 430FR5994は約2.7mAを消費します。これは、4mA~20mAのループによって要求される制限の範囲内での値です。アプリケーションで25msごとに測定を行う必要がある場合、平均消費電流は300µA未満となります。
  • 短時間FFTの出力を検査する方法はさまざまで、ニューラル・ネットワークもその1つです。目標は大きな変化を検出することなので、アルゴリズムは単純なものにする必要があります。MSP 430FR5994 MCUには、高速読み取り/書き込み機能を備えた256KBの強誘電体ランダム・アクセス・メモリ(FRAM)が内蔵されているため、ニューラル・ネットワークの実装とトレーニングが簡単になります。

このブログ記事では、状態監視アプリケーションにおける超音波テクノロジの利用と、検出確率や誤警報率の改善につながる可能性のある概念について簡単に紹介しました。また、TIのMSP 430FR5994 MCUを使用した実装の実現可能性についても、性能と消費電力の観点から説明しました。設計に役立つような有益な情報は得られたでしょうか?

その他のリソース

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/industrial_strength/archive/2017/04/27/smart-sensing-with-ultra-low-power-mcus-part-3-ultrasonic-sensing-in-condition-monitoring

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